作家の遠藤周作は東京に生まれ、主に関西で育ったが、長崎を「心の故郷」と呼んでいた。中国や西欧など異なる文化との結節点となった、まちの魅力に引き付けられたからだった
▼足を運ぶうちにどの道が何にぶつかるかを知り尽くし、書物で知った昔の人物や出来事にいきいきと思いをはせることもできるようになったという。そのような場所を得たことは、人生の幸せだったと記している(「忘れがたい場所がある」光文社)
▼大熊町のJR大野駅西口で「おおくま商店祭」というイベントが行われた。現在の大熊で活動する事業者に加え、震災前に町民からの人気を集めていた店舗も出店したことで、年配の住民から子どもまでが集まった
▼会場の一角には、「大熊資料館」と題して駅前にあった商店街を紹介するコーナーがあった。2007年度に中学生が店主の似顔絵付きで手作りした地図があり、どのような店があったのかを知ることができるようになっていた
▼駅前は再開発が進みかつての風景はなくなっているが、展示からは町の思い出を引き継いでいこうとする確かな意思を感じた。新たにできる町並みが、新旧の住民を結びつけていく「心の故郷」になることを願う。