スコープ渇水対策/利根川・荒川流域1300万人守る水資源開発、ダムの利水容量増強

気候変動の影響などから、首都圏も水不足が頻発する懸念が高まっている。利根川・荒川流域の河川管理者は、少雪や猛暑のたびにダムや導水施設を巧みに運用し、流域の約1300万人の利水を支えてきた。上流の栃木県鹿沼市には水資源機構が新たな利水施設となる南摩ダムを整備中。利根川水系の流量を見直す河川整備基本方針の検討が進行する中で、ハイブリッドダムへの期待も高まりつつある。水不足への備えをまとめた。
利水の安全性は人々の暮らしだけでなく、経済活動や企業誘致にも影響する。国土交通省関東地方整備局河川部で河川施設の操作・調整を担う武藤健治広域水管理官は、「都市の信用を図る大きな基準となる」と指摘する。これまで水不足に対しては河川管理者がダム容量の柔軟な活用や、導水施設で下流の水を上流側に移動させるなどのソフト施策によって、危機を辛くも脱してきた。
相次ぐ災害や水不足などを受け、国交省は利根川水系と荒川水系の総合的な水資源開発を示す「水資源開発基本計画」(フルプラン)を2021年3月に改定し、5年に1度クラスの渇水でも安定的な水利用を可能にするための基準を「10年に1度クラスの渇水」へと改め、対応を強化している。
今後は「予想外の事態にどう対応するかが課題」(武藤広域水管理官)。雪不足の影響で、春に川へ流れ込む雪解け水が減るケースが増えている。温暖化から田植えの時期を早めた地域もある。水需要のピーク変動を、今後の河川施設の運用に反映させる必要もあるという。
渇水を防いだ象徴的な河川施設とされているのが、関東整備局の八ツ場ダム(群馬県長野原町)。利根川上流は1997年の冬、ダム群の貯水量が2億立方メートルを下回り、2カ月近くにわたって最大10%の取水制限が行われた。昨冬も渇水の危機が迫っていた。ただ、9000万立方メートルの利水容量を誇る八ツ場ダムが完成していたことで、取水制限には至らなかった。上流ダム群の貯水量から八ツ場ダムの貯水量を差し引くと、97年の取水制限時の貯水量をさらに下回る結果になったと試算されている。
利水容量を増やすインフラ整備も進んでいる。水機構が利根川水系思川の支流・南摩川の上流部に整備している南摩ダムは、総貯水量約5100万立方メートルの規模。24年度中の試験湛水を目指して建設している。完成すれば、利根川上流ダム群の利水容量は6億立方メートルを超え、流域全体の利水の安全性が飛躍的に向上する。
関東整備局管内では、茨城県内の那珂川と霞ケ浦、利根川をつなぐ「霞ケ浦導水」の整備事業も進んでいる。地下トンネルでそれぞれの水を融通することで、限りある水資源を有効に活用できるようにする。
今後の利水運用では、洪水調節と発電の両機能を高めた「ハイブリッドダム」の活用が注目されている。気象を予測して当面台風が来ない場合は水をため、洪水の危険が迫ったら水を放出するなど、治水容量と利水容量をフレキシブルに使い分ける。国交省は鬼怒川上流にある関東整備局の湯西川ダム(栃木県日光市、貯水量7200立方メートル)など3ダムを対象に、23年度に事業スキームの検討や実現可能性調査を開始した。
同省は台風や大雨の激甚化と、水需要の変化から利根川水系の「河川整備基本方針」の改定作業を進めている。省内には「利水や環境施策を議論する中で、ハイブリッドダムに取り組む方針も盛り込まれるのではないか」と見る向きもある。
利根川・荒川流域でのインフラ整備と既存ストックの有効活用、水関連政策の検討--。首都圏は、懸念される水不足への備えがさらに進むことになる。

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