独特の音と乗り味で最高の癒やしを提供「これぞアメリカンV8の真骨頂」/キャデラック・エスカレード試乗

 モータースポーツや自動車のテクノロジー分野に精通するジャーナリスト、世良耕太が『キャデラック・エスカレード』に試乗する。現行モデルは迫力ある存在感はそのままに、乗り味は上質に、内装や装備はよりゴージャスに進化を遂げている。熟成期に入ったフルサイズのラグジュアリーSUV、エスカレードの魅力を深掘りしよう。

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 キャデラックといえば、アメリカのGMが展開する高級車ブランドである。WECやIMSAに対して感度が高い人なら、ハイパーカー(IMSAではGTPカテゴリー)のVシリーズRと、このLMDh車両が搭載する5.5リッターV8自然吸気エンジンが奏でる独特のサウンドを思い浮かべるかもしれない。

 V8エンジンを搭載している点で共通しているが、エスカレードは3列シートを備えたラグジュアリーSUVだ。アメリカではVIP御用達のイメージが強い。

エスカレードのグレードは『PREMIUM』、『PLATINUM』、『SPORT』の3つ。すべて左ハンドル仕様となる。試乗車は『PLATINUM』。車両価格は1740万円(税込)。
『PLATINUM』はガルバノクローム仕上げを施したホリゾンタルバーのフロントグリルを採用する。
『PLATINUM』は、ハイポリッシュ仕上げの22インチ10スポークのアルミホイールを履く。

 サイズの比較として、国産ラグジュアリーSUVの代表格であるレクサスLX600のスリーサイズを記しておく。3列シート7人乗り仕様の全長5100mm、全幅1990mm、全高1885mm、ホイールベースは2850mmだ。

 エンジンはガソリンの3.5リッターV6ツインターボ(最高出力305kW、最大トルク650Nm)を積んでおり、車重は2590kgである。トランスミッションは10速ATを組み合わせる。

レクサスLX600“EXECUTIVE”
レクサスLX600“EXECUTIVE”
レクサスLX600“EXECUTIVE”

 一方、エスカレードのボディサイズは全長5400mm、全幅2065mm、全高1930mm、ホイールベースは3060mmだ。LX600より全長で300mm、全幅で75mm、全高で55mm大きく、そう言われても困るだろうが、全高は大谷翔平の身長と同じである。間違いなく、堂々としている。

外観は力強く逞しく、堂々とした存在感を放つもの。ボディカラーはセーブルブラック、クリスタルホワイトトゥリコート、サイプレスメタリック、ダークムーンブルーメタリック、アージェントシルバーメタリックの5色を揃える。

 10速ATを搭載するのはレクサスLX600と同じだが、エンジンは決定的に異なっており、前述したようにエスカレードはV8を搭載する。排気量は6.2リッターだ。

 バルブ駆動はOHVであり、典型的なアメリカンV8エンジンである。最高出力は306kW、最大トルクは624Nmを発生する。カタログには「無鉛プレミアム推奨」と書いてあるが、ご丁寧にカッコして「無鉛レギュラー使用可」と書いてある。車重は2740kgだ。

エンジンはダイナミックフューエルマネジメント採用の6.2リッターV8を搭載する。

 インテリアは黒いレザーとウッドの組み合わせで、古典的なラグジュアリーの仕立てである。いかにも“高級”といった感じだ。

 対照的に表示系は先進的で、運転席の目の前からセンターにかけて38インチのOLED(有機EL)ディスプレイが広がっている。

 6畳間に80型の薄型テレビがあったらその大きさに圧倒されるだろうが、ホテルのスイートルームに置いてあったらあまり気にならないだろう(おそらく)。

 そんな感じで、室内が広いエスカレードに38インチと聞いても驚きはないし、実際、まったく圧は感じない。あくまで控え目に、モダンなムードを演出するツールとなっている。

湾曲型38インチ大型OLEDディスプレイを採用。センターコンソール上のダイヤルコントローラーとステアリングホイールスイッチで操作可能。
キャデラック・エスカレード

 常時ひとり乗車だったので、じっくり確かめる余裕はなかったが、エスカレード、陸上を移動するビジネスジェットのおもむきである。

 センターコンソールのウッドパネルの下には冷凍も可能な冷蔵庫を内蔵。フロントシートは通気孔付きで、シートヒーターとベンチレーションを装備している。

キャデラック・エスカレード

 セパレートした2列目シートは左右の間隔が充分に確保されており、ビジネスでの移動では考え事に没頭できそうだ。前席シートバックには大型のディスプレイが備わっており、旅客機での移動よろしく動画を楽しむことができる。ひざ前のスペースも充分だ。

『PLATINUM』は2列目キャプテンシートを採用。3列目へのウォークスルーも可能。3列目シートはリヤサスペンションが独立式に一新されたことにより、レッグスペースが前モデルと比べて40%も広くなった。

 ラゲッジルームには3列のシートをフルに使った状態でもスーツケースを飲み込むほどのスペースが確保されている。アテンダントこそいないものの、空間、設備、機能、ムード面でのもてなしは十二分の印象だ。

7名がすべて乗車した標準状態でのラゲッジスペース容量は722リッターを確保。3列目シートを畳むと2065リッターまで広がる。

 さて、ドライバーの立場でエスカレードを観察してみよう。国内に導入されているエスカレードは、左ハンドルのみの設定だ。

キャデラック・エスカレード

 運転席に腰を下ろしてみると、アイポイントが高く見下ろし感が強い。目に入る風景から自然と、大きなクルマを動かそうとしている実感が湧く。

 意図的にそうしているのだろう。アクセルペダルを踏み込むと、一拍おいてジワリと前に進む感覚だ。転舵もそうで、ステアリングを切り込むと一拍おいて向きを変える。

 ブレーキングも同様。じんわり効いてくるので、少し早めに踏んで車速を落とすとちょうどいい。何ごともゆとりを持って操作するのが、エスカレードを気持ち良く動かすコツだ。

 走る、曲がる、止まる、の動きがゆったりしているし、クルマ側でゆとりを持った操作を求めてくるので、意図せず自然とゆったりした動きになる。

 そうやってエスカレードとしばらくつき合っていると、ゆったりしたクルマの性格がドライバーに乗り移り、大らかな気分になる。

 これぞアメリカンV8の真骨頂だと感じたのは、自動車専用道路を淡々と巡行するシーンだ。自然吸気V8エンジンが奏でるハミングをBGMにしたクルージングは最高の癒やしである。

 アメリカのVIPよろしく後席でくつろぐのもいいが、いかにもアメリカンなラグジュアリーSUVのステアリングを自ら握り、淡々と流すのもいい。ストップ&ゴーを頻繁に繰り返すせわしない走りは、このクルマには向いていない。

 エスカレードはドライバーにとってもパッセンジャーにとっても、非常に満足度の高い一台と言えるだろう。まず、他のエスカレードとすれ違わない、希少性の高さもポイントだ。

キャデラック・エスカレード
キャデラック・エスカレード
キャデラック・エスカレード

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