「啞然とする」人種差別疑惑のインテルDFが“証拠不十分”で無罪。ナポリ側は憤慨「驚きの決定。非常に疑わしい」

人種差別発言があったかどうか、証拠はない。だから処分には至らなかった。

3月26日、ナポリのファン・ジェズスに人種差別発言をしたとして問題となっていたインテルのフランチェスコ・アチェルビに無罪の判決が下された。ナポリ側は怒りをあらわにしている。

発端はインテルとナポリが1-1で引き分けた17日のセリエA第29節だ。ファン・ジェズスは試合中にアチェルビから人種差別を受けたと抗議。主審をまじえて選手同士が話し合い、プレーが続行されていた。

試合後、ファン・ジェズスはアチェルビから謝罪されたとし、「ピッチでのこと」にとどめると話した。しかしその後、アチェルビが人種差別発言を公に否定したのを受けて態度を硬化させる。

ファン・ジェズスはアチェルビから「うせろ黒人、お前はただのネグロだろ」と言われたと主張。さらにアチェルビが謝罪した際、「自分にとってネグロはほかと同じ罵倒の言葉」と口にしたとも訴えた。

だが、現地メディアによると、アチェルビは「Nero」(イタリア語で黒、「黒人」の意も)と口にしたが、「お先真っ暗にしてやる」といったニュアンスの挑発発言だったと主張。人種差別を否定していた。

人種差別が認められた場合、最低10試合の出場停止処分が科される可能性があり、厳罰処分ならインテルがアチェルビを放出かもしれないと報じられるなど、事態は緊迫。両選手の聞き取り調査を経ての判決には、大きな注目が集まっていた。

そして結果は「証拠不十分による無罪」。これにより、アチェルビはセリエA次節から出場できるようになった。一方、ファン・ジェズスはインスタグラムのプロフィール画像を、天に突きあげた拳の白黒写真に変更している。ブラック・パワーの象徴で、無言の抗議と言えるだろう。
【画像】ナポリDFが無言の抗議
黙っていなかったのは、ファン・ジェズスを擁するナポリだ。公式声明で「啞然とする」と激怒。「うわべだけの発案にはもう応じない」と、人種差別撲滅を目指すリーグのキャンペーンなどには同調しないと宣言した。

「これまでずっとそうだったように、決意と確信を新たに自分たちだけで続ける」

セリエAでは次節、「Keep racism out」のパッチがユニホームにつけられるなど、人種差別撲滅キャンペーンが続けられる予定だが、ナポリはこれに従わずに独自の行動をとるかもしれない。『Gazztta dello Sport』紙によると、その場合も罰金などの処分は科されないとのことだ。

また、同紙によれば、ナポリ市長も「非常に驚く決定」と不満を表している。

「ファン・ジェズスは非常にまじめで素晴らしいプロフェッショナルだ。その彼のピッチでのリアクションが、でっち上げなどあり得ない。そういう侮辱があったと思う。確実な証拠がないというのは非常に疑わしい」

スポーツ裁判としてはアチェルビの無罪で終了となるが、27日付のGazztta dello Sport紙によると、ファン・ジェズスが刑事事件として告発する可能性や、イタリアサッカー連盟のガブリエレ・グラビーナ会長が何かしらの対応に動く可能性もあるという。

人種差別が言語道断であることは言うまでもない。一方で、証拠なしに裁くことへの議論もある。アチェルビとファン・ジェズスの件は、これで終わりとなるか。それとも、さらなる展開があるのだろうか。

構成●サッカーダイジェストWeb編集部

© 日本スポーツ企画出版社