【コラム・天風録】黒土の再発見

 品種は男爵とキタアカリにした。菜種梅雨の合間を縫い、広島市内から安芸高田市八千代町に通ってジャガイモの種芋を植えた。国道54号沿い、耕作されずに数年たつ水田は、ふっくらした黒土の畑に仕上がっていた▲元農協職員の伝道俊朗さんが77歳の今春始めた体験農園で、1期生となった。「買うから作る時代へ」。募集のメッセージは物価高や気候変動で食が揺らぐ今、琴線に触れた。農薬を使わず、地元産の竹チップと牛ふんの有機堆肥を入れる手法にも▲安芸高田で相次ぐ体験農園や水田のオーナー制度に刺激を受けたと、伝道さんは言う。農業生産法人や住民グループが始め、主に広島都市圏からどっと訪れる。土の育みや田園風景、子の感性をくすぐる体験か。感じ入る何かがある▲広島の強みは何だろう。人口の転出超過が加速して、考える時間が増えた。周りに問うと必ず「山や海が近い」が挙がる。人が住み続けて山や田畑を保ち、恵みが行き来しているからだ▲耕作放棄地を掘り起こす畑に出向くと、かつて祖父母や親が暮らした土地と空き家が気になる現役世代や、定年後のシニアに出会う。再発見しているはずだ。足元に豊かな黒土があると。

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