高橋優インタビュー「幸せじゃないから音楽があって良かったなって思えるというか。でもどうなんでしょうね。皆さんは」

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自身初となる全国47都道府県弾き語りツアー 2023-2024「ONE STROKE SHOW〜一顰一笑〜」真っ最中の高橋優から新曲「キセキ」が届いた。美しく強いメロディに高橋らしいメッセージが込められた楽曲の根底にあるものとは? 歌うことから逃れられない宿命について、真摯に語ってくれたリアルタイム・インタビュー。

高橋優に解散はないんだなって(笑)

――47都道府県をめぐる弾き語りツアーの真っ最中ですが、途中声帯炎での療養のニュースがありびっくりしました。

青森、宮城と続けてライブをやって、終わった後に喋り声も出ないくらいだったんですけど、一週間療養して完全復活しました。

――ちょうど宮城と茨城の間が10日ほど空いてたんですよね。

そうなんですよ。だからツアーを飛ばさずに済みました。でも療養している期間は不安でしたけどね。本当に声が戻るのかなって。

――LINE CUBE SHIBUYAのライブを拝見したら、その心配はまったく杞憂でしたね(笑)。いつも以上に声が出ているように感じられました。

ありがとうございます。療養期間で発声方法を見直すこともできましたし、そういう効果もあったのかなと思いますね。あと、僕は普段ホールでのライブだったらイヤモニをつけているんですけど、今回のツアーは弾き語りということもありますし、つけてないんですよ。だから各都道府県のホールの鳴りの違いがめちゃくちゃよくわかるんです。同じセットリストでやっていてもぜんぜん違うんですよね、感覚が。例えば今、取材をしていただいているこの部屋で声を出すのと、どこかの温泉で声を出すのとでは響き方が違うじゃないですか? それくらい違うんですよ、ホールによって。この会場響くな〜とか、ディレイ(音の返り)がすごいな〜とか。LINE CUBE SHIBUYAは2日間あったので、1日目と2日目でもまた違ったんですよね、僕の音の感じ方が。

――というと?

1日目に感じたことを踏まえて2日目にトライできたということですね。それができるのは今回の日程では東京だけだったので、そういう意味でもLINE CUBE SHIBUYAの特に2日目はまた違った感覚でやれましたね。デビューして14年くらい経ちますけど、今こういうことをやらせていただいているっていうのはすごく幸せかもしれないなって思います。

――47都道府県をまわるということに対しては、いつかやってみたいとか、憧れみたいなものがあったりしたんですか?

ちょっとありましたね。キャパシティへの憧れってよく言われるじゃないですか。ドームでやりたいとかアリーナでやりたいとかって。もちろんそれもひとつの目標として素晴らしいことだと思うのですが、僕個人としては、いろんな人に会いに行けるとか、いろんなところでやれるっていうことへの憧れも一方では強くあるんですよね。まだ秋田の高校生だった頃、家の裏にある雪山でタヌキ相手に歌ってたときから漠然と、こんな雪なんか降らない暖かい地域でたくさんのお客さんが拍手してくれているっていうイメージを持ちながらやっていたので、47都道府県を弾き語りでツアーできるっていうのは原点的な夢としてずっとありました。しかも今回、例えば石川県だったら金沢ではなく小松とか、高知県だったら土佐清水とか、いわゆる県庁所在地ではないところにあるホールが多いんですよね。それはツアースタッフの皆さんが話し合ってそういうふうにしてくれたんですけど、いろんなところに行けるっていう意味ではすごくうれしいですね。

――弾き語りというスタイルは、もちろん高橋さんにとってそもそもの最初からある大切なものだと思うのですが、今の弾き語りスタイルというのはデビューしてからいろいろなことを経験したうえで、また違うものになってきているという実感があったりしますか?

最初の頃からの延長線上ではあるんですよ。もちろん。でも、一昨年かな、僕が毎年9月に秋田でやっている「秋田 CARAVAN MUSIC FES」に川崎鷹也くんが出演してくれて、そのとき彼は、他の名だたる出演者の方々がバンドセットでパフォーマンスをするなか、たったひとりで弾き語りをやり切ったんですよ。しかもトップバッターで。それを見たときに、かっこいいなって思ったんですよね。それと同時に、人のことかっこいいって思ってる場合じゃないだろって(笑)。僕は基本的にはバンドが好きなんです。だから弾き語りツアーというのはそれまであまりしてこなかった。でも、バンドでやってきた経験も踏まえて弾き語りを集中的にやったらどうなるんだろう?っていうふうに思ったんですよね。

――原点回帰ではありつつも、また違うものになるかもしれないと。

そうですね。もしかしたらそれはお客さんもそうなのかもしれないっていうことも思いました。今回のツアーをやっていくなかで感じているのは、とにかくお客さんの盛り上がりがすごいんですよ。もし仮に、僕がずっと弾き語りだけで、あるいは弾き語りを中心にライブをやっていたとしたら、そういうふうなノリにはならないんじゃないかなと。そこはやっぱりお客さんも含めて、いろんなスタイルでやってきたこれまでの高橋優が還元されている証拠なのかなと思いました。

――だからこそ感じられる弾き語りの大切さというのもあるわけですよね。

ある意味、自分から逃れられないというか。高橋優に解散はないんだなって(笑)。弾き語りというのはそれくらい自分に密接したもので、それをやめるときは死ぬときですよね。

自分が何を感じてもそれを伝えたいって思ったら歌にする

――弾き語りが当たり前のものとして高橋さんの音楽スタイルとしてある、だから大切なんだ――その捉え方が最新シングル「キセキ」で描かれているテーマに通じていると思いました。

そうですね。世の中を見渡したときに僕が感じるのは、当たり前というのがすごく揺らいでいるなっていう気がするんですよ。だからある種決意を持ってこの歌を歌いたいと思いました。

――これは僕の感じ方なんですけど、この曲は美しいし優しいのですが、底の方に静かな怒りみたいなものがあるような気がするんですよね。

今自分がこの世の中に対して感じているひとつの違和感を挙げるとすれば、いろんなことにみんな怒ってるじゃないですか。ちょっと前まではなかなか怒れなかったけど、今はSNS上で感情のまま怒りを吐き出すことができるようになって、それを喜んでいる人が多いと思うんですよね。誰かが何かカチンとくるようなことをして、それに対して誰かが「カチンときました!」って言っているのが今の段階だとすると、それはまだちょっと微笑ましいというか。これがもっと先に進んだら、何かに反応して怒ることにも飽きて無関心になって、よっぽどのことじゃない限り驚いたり怒ったりしなくなってしまう。そうすると、注目されたいがためにその“よっぽど”をわざと起こすような事態が出てきて、そんなことになれば限りなく悲惨な結末に向かうのではないかと簡単に想像できますよね。だから結局怖いのは無関心なんですよね。それって「キセキ」で歌ってることの真逆なんです。

――当たり前のものを当たり前だって放っておくのではなく、当たり前だからこそ尊いんだって感じられることが「キセキ」なのだと。

まさにそういうことですね。だって、死んだ人が生き返ることはないんですから。そんな奇跡はないんですから。

――高橋さんは、一貫して怒りを表現してきていると思うのですが、過去に比べて今は怒りを表現しにくいと感じることはありますか?

いや、それはないですね。レコード会社の人たちとかは、もしかしたらそうなのかもしれないですけど。つくる方には別にやりにくさはないです。

――怒りというのは高橋さんにとって重要な創作の種であると言えますか?

そうではあるんですけど、ただ……ろくなもんじゃないですよ、怒るのなんて(笑)。できたら怒らずに、そんな歌なんて歌わずに静かに暮らして行けたらどれだけいいだろうって思いますもん。だから呪いですよ。僕は歌というものに呪われているんだと思います。もちろん歌はやりたいことなんです。でもやりたいことが見つかってしまった人は幸せであり、一方で魔法だか呪いだかにかかった人だと僕は思っているんですよ。だって、そこから離れられないんですから。僕は何が起こってもそれを歌にするし、怒りだけじゃなく自分が何を感じてもそれを伝えたいって思ったら歌にするってことからもう逃れられないんです。ただでさえ、歌を歌おうなんて思ってると、自分にはこんな考えがあるとか、こんな思いがあるんだとか、自分を見てほしいっていう、ろくでもない感情がいっぱいあることに気づかされるんですよ。でもそれはやっぱり僕自身が音楽に救われてきているからだし、落ち込んだときに聴いたり、納得いかない気持ちに寄り添ってくれたのが音楽だったからなんですよね。めっちゃ幸せー!っていうときにべつに音楽がかかってなくても幸せじゃないですか。ぜんぜん幸せじゃないから音楽があって良かったなって思えるというか。でもどうなんでしょうね。皆さんは。

――やっぱりどうやっても満たされない何かを埋めてくれるのが音楽をはじめとした表現なのかもしないですね。

そう思いますね。僕が音楽をつくりたいとか歌いたいって思うときは、やっぱり何かを訴えたいとか伝えたいっていうときなので、幸か不幸かそれはデビュー前から何ひとつ変わってないですね。

言葉がちゃんと聴こえてくる曲を書きたい

――「キセキ」は「news23」のエンディングテーマとして書き下ろされたわけですが、純粋な創作の出発点としては、どういうところからだったんですか?

実はこの曲の種になっているものが、かなり前からあったんですよ。メロディラインとか、漠然とでしたけど春夏秋冬のことを歌うっていうモチーフのようなものがずっとあって。それを長いあいだ曲にしていなかったんです。で、今回タイアップのお話をいただいたときに、これがいいかもしれないと思って、あたためていたモチーフに肉付けしていったという感じです。だからさほど難航もせずにできましたね。おそらくずっと頭のどこかで考え続けていたんでしょうね。例えば曲の冒頭の部分、当たり前に思ってることを当たり前に伝えるのって難しいよねっていう感じとか。

――季節の移ろいがモチーフのなかにあったというのは、そこにどんな思いなりイメージがあったのでしょうか?

10年くらい前にこの曲の種を思いついたときは、単純に美しい曲を書きたいって思ってたんですよ。で、そのときから時間が経って、改めて春夏秋冬を思ったときに、感じ方が少し変わっていたというか。要するに春夏秋冬がなくなってきているなっていう実感をより強く持つようになっていたんですよね。だから春夏秋冬が出てくる部分はあえて歌詞を変えずに2回使っているんです。

――なるほど。

みんな、あんまりそこを声高に言ったりしないのを不気味に思うくらい僕はずっと引っかかっていて。四季の違いがはっきりしていたのが日本の良さだったのに、このまま季節の境目が曖昧になっていったり、それに伴って豪雨とかそういう問題に直面することが増えていったらいったいこの先どうなっちゃうんだろうって不安になったりするんですよね。あと何十年後かに「春ってなんだっけ?」みたいなことになったら嫌じゃないですか?(笑)。そう考えると、デビュー前につくった「こどものうた」もそうだったんですけど、あのときみたいに、え!?っていうようなニュースを見て書き出したっていうテンションと変わらないんですよね、この曲も。今はまだかろうじて春夏秋冬はあるけど、とか、大切な人は今、目の前にいるけど、とか、その何もかもが今しかないとしたらどうする?っていう……危機感とも違うんですけど、なんだろう、何かあるんですよね、そこに対して。

――そうした思考に対してメロディはどういうふうにアプローチをしていったんですか?

かなり考えて今ある形になっているんですけど、どっちかっていうと喋っているのに近い感覚というか、言葉がちゃんと聴こえてくる曲を書きたいって最近改めて強く思っていて。歌詞カードを見なくても歌詞が聴き取れる曲って今どれくらいあるんだろう?って、たまに思うときがあって。もちろんいっぱいあるんでしょうけど。個人的な思いとしては、歌詞が耳からちゃんと届く曲を書きたいなって思いました。だからメロディに関しては、あんまり緻密にしすぎたり、譜割を複雑にしたりすると言葉って届くのが難しくなるから、できるだけメロディラインもシンプルにすることを心がけました。だからサビのメロディ――ここが春夏秋冬の部分なんですけど――いつかみんなで歌えるっていうイメージがあるんですよね。

――アレンジもそのような考え方に基づいているんですか?

アレンジャーは宗像仁志さんで、これまでで言うと、「ever since」とか「PERSONALITY」とかのアレンジをやってもらっていて、どっちもバラードチックではあるんですけど、一癖あるアレンジをしてくれるんですよ。で、「キセキ」のような曲を宗像さんがアレンジしたらどうなるんだろうって思って、宗像さんに「スタンダード・バラードにしてください」って注文させていただいたんです。アレンジに対して、僕はかなり細かく注文することが多いんですけど、今回は高橋スタンダードと宗像スタンダードの合作といった感じですね。

――でも、スネアドラムの小刻みな感じとか、ちょっと普通じゃないところはありますよね。

そうなんですよ。宗像さんのそういうところが好きなんですよね。

――「キセキ」は現在行われている弾き語りツアーでも披露されていますよね。よりシンプルな形で届けることは、この楽曲の成り立ちや思いをお聞きした後では、必然だったのかなと思うのですが、そのあたりはいかがですか?

そうですね。ただ、新鮮ではありましたね。リリース前からツアーでは披露していたので。初めて聴く人ばかりの前で、どんなふうに演奏しようかなって結構考えたりしました。

――最後に、9月21日(土)・22日(日) の2日間にわたって開催される「秋田CARAVAN MUSIC FES」についてお聞きします。改めてこのフェスは秋田県内にある13の市をめぐるキャラバン方式のフェスになっているわけですが、能代市で開催される今回で7回目を迎えます。半分過ぎましたね。

まだまだですね。途中コロナで2年間中止になったりしましたから、これからも何があるかわかりませんが、最後までやり遂げたいですね。

Text:谷岡正浩 Photo:吉田圭子 スタイリスト:上井大輔 ヘアメイク:中込奈々(Octbre.)

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<リリース情報>
高橋優 デジタルシングル「キセキ」

配信中
https://takahashiyu.lnk.to/Kiseki

<ライブ情報>
高橋優 初の47都道府県弾き語りツアー 2023-2024「ONE STROKE SHOW〜一顰一笑〜」

詳細はこちら:
https://fc.takahashiyu.com/feature/one_stroke_show

チケット:指定席8,800円(税込)
https://w.pia.jp/t/takahashiyu-tour23-24tcigy/

「秋田CARAVAN MUSIC FES」

9月21日(土)・22日(日) 秋田県能代市

イベント公式サイト:
https://acmf.jp/2024/

高橋優 公式サイト:
https://www.takahashiyu.com/

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