【特集「乗るなら今だ!心昂る、V8エンジン」④】「カウントダウン」が始まっている今だからこそ、乗らなければ後悔する「痛快無比!なディフェンダー」

大きなSUVやセダンでも小排気量化や電動化により効率を高めることに注力することが多い昨今。ランドローバーはあえて5L V8スーパーチャージドエンジン搭載モデルを追加した。このV8エンジンは、本格クロカンの走りと乗り味をどう演出しているのか?

現行型を前に思い出されるお手製V8ディフェンダー

ディフェンダーのエンジンラインナップが一段と充実した。

ボディカラーがオールブラックだったこともあり、V8モデルだけに備わる4本出しの排気口の存在感が際立っている。

110と90にパワフルな5L V8スーパーチャージドエンジンが設定されたほか、90にはストレート6の3Lディーゼルターボを追加。この結果、110と90の両方に3種類のエンジン(直4ガソリン、直6ディーゼル、V8ガソリン)が用意され、6気筒ディーゼルターボを積む130と合わせて計7タイプ、総勢18グレードという豊富なラインナップから好みの1台が選べるようになったのだ。

ファンにとってこれが嬉しいニュースであるのは間違いのないところ。とりわけV8モデルのリリースは、ダイナミックな走りを期待する層に歓迎されるはずだ。

V8を積んだディフェンダーといえば、私には懐かしい思い出がある。その昔、イギリスの好事家の間で、先代ディフェンダーにチューンナップしたアメリカンV8を搭載することが流行った時期があったのだ。

タンカラーのインテリアは落ち着いた雰囲気。助手席側インパネのレザー部分はハンドグリップの機能も兼ねた形状となっている。

私も知人が所有する1台を運転させてもらったが、いかにもオフロード車然としたディフェンダーが信じられないようなペースで走る姿は痛快そのもの。つまり、まだ高性能SUVというものが存在しなかった当時、愛好家は自分たちの手で欲しいクルマを作り出していたのだ。

ここで少し謎解きをしよう。

読者諸氏の中には「あれ、ジャガー・ランドローバーって全面的にBEV化するんじゃなかったっけ?」と疑問を抱いた向きもいるはず。たしかに、グループ内のジャガーは来年、つまり2025年より“ピュア エレクトリック ラグジュアリー ブランド”に向けた変革に着手し、全モデルをBEVとする方針を明らかにしている。

しかしランドローバーについては2024年に最初のBEVを投入するとしているだけで、全面的にBEVに切り替えるタイミングについては明言していない。つまり、ランドローバーからエンジンを積んだ新型車が登場する可能性は、今後もまだ残されているのだ。

走れば5L V8の搭載は正解だと実感できる

また、ランドローバーの動向に詳しい人なら「レンジローバーにはBMW製の最新4.4L V8を積んでいるのに、なぜディフェンダーにはそれより古い自社製の5L V8を選んだのか?」と思うかもしれないが、実はディフェンダーV8がイギリス本国で発売されたのは2021年で、レンジローバーよりひと足早かった。

従来の2L 直4ガソリンターボが300ps/400Nm、3L 直6 ディーゼルターボ(MHEV)が300ps/650Nm。それに対して、新設定の5L V8+スーパーチャージャーは525ps/625Nmと、圧倒的なポテンシャルアップを実現している。

「だから旧型を積む以外になかった」と捉えることもできるが、実際にステアリングホイールを握れば、BMW製V8よりも自社製V8のほうが、このクルマにマッチしていることに気づくだろう。

その鍵を握るのは、過給器がスーパーチャージャーとされている点にある。クランクシャフトとメカニカルに連結された一種のポンプによって空気を強制的に圧縮。これを混合気としてシリンダーに送り込むのだから、爆発的なパワーが発揮されるのは当然のことである。

しかもターボチャージャーと違って過給圧が高まるのを待つ必要がないので、まるでレーシングエンジンのように瞬時にトルクが立ち上がってくれるのだ。あたかも、私が30年近く前に英国で体験した「チューンド・ディフェンダー」を髣髴とさせるかのように・・・。

しかし、愛好家の「手作りディフェンダー」と大きく異なるのはその足まわりで、路面からのコツコツというショックは巧みに吸収するのに、ピッチングやローリングといった姿勢変化を的確に制御してハードコーナリングも軽々とこなすうえ、姿勢が安定しているから正確なハンドリング特性を維持してくれるのだ。

エンジン車が生き残るチャンスは・・・まだ、ある?

ピッチングが過大なためアンダーステアやオーバーステアに陥ることが多かった往年の「ディフェンダーV8」とは、この点がまるで異なる。もちろん、新型は内外装のデザインが洒落ていてクオリティ感も高い。これもまた、この30年間で大きく進化した点といえる。

後席頭上まで広がる開閉可能なグラスルーフと荷室ルーフ両脇の小窓により車内は明るく開放的だ。

話を電動化に戻せば、2030年代のどこかのタイミングで各国の自動車メーカーはBEV化に向けて大きく舵を切ると予想される。

それまでまだ10年前後の時間が残されているが、ブランドによっては自分たちの先取性を強調するために早めにBEV化を進めたり、別のブランドは自分たちのキャラクターがBEVとはマッチしないとして、できるだけ先延ばしにしようとしている。

この辺の事情は市場やセグメントによって大きく異なるので、「ある年を境にして全世界の自動車メーカーが一斉にBEV化する」という状況にはならないと予想される。

とはいえ、タイムリミットは確実に迫っている。エンジン車が生き延びる数少ないチャンスは大気中のCO2から生成するeフューエルが実用化されることにあるが、その成否もまた、神のみぞ知る領域にある。つまり、エンジン車好きにとって「未来は明るい」と必ずしも言い切れないのが、悲しい現実なのである。

しかし、いまならまだ個性豊かなエンジン車が手に入る。その幸福を噛み締めながら、今後の動向を注視することにしたい。(文:大谷達也/写真:村西一海)

ランドローバー ディフェンダー 110 V8 主要諸元

●Engine
型式:508PS
エンジン種類:V8DOHCスーパーチャージャー
排気量:4999cc
エンジン最高出力:386kW(525ps)/6500rpm
エンジン最大トルク:625Nm(63.8kgm)/2500-5500rpm
燃料・タンク容量:プレミアム・90L
WLTPモード燃費:7.0-6.8km/L
CO2排出量:320-333g/km
●Dimension&Weight
全長×全幅×全高:4945×1995×1970mm
ホイールベース:3020mm
車両重量:2450kg
荷室容量:972/2277L
●Chassis
駆動方式:4WD
トランスミッション:8速AT
サスペンション形式 前/後:ダブルウイッシュボーン/マルチリンク
ブレーキ:Vディスク
タイヤサイズ:275/45R22
●Price車両価格:15,880,000円

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