【主張】職場情報の提供は慎重に

厚生労働省は、労働市場におけるマッチング機能の向上を目的とし、「求職者等への職場情報提供に当たっての手引(案)」をまとめた(=関連記事)。法令により開示・提供義務がある情報をはじめ、求職者に提供することで採用活動に資する情報を網羅的に紹介している。企業の規模や上場の有無で求められる範囲が絞られるとはいえ、今さらながら項目数の多さには驚かされる。

見逃せないのは、求職者がどんな情報を求めているか、具体例を示した点だ。主に正社員として中途採用する場合を想定して転職経験者、求人企業、人材サービス事業者らにヒアリングした結果から、十数項目を挙げている。在宅勤務の可否や女性活躍状況などに加えて、「業務により習得できるスキル」や「職場の雰囲気」との項目が並ぶのには、違和感を覚える向きも少なくないのではないか。

ポジションを特定して経験者を採用するに当たり、真っ先に問われるのが「その職務を全うできるか否か」であることは論を俟たない。保有スキルを確認したい企業側が、入社後に何が学べるのかまで提示できるケースは限られよう。職場の雰囲気という曖昧な要素にしたところで、自ら体験せず把握できるようなものなのか――求職者側のニーズは理解できるが、ないものねだりの印象は拭えない。

労働基準法施行規則第5条の改正により、4月から労働条件の明示事項に「就業場所・業務の変更の範囲」などが加わった。女性や高齢者の就業率が高まり、勤務形態の多様化が進むなか、詳細な労働条件の提示が求められるのはよく分かる。しかし、仮に習得できるスキルなどまで明示して、本人が習得できなかった場合はどうなるのか。結果を保証できない情報については、慎重に取り扱いたい。

日本固有の新卒採用は、そもそも自律的なキャリア形成を前提としてこなかった。環境が変われば提供すべき情報も、自ずと変わってくる。売り手市場だからと極端なアピールをすれば、その後の定着や会社の評判にも響いてこよう。人員の獲得を焦るあまり、かえって早期離職が増えるような対応は控えたい。

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