公的な死亡保障である遺族年金。残された家族の生活を支えるために必要なものですが、その額が十分かといえば疑問符。さらに万が一の場合を試算すると、衝撃的な結果を目の当たりにすることも。みていきましょう。
「年金受給額」で盛り上げる日本の高齢者たち
年を重ねていくと話題に上がりがちなのが、健康の話、そして年金の話。
――私のうちは月30万円くらいかな
――いいわね、うちなんて月20万円ほどよ
現役時代、給与額を他人に話すことは憚られるものですが、年金額の話題は、なぜかすんなりといえる人が多いようで、不思議なものです。
現役世代でも、だいたいの年金額を計算で求めることができます。国民年金(老齢基礎年金)は「年間受給額=年金額×(保険料の納付月数÷480ヵ月)」、厚生年金(老齢厚生年金)は加入期間が平成15年3月以前/4月以降で変わり、前者であれば「平均標準報酬月額×7.125/1,000×平成15年3月までの加入期間の月数」、後者であれば「平均標準報酬額×5.481/1,000×平成15年4月以降の加入期間の月数」で計算できます。
とはいえ、年金額からパッと暗算できる人は少数でしょうから、年金額を他人に言っても構わない、ということなのでしょう。
――うちは、亡くなった夫の分と合わせて月15万円くらいかな
そう友人に話す、専業主婦だったという70代女性。亡くなった夫の遺族厚生年金と自身の国民年金で日々の生活費を賄っているといいます。
遺族年金は、国民年金に紐づく遺族基礎年金と、厚生年金に紐づく遺族厚生年金の2つあります。それぞれに細かな受給要件がありますが、簡単にいうと、未成年の子どもを抱えている場合にもらえるのが遺族基礎年金。遺族厚生年金には子の要件は特になく、(元)会社員・(元)公務員の配偶者が亡くなった際にもらうことができます。
遺族基礎年金の年金額は年「795,000円 + 子の加算額」(67歳以下の場合)、遺族厚生年金の年金額は亡くなった人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分3です。
この女性の場合、遺族年金は月8.2万円。現役時代、夫は厚生年金を月10.9万円、併給の国民年金と合わせて月17.7万円の年金を手にしていたと考えられます。
夫婦で月30万円以上の年金受取額…夫が亡くなった場合の遺族年金額に唖然
――うちは共働きだから、万が一のことが起きても、専業主婦の彼女よりも多くの年金をもらえるはず
そんな自信をのぞかせていた友人。万が一のことが起きた場合の年金額を知りたいと年金事務所を訪れ、試算してもらったとしましょう。
夫婦ともに20~60歳まで、会社員(正社員)の平均給与を手にしてきたと仮定。夫が手にする老齢厚生年金は月10.3万円ほど。併給の国民年金と合わせると、月17.1万円の年金を手にしています。同じように妻の老齢厚生年金も計算すると月9.5万円ほど。併給の国民年金と合わせると月14.7万円ほどになります。夫婦で年金月31.8万円。結構、余裕ある生活が送れそうです。
そして夫が亡くなった場合に妻が受け取れる遺族厚生年金は、月10万3,000円の4分の3である、月7.7万円ほど。
――私の年金と合わせて22.4万円……まあ1人で生きていくには十分ね
そう思うかもしれませんが、遺族厚生年金と自身の老齢厚生年金の受給権がある場合、老齢厚生年金は全額支給となり、遺族厚生年金は老齢厚生年金に相当する額の支給が停止となります。この場合「自身の老齢厚生年金>遺族厚生年金」なので「遺族年金は1円ももらえない」ということになります。
年金事務所の担当者の「遺族年金は……ゼロ円ですね」という衝撃の回答に、思わず口があんぐり。「えっ、私がもらえるのは自分の年金だけ? 何かの間違いですよね?」と職員を問い詰めたところで、担当者は「そういう決まりなので」と答えるしかありません。
さらに遺族年金は非課税なのに対し、老齢年金は課税対象。額面の85~90%が実際の手取り額となります。そうなると「夫を亡くした妻」という同じ立場でありながら、専業主婦のほうが多くの年金がもらえる、という逆転現象が起きます。この不公平感、問題視されているものの、いまのところ「そういう決まりなので」と諦めるしかありません。
[参考資料]