【澤穂希×丸山桂里奈 ママ対談】家族をもってわかった、代表チームで得た経験と、紡いだ絆の大切さ

2024年3月某日、都内のスタジオでの澤さん(左)と丸山さん(右)のツーショット。

女子サッカー界のレジェンド澤穂希さん(45)と丸山桂里奈さん(41)は、丸山さんが2002年に19歳で代表に選ばれてから、日本代表チームで長い時間をともに過ごしました。現在、澤さんは7歳の女の子、丸山さんは1歳の女の子のママです。今回、「たまひよONLINE」ではママになった元トップアスリート2人の対談が実現。現役時代のエピソードや、2人の関係、子育てのことなどたくさん語ってもらいました。

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伝説のドイツ戦の決勝ゴールからみんなの夢が形に

2010年当時の丸山さん(左)と澤さん(右)。(丸山桂里奈さんインスタグラムより)

――澤さんと丸山さんといえば、2011年FIFA女子ワールドカップドイツ大会でのなでしこJAPANが初の世界一となったときのことを思い起こします。準々決勝のドイツ戦での澤さんのアシストと丸山さんのゴールは、記憶に残る瞬間でした。

丸山さん(以下敬称略) あの試合では、則さん(佐々木則夫監督)から「絶対にチャンスが来るから裏に走れ」と指示されていました。だから、(岩渕)真奈がボールを持った瞬間に私は前を向いて走り始めたんです。
私がゴールを決めたのは真奈からのパスだと思っていました。
でも、後から映像を見たら、自分から見えていたイメージとはちょっと違ったんです。アシストのパスは澤さんからでした。映像では真奈がトラップしたボールを澤さんがパスしてくれていました。

澤さん(以下敬称略) そう。真奈のトラップが少し大きかったのか私の前にボールが来て、私は桂里奈が走り出してるのが見えたから、それに合わせてちょっと浮かせたパスを出しました。

丸山 今ここにボールが来たらいいなと思いながら走っていたら、ぴったり目の前にパスが来たんです。私は前を見てたから澤さんからのボールだとわからなくて、「真奈からこんなにいいパスが来た!」とめちゃ驚きながら、そのあとシュートする瞬間にはゴールまで光の道筋が見えたようでした。

ゴールが決まってすぐに(宮間)あやとか澤さんとかみんなが走って来てくれたんだけど、私はアシストは真奈だと思っていたし、ゴール決めたらアシストの人と抱き合おうって決めていたから、みんなをかき分けて真奈を探してた(笑)。試合後のインタビューで、「真奈からのアシストが・・・」って言ったら、「違います、澤さんですよ」って言われて初めて知ったっていう・・・(笑)

澤 桂里奈のシュートは、あの角度で、あの場所に入れるのは本当にすごかったよね。いいパスが来てもシュートがよくなかったら入らないよ。桂里奈は試合途中から入って、しっかり結果を残す、試合の流れを変えてくれる選手だったよね。

丸山 シュートだけじゃなくて、その前からのみんなのつながりが一つでもなかったら違う結果になっていたはず。だから、みんなで決めたゴールだと思っています。

あのときのメンバーは、チームが優勝するためにみんなで何年間も準備を積み重ねてきた。その結果が、あの年の結果につながったと思う。あのメンバーに入れたことは、自分がサッカーをやっていて本当によかったなと思える財産だし、何より澤さんと一緒にプレーできたことで自分のサッカー人生は大きく変わったと思う。みんなが夢見ていたことが形になったこと、後世に語りつがれる結果が出せたことは本当にすごいことだな、と、サッカーを辞めた今、心から思います。

澤 本当に、今だからより一層感じるよね。私自身も、あのときのメンバーだったから達成できたことだったと思う。みんなで優勝をめざして一つになった、いいチームだったよね。

澤さんにはサッカー以外の大切なことも教わった

3月中旬、オンラインで対談してくれた丸山さん(左)と澤さん(右)。

――2人の出会いはいつごろですか?

澤 いちばん最初に会ったのは桂里奈が中学生くらいのときだったよね。そのあとしばらくして、日本代表チームでワールドカップとか、オリンピックとか数々の大きな大会で一緒に出場して。同じ部屋で過ごしたり、シャンプーを共有したり、一緒に買い物に行ったりしたよね。

丸山 私が初めて日本代表に選ばれたのは、たしか2002年のアジア競技大会で、19歳のころ。初めての日本代表チームで、なんと澤さんと一緒の部屋になったんです。澤さんは女子サッカー選手みんなの憧れの人で、本当に「雲の上の存在」。尊敬する澤さんといきなり同部屋になってめちゃくちゃ緊張したけど、澤さんはめちゃくちゃ優しくて、気さくに話しかけてくれてうれしかったのを今でも覚えています。

すごく覚えている出来事があります。代表チームが現地のホテルのロビーに到着すると、各メンバーの名前が書いた荷物が置いてあって、それを各自で部屋に運ぶんですけど、私が着いたときには自分の荷物がなかったんです。「あれ?」と思ったら、なんと先に着いた澤さんが、私の荷物を部屋に運んでくれていました。それ以来私も、自分が先に到着したら同部屋の人の荷物を運ぶようになりました。サッカーはもちろん、そういうチームメイトへの気配りも澤さんから学びました。

澤 同じ部屋で、いろんなおしゃべりをしたよね。「おやすみ」したあとも話し続けちゃって。「明日練習ハードだよ、寝なきゃ!」といいつつ、なんだかまた話が再開して「寝れないじゃん!」みたいな、そんなことばっかりだった気がする(笑)

丸山 私は初めての日本代表で変に緊張してたけど、澤さんがなんでも話してくれたから、いい緊張感に変わりました。

澤 年齢が4学年差で近かったのもあるけど、私も楽しかったなぁ。一緒にふざけて則さんに怒られたりしたよね。私は桂里奈ほどふざけてないけど(笑)

丸山 私は歴代の監督にほんとによく怒られた。監督だけじゃなくて、あこがれてる先輩の靴下のにおいをかいでたら、先輩に見つかってめちゃくちゃ怒られたことも(笑)
でも澤さんは私のことを怒らないでいてくれましたよね。

澤 試合中のプレイでは注意したけど、私生活で怒ったことはないかな(笑)

――澤さんにとって丸山さんはどんな存在でしたか?

澤 バラエティ番組で活躍している今もそうだけど、桂里奈はチームでもムードメーカー。桂里奈がテレビに出るようになってから、よく「丸山さんのあのキャラって作ってるの?」って聞かれるんですよ(笑)。でも、普段の桂里奈も、昔からの桂里奈も、本当にテレビで見る桂里奈のまま。ほかにはいない個性的なキャラクターで、明るくて、みんなを笑顔にしてくれる人です。

丸山 うれしい。

澤 代表チームでも、練習以外の時間もサッカーのことばかりだと精神的にも疲れちゃう。でも桂里奈がみんなを笑わせてくれたりしたし、彼女が話してるだけでみんなが自然と笑顔になってる、そんな存在だったかな。

アスリートママの子どもの習い事事情は?

澤さんの娘さんの七五三のお祝い。夫で福島ユナイテッドFC取締役副社長の辻上裕章さんと。

――澤さんの娘さんはもうすぐ小学校2年生とのことですが、スポーツなどの習い事はしていますか?

澤 去年まではバレエをやっていました。今は習い事は水泳だけ。あとはたまに公園で一緒にボールを蹴ったりすることもあります。

丸山 サッカーやるんですか?!

澤 左利きで、けっこう上手かも。でもサッカー選手にしたいかっていうと・・・。自分がアスリートだったからこそ、一握りのトップになるまでの大変さもわかるし、何よりけがをしてほしくないな、と。

丸山 やっぱり、けががいちばん心配ですよね。それに「お母さんが澤穂希だ」となると、どこかで比べられてしまうのもかわいそうかもしれない。

澤 サッカー教室に参加させたこともあるんだけど、プレッシャーになってしまうかな、って考えちゃう。もちろん本人が自分で選んだら応援するけど、あえて私から提案はしないかも。やっぱり本人がやりたいことを応援してあげたほうが伸びると思うし。自分でうまくなりたいとか、自分で練習したいと思えることが大事だから。

丸山 自分が真剣にサッカーに取り組んできて、やっぱりサッカーは好きだし、チームプレーで得たものはすごくたくさんあります。だから本当に娘がやりたいなら、チャレンジさせてもいいのかも。本並さんはモデルさんにしたがってるけど(笑)!

日本代表の責任と、親としての責任

いつもとっても仲よしな本並さんと娘さん。

――サッカー選手とママ業、どちらが大変だと感じますか?

澤 大変さの種類が全然違います。1人の人間を育てる責任と、日本を背負う責任の重さ、どっちも重いけど、種類は違うと思います。

丸山 そうですよね。でも澤さんはキャプテンでもあったから、日本代表として背負っていた責任の重さは私よりずっとあったと思う。チームをまとめたり、指示を出したり、相手からも常にマークされる立場だし。2004年アテネオリンピック予選の北朝鮮戦では、ひざの大けががあっても出なきゃいけなくて。

澤 いや、日本代表というところではみんな同じだよ。たしかに、チームをまとめるにはどうするかっていうことは考えていたけど、でも1人じゃないから。みんながいたし、私は楽しかった。あのドキドキ感とか、緊張感とか、逆境とか・・・。そんなふうに思えるのも、いい仲間たちだったからじゃないかな。

丸山 本当に、1人がみんなのために、みんなが1人のために損得なしでプレーするチームでしたね。

澤 だからこそ、みんなが自分の持っている力以上のものを出せたと思う。みんなに私も支えてもらっていたと思います。

――サッカーと子育て、体力面での違いはどんなところですか?

丸山 私もアスリートとして、人より体力がある、忍耐力があると思ってたけど、育児になったら全然使う体力が違うと思います。すべてが初めてのこと、というのもあるかもしれないけど。

澤 忍耐、という面でも子育てとスポーツは全然違うよね。でも家族ができて、大事な人を思いやる気持ちっていうのは、サッカーのチームと通じるところはあるかも。

丸山 ワールドカップで優勝したときのチームメンバーは、形は違うけど、家族みたいな絆がありましたよね。すごくいいチームだったなと思う。あの瞬間は戻ってこないけど、今またみんなと会っても変わらない絆があると思う。私にとってあの出会いと経験は宝物です。

お話・写真提供/澤穂希さん、丸山桂里奈さん 聞き手・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部

日本代表で苦楽をともにしたチームメイトであり、深い信頼関係で結ばれた澤さんと丸山さん。サッカーの話題で楽しそうに盛り上がる様子から、2人のサッカー愛がひしひしと伝わってきました。

●記事の内容は2024年3月の情報であり、現在と異なる場合があります。

澤穂希さん(さわほまれ)

PROFILE
1978年9月6日生まれ、東京都出身。15 歳で日本代表入り。日本代表では、通算 205 試合に出場し、83 得点。日本女子代表史上、出場数・ゴール数歴代1位を獲得。2011年国民栄誉賞を受賞。2015 年 8 月に結婚し、同年 12 月に現役引退。現在は、一児の母として子育てしながら、スポーツの普及のためさまざまな活動を行っている。2023 年に「スポーツ栄養プランナー」、「子育て心理アドバイザー」、「食生活アドバイザー®3級」を取得。

丸山桂里奈さん(まるやまかりな)

PROFILE
1983年3月26日生まれ、東京都出身。第4回女子W杯、アテネ五輪、北京五輪、第6回女子W杯(優勝)、ロンドン五輪(準優勝)で日本代表として活躍。2005年Lリーグ(現なでしこリーグ)新人王、2011年国民栄誉賞を受賞。現在はバラエティ番組、スポーツ番組などで活躍。2023年2月に第1子の女の子を出産。

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