King Gnuは感情のままに駆け抜ける ブッとんだ演奏で5万5千人を熱狂させた東京ドーム公演

King Gnu初の5大ドームツアー『King Gnu Dome Tour「THE GREATEST UNKNOWN」』。1月28日、開演前の東京ドームの巨大ビジョンに「WARNING 我々ブッとんだ演奏をすることがございます」というメッセージが映った。ロックバンドはぶっ飛んでこそなんぼ。そして、「する場合がある」という言い回しは、ロックバンドはその時々の感情のままに音楽を鳴らすリアルな生き物であるということを示唆しており、この日この時だけのKing Gnuの姿に期待が高まる。

〈“U R MY SPECIAL”〉という歌が聴こえ、赤い照明の中、常田大希(Gt/Vo)、井口理(Vo/Key)、新井和輝(Ba)、勢喜遊(Dr/Sampler)の4人が登場。まずは「SPECIALZ」が演奏されるとビジョンに巨大な眼球が映り、〈冷静にはならないで〉〈あなたはそのままで〉という歌詞が歌われた。まさにこの日のライブの狼煙を上げるに相応しい楽曲だ。

アルバム『THE GREATEST UNKNOWN』の冒頭を飾るインストゥルメンタル「MIRROR」が不穏に轟き、ビジョンに「THE GREATEST UNKNOWN」のロゴが大きく映し出された。このタイトルには、「いつだって時代を動かしているのは名もなき、声なき人たちである」という意味合いがある。ロックも含む大衆音楽の主役は聴き手だ。その想いは、多くの人たちを巻き込んで巨大な群れになるというイメージを宿したバンド名にも通じる。『Sympa』『CEREMONY』『THE GREATEST UNKNOWN』と、その思想は一貫しつつ、実際に群れは拡大し、海外にも飛び火している。

ステージから火花が上がる中、常田のやさぐれたボーカルが凶器のように炸裂した「W●RKAHOLIC」が終わると、ステージ真ん中にサングラスをかけた金髪の椎名林檎が登場し、millennium parade × 椎名林檎「W●RK」が披露された。拡声器を持った常田は椎名の周りをアグレッシブに動きながらラップを披露……かと思うと、ギターを持ち、激しくかき鳴らす。つんざくようなギターリフの中、片腕を上げてサングラスを外し、颯爽と去っていく椎名の姿に常田の「椎名林檎ー!」というシャウトが重なる。間髪入れずにビジョンには赤く染まった“阿修羅”の文字が映った。〈修羅修羅修羅の道〉という中毒性抜群の歌が響き、さらなるカオスの世界に突入。何がすごいって、椎名林檎が登場しmillennium paradeの楽曲を披露するという最大級のサプライズのテンションを1ミリも落とすことなく、プログレッシブな楽曲でもある「 ):阿修羅:( 」で、約5万5千人のオーディエンスが激しく熱狂し続けていたことだ。これが時代を作るということなんだろう。

「δ」を挟み、名バラード「逆夢」で外向きに放射された熱狂を一気に内に取り込んで、血肉化させる。「IKAROS」で井口の惚れ惚れするほど美しい歌声が響いた後は、常田のワイルドなアジテーションから「Slumberland」へ。この曲もまた2024年のドームツアーに相応しくアップデートされていた。アルバムを完璧なアートにするために既発曲をビルドアップし、そのアルバムを携えたツアーならば、過去の楽曲もビルドアップするのは当然と言わんばかりの堂々たる風格を見せつけた。

常田のギターリフがドライブしていく「Sorrows」で「Sorrows!」という5万人のシャウトがばっちり決まった後、バキバキにチューンナップされた「Flash!!!」に雪崩れ込む流れも鳥肌が立つほどかっこよかった。青白いレーザーが飛び交う中、常田が「飛べ!」とシャウトし、約5万5千人が腕を掲げてジャンプ。井口がタンバリンを持ってジャンプをしながら歌い、勢喜が顔を歪ませながらビートを刻み、新井がにこやかにグルーヴを紡ぎ、常田が鬼神のような様相でギターと歌を鳴らす。ロックバンドだけが生み出せるカタルシスが爆発していた。

井口が万感の表情を浮かべて「最高!」と言った後、「皆さんが今日を迎えるためにどんな気持ちで臨んできたか伝わりました。ありがとう!」と口にした。「BOY」では、MVに登場していたKing Gnuの子供時代を演じた子役4人が演奏する姿がビジョンに映る。今のKing Gnuの4人が演奏する姿も映り、「バンドとは自由で楽しいものである」というメッセージにも、「バンド活動は永遠の青春である」というメッセージにも思えた素敵な演出だった。

『THE GREATEST UNKNOWN』の終盤に置かれたエレクトロのインスト曲「仝」が流れ、ライブが終盤に差し掛かっていることを示した後は、アルバムの曲順と同じく「三文小説」へ。ビジョンに熱唱する井口の姿とエンドロールが流れる。アルバムのラストを飾る「ЯOЯЯIM」が響き、興奮が混じった拍手の中、ビジョンには再び「THE GREATEST UNKNOWN」のロゴが映った。

スマホライトが照らされる中、満面の笑顔で井口が登場し、「ありがとう!」と感謝を伝えた。しばし間を空けて、しみじみかつ誇らしげに「良いバンドだね」と口にした。常田はそれに賛同するかのように、右手を高々と掲げ、4人の間に感慨深い空気が流れた。

常田が「あと2曲やります。今回はアルバムのツアーだから普段と違う始まり方で普段と違う終わり方をしたんだけど、アンコールの2曲はKing Gnuを代表する『Teenager Forever』と『飛行艇』です。この2曲は大勢で歌うことを考えて作った曲で、今日はたくさん歓声をもらったんだけど、その10倍くらいの大きさで歌いませんか? 全部歌って。俺も理も歌うから」と話すと、井口が「かき消して」と続けた。常田はさらに、「俺らもその分もっと歌うから。最後にここにいる5万5千人、限界まで歌って全部のエネルギーを置いて、明日お仕事頑張って(笑)」と話し、いたずらっ子っぽい表情で「やっちゃう?」とメンバーに呼びかけ、井口がハンドマイクで前のめりの姿勢で「Teenager Forever」を歌い出した。もちろんオーディエンスもイントロから大合唱だ。楽曲が宿すスケールに呼応するように、どんどん大きく育っていくKing Gnu。いつだって時代を司るのはそういうバンドだ。音楽はそのアーティストがいなくなった後も残り続け、その時代を生きる“THE GREATEST UNKNOWN”に継承される。

「Teenager Forever」「飛行艇」──King Gnuが放つ音楽を全身で浴びながら、その存在の喜びを思いっきり享受する人々の姿がそこにはあった。

(文=小松香里)

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