介護と仕事の両立、96%が「難しい」 だが、「介護離職」すると「精神・肉体」追い込まれる...どうしたらいいか?専門家に聞いた

30~40代は子育てと仕事の両立が大変だ。だが、ひと息つくまもなく、40代後半から、親の介護と仕事の両立が深刻な問題になってくる。

そんななか、働く主婦・主夫層のホンネ調査機関「しゅふJOB総研」(東京都新宿区)が2024年3月19日、「介護と仕事の両立、どう思う?」という調査結果を発表した。

6割近くの人が「いずれ介護に携わる」と予想、96%の人が「介護と仕事の両立は難しい」を悲観する。両立するにはどうしたらよいか、専門家に話を聞いた。

50~54歳が介護の中心、年間10万人が介護離職

仕事と介護の両立ができなくなって仕事を辞める「介護離職者」は、総務省が2022年に発表した就業構造基本調査によると、1年間で10万6000人にのぼる。また、全国の介護者(介護をしている人)629万人のうち、約58%の365万人が有業者(仕事をしている人)だ。

介護者の年齢別の有業率は、男性は50~54歳が約89%、女性は50~54歳が72%と、最も高い。この年代は、管理職や責任ある立場に就いている人が多く、この世代が介護離職すると職場や社会にとって大きなダメージになる。

一方、厚生労働省が2021年に発表した「仕事と介護の両立等に関する実態調査」によると、「介護離職前より、介護離職後のほうが精神的・肉体的負担が増える」という結果が出ている。

仕事を辞めて介護に専念することによって、精神面・肉体面で負担が減ったという人が1割前後なのに対し、5~6割以上の人が、負担が増したと答えているのだ。

これは、仕事を辞めて収入が減ると、それまで利用していた介護サービスを減らすことになり、肉体的負担が増えるということ。

また、親との1対1の時間が増えて孤立が進み、精神的負担が増えるという悪循環に陥るリスクが高くなるからとみられる。

◆法律で「介護休業」「介護休暇」取得できる...「知らない」25.0%

さて、しゅふJOB総研の調査(2024年1月17日~24日)は就労志向のある主婦・主夫層536人が対象。まず、「いま誰かを介護しているか」聞くと、「親などを介護している」と答えた人が12.7%、「介護はしていない」人が87.3%となった【図表1】。

また、現在、介護はしていないという人に、今後、介護をする可能性を聞くと、「介護することになりそう」と答えた人が過半数の52.3%に達した【図表2】。すでに介護をしている人も含めると、全体で6割近くの人が、いずれ介護を担うことになるわけだ。

「育児・介護休業法」には、突発的な介護・世話のために、対象家族1人につき1年に5日の休暇や、1年に93日の休業などが認められている。

このように法律で介護休業や介護休暇を取得できることを知っているかを聞くと、「知らない」と答えた人が25.0%と、4人に1人に達した【図表3】。

さらに、介護と仕事の両立について、どういう印象を持っているかを聞くと、「介護と仕事の両立は難しい」という人が95.6%に達した【図表4】。

興味深いのは、介護している・していない別に比較すると、「とても難しい」と答えた人が、「介護している人」(61.8%)より、「していない人」(71.2%)と、10ポイント近く多かったことだ【図表5】。

まわりの人や介護保険など、使えるリソースを巻き込もう

フリーコメントには介護経験者からさまざまな苦労話が寄せられている。まず、介護離職をした人の意見は――。

「親の介護で欠勤をしていたら、お休みが多すぎてあてに出来ないから来年の更新はしないと言われた」(50代:パート/アルバイト)

「徘徊の心配もあり、夜だけでなく昼間も目を離せなくなってきた時にデイサービスがない日などは1人で家に居させるのは不安。施設に入れる金銭的な余裕もない」(50代:正社員)

「育児と異なり、成長をそばで見るというより衰退を見て援助していくことになり、また、自分自身も更年期に入りつつあり、心身のバランスが取りづらい」(40代:今は働いていない)

「仕事をしながらは、無理です。父が心臓で倒れて母が認知症の初期でしたが、鬱(うつ)がひどくなってどうしょうもなく、派遣でしたが仕事を辞めました」(50代:今は働いていない)

「親の介護と仕事の両立は絶対できない。私が弱かったのかもしれませんが...共倒れになります。お風呂の空だき、物忘れは年々ひどくなり、徘徊、夜中は寝てくれず私も起きていました。週3回デイサービスに通っていたのですが、その時だけ安心して仕事ができましたが、私の体はボロボロになりました」(50代:派遣社員)

一方、「苦労しながらも仕事との両立ができた」と達成感を持つ人や、あるいは「両立できると思いたい」と願う人も少なくない。

「会社や上司が介護の苦労をしっかり理解している、そのうえで働ける環境、休暇をとりやすい環境であれば、両立は可能だと思います」(40代:パート/アルバイト)

「出張の多い仕事をしていましたが、担当する仕事を変更してもらいました。また、早く帰れるように出勤時間を前にずらすなど、仕事先の理解があり両立はできました。ただ、体力的に辛かったです」(30代:正社員)

「上手に周りの人や介護保険など使えるリソースを巻き込んで、フルに利用できたら案外仕事と両立できるかもしれない」(40代:パート/アルバイト)

「在宅でできる仕事なら可能かもしれない。でも介護は育児と違い、どのくらい続くかわからないし、精神的に辛い」(40代:パート/アルバイト)

介護する側の自分自身の体力に、自信を持てるか?

J-CASTニュースBiz編集部は、研究顧問として同調査を行い、雇用労働問題に詳しいワークスタイル研究家の川上敬太郎さんに話を聞いた。

――現在、介護をしている人が約1割超、いずれ介護することになりそうだと思っている人が過半数というこの数字、どう思いますか。

川上敬太郎さん いま介護に携わっている人だけに限ると、約1割超と少数派です。ところが、いずれ介護することになりそうな人も含めると、6割近い多数派です。

多くの人が介護を他人事ではなく、自らにも起こりうる身近な問題として認識している様子がうかがえます。

――しかし、法律で介護休業や介護休暇があることを知らない人が4人に1人、内容を知っている人も3割にとどまっていますね。

川上敬太郎さん 少ない印象を受けますが、決して介護を他人事と思っているわけではないとしても、いつその機会が訪れるかはわからない......。それだけに、必ずしも具体的に準備を進める心構えになっている人ばかりではないということかもしれません。

――介護と仕事の両立が難しいと考える人が約96%もいます。しかし、「とても難しい」と回答した人の比率が「介護はしていない」人のほうがかなり高いのは、どういうわけでしょうか。

川上敬太郎さん 「介護と仕事の両立が難しい」と感じていることには変わりないものの、難易度の認識では、「介護はしていない」人のほうがより難しそうに感じているようです。これは、具体的なイメージが描きにくい分、より難しそうな印象を受けやすいということなのかもしれません。

――フリーコメントでは、さまざまな意見が寄せられています。私は「育児と異なり、親の衰退を見て援助していくことになり...心身のバランスが取りづらい」という声にジーンときました。川上さんは、どの意見に注目しましたか。

川上敬太郎さん 「両立は可能」といった声に勇気づけられる一方、「徘徊の心配」や「排便やお風呂の介助は体力が必要」などの声もあるように具体的にどのような介護をすることになるのかは人それぞれ異なり、それを事前に予測するのは難しい面があると感じました。

また、40代の方から「親の介護する時は自分の年齢も上がっているため、体力的にきついと思う」という声が象徴的ですが、ご自身の体力面を心配する声が多く見られました。過半数の人がいずれ介護することになりそうだと感じているものの、その時に自分の体力がどういう状況になっているのか。これを予測することもまた、難しいことです。

介護する自分自身に負担がかかり過ぎると、介護自体ができない状態になる心配もあります。仕事と両立させるための時間などのやりくりだけでなく、ご自身の体力面のケアも含めてどうコンディションを保つか。これが、これから介護しなければならないと考えている人に共通する不安の1つなのだと感じました。

万能薬はない だからこそ、多様な働き方を用意すべき

――介護離職者は年間10万人にのぼります。一方、介護者の6割が有業者で、しかも男女とも50~54歳が中心です。会社では管理職世代で、仕事との両立に奮闘しています。会社や政府はこうした人々の支援に何をすべきと考えますか。

川上敬太郎さん いま介護している人だけに限定すると比率が低いため、特殊なケースのように映ってしまいます。まずは、会社も社会も、介護と仕事の両立はイレギュラーケースではなく、レギュラーケースだと認識を改める必要があります。すると、働き方の前提も変わってきます。

いまは1か所の職場に集い、週5日以上にわたって9時~18時など、長時間拘束される働き方が基本です。

しかし、介護はいつ始まりいつ終わるかわかりません。少しでも介護と仕事の両立がしやすくなるよう、希望すれば誰もがいつでも短時間勤務やフレックス勤務、テレワークといった柔軟な働き方を選択できる状態が基本になるようにしていく必要があります。

そのため会社には、「柔軟な働き方」と「成果」を両立できるよう、業務体制を再設計すること。政府には、介護に携わる人が仕事と両立させやすくなるよう、希望に応じて柔軟な働き方や休み方が選択できる制度を検討することが求められるのではないでしょうか。

――たしかに、そのとおりですね。厚労省の調査によると、「介護離職をしないで仕事と介護を両立させたほうが、経済的、精神的、肉体的にもいい」という結果が出ています。こうしたことについては、どう思いますか。

川上敬太郎さん もちろんケースバイケースですが、介護のために仕事を辞めたり、介護中心の生活に移行したりすると、介護する側が追い込まれて心身の健康が保てなくなり、共倒れになる懸念はあると思います。

介護のためには仕事や生活を犠牲にするしかないという、選択肢のない社会にしないようにするための取り組みが必要だと感じます。

――川上さんは、ズバリ、介護と仕事の両立について何が大切だとおもいますか。

川上敬太郎さん ひと口に介護といっても、ケースごとに置かれている状況も症状も異なります。そのため、どんなケースにも上手く適合する万能薬のような施策は存在しないのだと思います。

だからこそ、働き方においても利用できる施設やサービスにおいても、できる限り多くの選択肢が用意されて、個々の事情に応じて最適な組み合わせが選択できる状態に近づけていく取り組みが大切になるのではないでしょうか。

――はっきりした解決策がないからこそ、多くの選択肢を用意すべきだということですね。

川上敬太郎さん はい。介護だけでなく、長時間労働の削減や男性の育休取得促進など、さまざまな課題に共通するのは、柔軟な働き方の必要性です。

常に「全員集合&フルタイム勤務」を前提とする考え方ではなく、それも選択肢の1つとしたうえで、個々の事情に合わせた個別最適の働き方を前提としながら成果を出していく取り組みが、あらゆる職場に求められているのではないでしょうか。

実質的に「全員集合&フルタイム勤務」一択しかない職場ばかりでは、いざ介護の必要性が発生した際に、退職以外の選択肢がない状況に追い込まれてしまいます。そういう状況を回避することこそが、本当の意味での働き方改革なのではないでしょうか。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)

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