夫急死も「遺族年金ゼロ円」の無情…40代・子育て中の働く妻、日本の年金制度に思わず悔し涙のワケ

(※写真はイメージです/PIXTA)

突然降りかかる、家族の死という悲劇。残された遺族は「遺族年金」が生活の糧となるが、故人が年金をしっかり納めていた場合でも、すべての遺族が遺族年金を受給できるわけではない。実情を見ていく。

想定外の死…6割が「遺族年金だけでは不十分」との認識

人生には「まさか」がつきものだ。突然の災害、偶然巻き込まれた事故、思いもよらぬ病気、そして、想定外の死…。

生命保険文化センター『2022年度 生活保障に関する調査』によると、万一の事態の際に「遺族年金など公的な死亡保障で賄える」と思っている人は25.9%だが、「賄えると思わない」人は64.6%だった。

※1 「まったくそう思う」と「まあそう思う」の合計

※2 「あまりそう思わない」と「まったくそう思わない」の合計

上記から、公的保障に不足を感じている人が多数派であることが分かる。

そんな不安に対し、私的な準備の有無についての質問には、73.1%が「準備をしている」、24.3%が「準備をしていない」と回答。やはりというべきか、準備している人が7割以上と多数だが、不安はあっても準備をしていない人が、およそ4人に1人いる。

公的保証である遺族年金だが、これには国民年金に由来する「遺族基礎年金」と、厚生年金に由来する「遺族厚生年金」がある。

ざっくりと説明すると、遺族基礎年金は子育て中の世帯への保障、遺族厚生年金は会社員、または会社員だった世帯への保障だ。しかし、受給するにはさまざまな条件があるため、その点をしっかり確認することが重要である。

実際の保障額だが、遺族基礎年金は年間「79万5,000円+子の加算額」であり、遺族厚生年金は「死亡した人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額」となっている。加えて、さらに要件に当てはまるなら「中高齢寡婦加算」なども加算される。

会社員の夫を亡くした子育て中の妻…遺族年金がもらえない場合

公的な死亡保障である遺族年金だが、日本ではどれほどの人が、どの程度の金額を手にしているのだろうか?

厚生労働省の『令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、遺族基礎年金の受給者はおよそ9万人、1ヵ月の受給額は平均8万4,352円、遺族厚生年金受給者はおよそ577万人、1ヵ月の受給額は平均8万1,540円だ。

元会社員を亡くした子育て中の妻なら、遺族年金だけで平均月17万円程度だが、さらに児童手当等の給付金が支給されれば、月20万円は超える可能性が高い。これなら、当面の生活費は公的保障だけでどうにかなりそうだ。

だが「子育て世帯=必ず遺族年金がもらえる」とは限らないのをご存じだろうか。

たとえば、40代で、子どもを2人持つ女性が夫を亡くしたとする。遺族基礎年金が月10.4万円、遺族厚生年金が平均額だとすると、合計月18.5万円を手にできるはずだ。

だが、この女性がそれなりの役職についたキャリアウーマンであり、大卒女性の上位4%しかいない「年収850万円以上/所得655万5,000円以上」だったらどうか?

その場合、遺族年金は受け取れない。

遺族年金の受給対象の要件として「亡くなった人に生計を維持されていること」があるのだが、そこには「前年の収入が850万円未満であること。または所得が655万5千円未満であること」という収入要件がある。大卒女性の上位4%のキャリアウーマンはこの要件をクリアできず、遺族年金をもらうことはできない。

それだけ稼げるなら、別に国が助けなくても、子どもを抱えてシッカリ生きていけるだろう?

ということなのだろうが、必死でキャリアを積み、歯を食いしばって働いてきた当人からすれば、悔し涙の出るような不条理な話ではないか。夫を亡くしたうえ、遺族年金の受給もできないとなれば、まさにダブルパンチである。

現在では、専業主婦世帯は減少し、共働き世帯が多数派となっている。働く女性が増えたいま、夫がいなくなっても大丈夫、一馬力で家計を維持し、子育てだってやってのける…という人は、ますます増えていくのだろう。

遺族年金の収入要件は時代に取り残されたまま、多くの人にとって少なからぬ疑問が残る制度になっているといえる。

[参考資料]

厚生労働省『令和4年 簡易生命表』

生命保険文化センター『2022年度 生活保障に関する調査』

厚生労働省『令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況』

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