【袴田さん再審】巌さん釈放から27日で10年の節目に迎えた裁判最大の山場…その行方は(静岡地裁)

袴田巌さんの再審=やり直しの裁判が最大の山場を迎えています。犯行着衣とされる衣類についた血痕の色をめぐり、検察側と弁護側双方の証人尋問が3日連続で行われました。袴田さんが釈放されて27日で10年。裁判の行方は…。

1966年、旧清水市で一家4人が殺害された事件で死刑が確定した袴田巌さん。2023年10月から始まった再審公判で検察側は「犯人はみそ工場関係者の袴田さんで、犯行着衣の5点の衣類をみそタンクに隠した」などと袴田さんの有罪を主張。一方、弁護側は「5点の衣類」が、事件から1年2か月後にみそタンクから発見されたが、衣類についた血痕に「赤み」が残っていて不自然と主張。独自のみそ漬け実験や専門家の鑑定書をもとに「血痕は1年以上みそ漬けすると黒くなる」と訴え、赤みのある血痕がついた衣類は、「袴田さんを犯人にするために捏造された証拠だ」と訴えています。最大の争点となっている血痕の色の問題。

26日は弁護側の証人尋問が行われ弁護側の3人の専門家は「1年以上みそ漬けされた場合、 血痕に赤みは残らない」と断言。法医学者の清水教授は検察側が新証拠として提出した法医学者7人の鑑定書について「抽象的な可能性論を繰り返して いるだけで、仮設の域を出ていない」と主張しました。26日の公判が終わったあと、会見に臨んだ袴田さんの姉、ひで子さんは…。

(袴田 ひで子さん)

「大詰めっていうのもあれだけど反対尋問は素晴らしかった。」「(弁護側の証人は)赤みが残るかどうかで赤みが残らないと的確に答えているし検察は赤みが残ると一生懸命引き出そうとしていた」

(小川 秀世 弁護士)

「検察側の証人はまどろっこしいというか、言い訳からはいったり尋問者から聞いたり質問に対する答えを明確に答える姿勢がなかったと思う」「今回の尋問によって袴田さんの無罪判決の確信をますます強めたという印象です」

そして証人尋問最終日の27日。

(佐野 巧 記者)

「第12回公判に向け多くの支援者に見送られ弁護団が静岡地裁へ入ります」

27日の審理は検察側と弁護側の専門家 計5人の証人へ同時に尋問が行われました。

“同時尋問”で裁判官が、「1号タンクに1年2か月みそ漬けされた場合、血痕に赤みが残るか」質問し、弁護側の証人3人は、「考えられない」などと否定。法医学者の清水教授は「当時の状況は再現不可能だが科学的に推論すると、実験から血痕は黒くなると考えている」と話しました。

一方、検察側の証人2人は「条件次第では赤みが残る」と主張。法医学者の神田教授は「当時の条件がわからず、可能性がないとは言えない。」と話し「血痕に赤みが残ることはない」と断言する弁護側の証人に対し「科学は断言することは簡単にはできないため違和感がある」と反論しました。

次回の公判は4月17日に開かれる予定です。

袴田巌さんですが、静岡地裁で初めて再審開始決定が出て釈放されてから、27日でちょうど10年となりました。88歳となり、体力面など少しづつ変化が出てきています。

静岡地裁での再審公判が最大の山場を迎える中、袴田巌さんの姿は自宅のある浜松市にありました。88歳となった袴田さん。姉のひで子さんや支援者は

精神的な負担を考えて、日頃 裁判や事件のことを一切、伝えていないため、散歩に出かけるなど普段通りの一日を過ごしていました。

1966年、旧清水市で、勤めていた みそ会社の専務一家4人を殺害したとして逮捕された元プロボクサーの袴田巌さん。ちょうど10年前の3月27日、静岡地裁では…。

(リポート)

「再審開始、再審開始」

裁判のやり直しが認められ袴田さんが釈放されました。48年間ぶりに訪れた平穏な生活でしたが、自宅内を毎日何時間も黙々と歩き続けるなど異様な行動が見られました。長年の拘禁生活と死刑への恐怖が精神をむしばみ、妄想的な言動をするようになっていたのです。

(袴田 巌さん)

「国会に世界を呼んで、死刑廃止を決定しました、私が決定して、人間が人間を殺すということが、国家権力がこれは罪があると」

姉のひで子さんは、釈放されたばかりの頃を今でもよく覚えているといいます。

(袴田 ひで子さん)

「一番最初は能面みたい表情はなかった。笑いもしなければ怒りもしない。悲しいだかうれしいだかわからん。拘置所から出てきてうれしいはずなのに、それがうれしい、表情がなかった。そりゃ48年も拘置所に入っていて、独房の一人しかいないところでさ。その苦労というのは想像を絶するものだと思う」

釈放後から袴田さんが日課にしているのが日中の散歩です。10年ほど前は1日5時間以上街中を歩き続けていました。しかし 2023年 その散歩に変化が出ていました。

(袴田 秀子さん)

「ハイ~よろしい」

年をとるごとに歩く距離は減り、支援者の車でドライブをすることが多くなったのです。

(車内)

「世界がうまくいくように動いている。こっちが止まっているわけにはいかない」

ドライブの途中で歩く時間をつくろうとしますが…。

(支援者)

「すぐそこ馬込川がある」

(袴田 巌さん)

「歩いたってしょうがないよ疲れちゃうよ」

健康ではあるものの体力は徐々に低下しています。

(袴田 ひで子さん)

「この頃はどっかに行くというのも言わなくなった。それだけ足が弱

くなった。このごろは腰かけて立つのにほねおっている。足が弱くなっている。運動していないだものそうなって当たり前」

(誕生日)

「ハッピバースデートゥーユー」

3月10日、88歳の誕生日を迎えた袴田巌さん。

(袴田 巌さん )

「年は取らないということだね」「健康のために動いていることは

動いているんだね」

10年で、表情は豊かになり、時々 笑うようになりました。ですが、今も妄想的な言動は変わりません。それでも、ひで子さんは 袴田さんが今も裁判が続いていることをわかっていると話します。

(袴田 ひで子さん)

「巌の用事で行っているというのはうすうす感じている。わかっているところがある。ことしで裁判が終わるのがうれしい。わかってもわからなくても巌に(結果を)伝えるつもりで今はだまっている」

(伊藤 薫平アナウンサー)

「静岡地裁前では、日弁連が再審法の改正を訴えています。その中には、10年前のきょう、静岡地裁で袴田さんに再審開始の決定を下した村山元裁判長の姿もあります」

静岡地裁前で再審法の改正を訴える村山浩昭元裁判長。静岡地裁の再審開始決定から10年を迎えた27日、日弁連の弁護士らとともに再審法の改正を通行人に訴えました。

再審に関する制度は、刑事訴訟法上に規定されていますが、70年以上、一度も改正されたことはありません。刑事訴訟法は「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」がある場合に再審を開始すると規定していますが、具体的な手続きは示されていないことから、袴田さんの審理の長期化にもつながっていると指摘されています。

(村山 浩昭 弁護士)

「10年前のきょうは、今でもはっきり記憶しているんですけど、こんなに時間がかかるとは思わなかったです」「「捜査機関が持っている証拠が請求人が利用できない。そこが大きな壁として立ちはだかっている」「今も検察は有罪立証している。それならもっと早く裁判をやればよかった」「今となってみると(これまでの時間は) なんだったのかと思う」

村山弁護士はこの後、弁護士仲間や支援者らと街頭に立ち、改正法に関するビラを配るなど、再審法改正の必要性を市民に訴えました。

こうした再審法をめぐる動きは国会にも広がっています。3月、再審法改正を求める議員連盟が発足し、すでに100人以上の議員が賛同しています。

静岡地裁の再審開始決定から10年。袴田さんの再審公判が続く中再審法改正の議論が大きく動き出しています。

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