緊急検証~データでひもとくテレビドラマと漫画原作の密接な関係

毎回この連載ではさまざまな角度からテレビについての分析を試みているが、今回は「漫画原作ドラマ」を筆頭に、小説、そのほかの原作について取り上げてみたい。

個別の意見はさておき、今のテレビの中で「漫画原作ドラマ」はどれほどの存在感を示しているのか。テレビ局は実際どの程度漫画原作に依存しているのか。そして、それらはどれくらいの視聴者の支持を得ているのか? ほんの一端ではあるが、現在関東で127万台を超える過去8年間のレグザ視聴データをもとに、ひもといていきたい。

まず、2016~23年までの8年間に、関東の地上波プライムタイム(午後7:00~11:00)で放送された連続ドラマ(大河ドラマと帯ドラマを除く)を以下の4種類に分けて集計し、年ごとの各グループドラマの本数の割合をグラフにしてみた。

漫画原作(Webコミックなどを含む)ドラマ__
小説原作(エッセーなどを含む)ドラマ
③ そのほかの原作(海外ドラマなど)ドラマ
④ テレビオリジナルドラマ__

一貫して約半数以上がテレビオリジナルのドラマであり、残りの半数が外部の原作を基にしているということが分かる。全体の割合は、ここ8年間それほど変わっていない。基本的にはテレビドラマの半数はオリジナルものなのだということは、押さえておいてほしい。

例えば「相棒」 「科捜研の女」 「ドクターX」(ともにテレビ朝日系)など人気の1話完結シリーズものも多くがドラマオリジナルであり、こうした作品の存在がオリジナルの割合を高めている。多くの脚本家が参加して語り継ぐこうしたシリーズドラマは、テレビドラマという放送形態だからこそ生まれたコンテンツであり、日本のテレビドラマの誇るべきカルチャーであることは間違いない。

一方、全体的な傾向として、漫画原作の割合が小説原作を超えてきていることもうかがえる。特に21年に小説原作が13.1%まで下がり、オリジナルが60%を超えているのが目に付く。

これは前年20年にコロナウイルスのまん延でドラマの制作現場が大きく混乱したことが影響している。20年のドラマ放送本数はほかの年より10本ほど少なく、特に4月クールはほとんどの作品が放送中断や延期を強いられた。大混乱の中、おそらく翌年の放送に向けた製作準備も通常通りには運ばなかったのだと思われる。

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そうなると、自由度が高く臨機応変な対応が効くオリジナルが増えるのも分かる。21年の1月クールは、TBSの3枠、日本テレビの3枠、テレビ朝日の3枠すべてがオリジナルだった。テレビ東京の2枠はじめ小説原作は4本あったが、漫画原作ドラマはゼロ。今回調査した中で、漫画原作がゼロだったクールはこの時だけである。逆に東京オリンピックが開催された7月クールはテレビ東京がドラマを編成せず、小説原作がゼロ。10月クールには準備が整ってきたのか、漫画原作が一気に6作に増える。1クールで漫画原作が6本あったのは、このクールと昨年10月クールの2回だけである。

続いてレグザの視聴データを使って、原作によって視聴数に傾向があるのかどうかを検証してみる。ドラマごとに録画視聴ポイントの全話平均を集計した8年間の「作品別平均録画視聴数ランキング」上位ベスト30を一気に発表する。ポイントは、1位を100とした場合の割合を表している。

現在は8年前に比べてTVerはじめ各種の配信動画サービスの普及が進み、一概に視聴データのポイントだけでは比べられないという点を加味しても、16年放送の「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS系)のポイントの高さは際立っている。今回8年間のドラマを対象にしたのも、多分にこの作品が16年に放送されていたことが大きい。作品本数の割合を見ても、17年以降目に見えて漫画原作のドラマが増えていて、「逃げ恥」成功の影響の大きさを感じる。多様性などの視点を導入して、恋愛ドラマに新たな地平を開いたことも含め、平成末期から令和にかけて「逃げ恥」が果たした役割には特別なものがあると言わざるを得ない。

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2位の「半沢直樹」(TBS系)も特筆すべき作品である。13年の第1弾の大ヒットは、小説原作ドラマの新たな潮流を作った。この第2弾もコロナ真っただ中のテレビ界で大きな期待を背負わされながら、その重圧をものともせずに視聴者の支持を得た。まさしく両作品とも、テレビドラマ史に残るドラマだったといっていいだろう。

ということで上位2作は原作ものが占めたが、ベスト30全体を見てみると、オリジナルドラマが半数の15作を占め、ベスト10にも6本がランクインと、相応の強さを発揮している。原作ものについて言えば、小説原作のランクイン作が5本、漫画原作が10本と、ここでは漫画原作が優位に立っている。

続いて各グループ別の「平均録画視聴ベスト10」を見てみよう。各表の上に、全ドラマ(502作品)平均録画視聴の値を100とした時の各グループ平均値を書き添えたので、参考にしてほしい。

小説原作では池井戸潤の4作品をはじめとしたTBS勢の大攻勢に単身立ち向かった「地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子」(日本テレビ系)がすごい! 漫画原作でもTBSの強さが目立つが、フジテレビの「ミステリと言う勿れ」や、日本テレビの3ドラマも、強い印象を残した作品。圧巻のランキングである。その他部門は、海外ドラマの翻案ものがほとんど。9位の「チア☆ダン」(TBS系)は実話を基にした映画が原作となっている。オリジナルでも、時代を変えたドラマが多数ランクインした。

そして各グループでの平均値の割合を見ると、やはり漫画原作グループの値が高い。大きなはずれが少ないということなのか。こうした支持の高さが漫画原作のメリットの一つなのは確かなようだ。

最後に8年間の「最終回継続率ランキング」ベスト30を見てみよう。「最終回継続率」とは最終回のポイントを初回のポイントで割った数値。最終回継続率が高い(=初回に比べて最終回のポイントが高い)ということは作品内容に対する満足度が高い傾向にあるのでは、という仮説に基づいた検証である。

こちらでも「逃げるは恥だが役に立つ」がトップに立ち、当時のムーブメントの大きさをあらためて思い起こさせるが、ランキング全体から感じられるのは、平均録画視聴数では苦戦していた20年以降の作品が上位に並んでいることだ。3、4位に昨年の「VIVANT」(TBS系)と「ブラッシュアップライフ」(日本テレビ系)が並んでいるのが象徴的だ。「この後どうなるの?」と手に汗握って先の展開を待ちわびる連続ドラマの醍醐味(だいごみ)を、この2作品は存分に味合わせてくれたといえる。

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そして継続率においてはオリジナルドラマの比率が下がって、ベスト30のうち10作にとどまった。漫画原作が10作、小説原作が9作と、それぞれが拮抗(きっこう)している。先に書いたように放送本数ではオリジナルが多いわけだから、ここでは原作ドラマが健闘しているといえるだろう。

プライムタイムドラマとのポイントの差が大きいために今回の集計には含めなかったが、深夜ドラマにおいては、相対的に漫画原作の比率が高いことも指摘しておきたい(深夜ドラマ全体の約40%が漫画原作)。近年WEBで配信されたドラマの再利用も含め、深夜ドラマの放送作品数が急増しており、昨年は8年前の約2倍の本数にのぼっている。製作現場の負担増という問題も含めて、漫画とドラマの切っても切れない関係が今後も続くだろうことは疑う余地がない。

今回の検証で、少なくともプライムタイムでは、テレビドラマが漫画原作に過度に依存しているとは言えないが、記憶に残るヒットドラマを多く生んでいることや、相対的な安定感という点で、漫画原作ドラマが大きな存在感を示しているということが分かった。今後も互いへのリスペストを胸に多くの作品が制作され、私たちを楽しませてくれることを切に願いたい。

文/武内朗
提供/TVS REGZA株式会社

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