日本も捨てたもんじゃない…年金月6万円の65歳女性、年金機構から届いた“緑色のはがき”に歓喜のワケ【CFPの助言】

(※写真はイメージです/PIXTA)

国民年金保険料の納付金額は、65歳以降の年金受給額に反映します。会社員であれば自ら手続きする必要はほとんどないですが、無職の期間が長かったり自営業になったりした場合、“ついうっかり”未納のまま過ごし、支給がはじまってから後悔する人も少なくありません。牧野FP事務所の牧野寿和CFPが、具体的な事例を交えて解説します。

国民年金を未納のまま放置した結果…年金は「月6万円」

個人で婦人服の仕立業を営んでいる65歳のAさん(女性)は、月6万円の老齢厚生年金と約5万円の事業収入(計11万円)で暮らしています。生活費は毎月18万円位と、現在の収入では生活が成り立たず、貯金を切り崩す日々です。

生涯独身で過ごすことを決め、それなりの準備をしてきたつもりだったAさん。貯金はまだ残っていますが、人生100年時代、いつまで生きるかわかりません。

なにより、自分の主な収入である年金について、制度をよく理解していないという事実に危機感をおぼえていたAさん。そこで、Aさんの義兄と懇意にしていた筆者のところへ相談にみえたということでした。

Aさんの相談内容

Aさんは筆者に、日本年金機構から届いた数種類の書面をみせながら、次の3点を知りたいと言われました。

・年金受給額に間違いはないか?

・年金機構から届いた緑色のはがき「年金生活者支援給付金」とはなにか?

・将来の生活は大丈夫か?

年金受給額に間違いはないか

Aさんは大学卒業後、都内の婦人服製造販売会社に就職して、厚生年金に加入しました。

32歳のころ、会社の先輩から、「独立してお店を持つから手伝ってくれない」と言われ、先輩と一緒に退社して、先輩の洋裁店で働き、国民年金に加入しました。そのころは後に「バブル景気」といわれた時代で、Aさんの年収は1,000万円を超える年もあったそうです。

先輩の事業は順調でしたが、Aさんは自分で顧客が希望する服を仕立てたくなり、45歳で起業しました。

その頃には、Aさんがコツコツ貯めた貯蓄額は5,000万円を超えていたそうです。そこで、将来年金を当てにしなくても生活はできると思い、45歳から60歳まで国民年金の保険料を払っていませんでした。

Aさんの年金加入歴は[図表]のとおりです。

[図表]Aさんの年金加入歴
出所:筆者が作成

Aさんの年金受給額の明細

国民年金保険料を20歳から60歳までの40年間(480ヵ月)全期間全額納付した場合、老齢基礎年金は79万5,000円(月額6万6,250円)となります。

しかし、Aさんの年金受給額は、20歳以降の学生時代と45歳から60歳まで、合計18年間(216ヵ月)の未納期間分が減額され、納付した22年間分(264ヵ月)です。

79万5,000円×264ヵ月(22年)/420ヵ月(40年)=43万7,250円(月額3万6,437円)

なお、老齢厚生年金の受給額は、会社に勤務していた期間とその間の給与とボーナスで決まります。また加入期間中は、国民年金にも加入したことになります。

したがって、月額にして6万円(老齢厚生年金:月2万3,563円+老齢基礎年金:3万6,437円)で間違いありません。

年金受給額が月6万円という事実を再認識したAさんは「年金を払わなかったのは自分なので自業自得ですが、まさかこんなに少ないなんて……」と後悔している様子でした。

日本もまだまだ捨てたもんじゃない…Aさん歓喜の真相

年金機構から「緑色のはがき」で送られてくる給付金の申請書

また、Aさんから「年金とは別で、2ヵ月に1度口座に入金される5,654円はなんのお金でしょうか」との質問がありました。

この入金の正体は、「年金生活者支援給付金」といい、公的年金等の収入やその他の所得額が一定基準額以下の年金受給者の生活を支援するために、年金に上乗せして支給されるものです(厚生労働省HPより)。

この給付金も、日本年金機構に申請しなければ受給できません。

年金生活者支援給付金制度※の支給要件

「年金生活者支援給付金」の支給要件は次の通りです。

(1)65歳以上の老齢基礎年金の受給者である。

(2)同一世帯の全員が市町村民税非課税である。

(3)前年の公的年金等の収入金額とその他の所得との合計額が87万8,900円以下である。

Aさんの場合、(1)(2)(3)すべてに該当していました。

年金生活者支援給付金の算出式は、次の①と②の合計額です。この制度も、老齢基礎年金の受給額と同様、未納分は減額されます。

【年金生活者支援給付金の算出式①+②】

①保険料納付済期間に基づく額(月額)

=5,140円×保険料納付済期間/被保険者月数480ヵ月

②保険料免除期間に基づく額(月額)

=1万1,041円または5,520円×保険料免除期間/被保険者月数480ヵ月

Aさんに当てはめると、①の国民年金(厚生年金加入期間も含む)の保険料納付済期間は264ヵ月です。②は年金保険料の免除申請していないため0円です。つまり、

①5,140円×264ヵ月(22年)/480ヵ月=2,827円

と、年金生活者支援給付金が2,827円支給されます。ちなみにこの給付金は非課税です。

Aさんは、年金生活者支援給付金が月2,827円、合計毎月6万2,827円の2ヵ月分、12万5,654円の入金を確認しました。

入金の正体を知ったAさんは「ああ、そういえば年金機構から届いた緑色のはがきがありましたね。年金の申請書類といっしょに請求したのかな。金額にすると大きくはないけれど、年金生活の足しになるのはありがたい……日本もまだまだ捨てたもんじゃないですね!」と喜んでいました。

なお、支給要件を満たす場合、2年目以降の手続きは原則不要です。

「年金で資産形成ができたのに」後悔していたAさんだが…

Aさんは念のためにと、国民年金を毎月納付した時の受給額について知りたいとのこと。そこで、筆者が令和5年度の保険料と受給額で計算してみました。

国民年金保険料を満額納付していれば、年間79万5,000円を受給できます。Aさんの受給額との差は35万7,750円です。65歳の女性の平均余命24.30年で考えると、90歳までの25年間で864万3,750円の差額が生じます。

国民年金保険料は月1万6,520円です。Aさんが納付しなかった18年分に換算すると、総額は356万8,320円となります。いまさらどうしようもないことですが、未納期間分の保険料を納付しておけば、納付額の約2倍超も受給できたことになるのです。

また、国民年金を満額の79万円5,000円受給しても、年金生活者支援給付金制度の支給条件に合致すれば、給付金も支給されます。

なお、もし40年間に達するまでの期間分を、60歳以降も国民年金に任意加入して保険料を納付していれば、Aさんは年金額の上乗せができていました。

ここまで聞いたAさんは、「まじめに払っていたら資産形成できていたのに……」と、若かりし頃の自分の行動を後悔しながらも「今回きちんと知れて良かったです。自分の状況をしっかり把握できたので、今後の対策をたてやすくなりました。まずはいま助けられている年金生活者支援給付金が支給されなくなるくらい、仕事を頑張って収入を増やしたいと思います!」と、気持ちを切り替えて前を向いていました。

Aさんの言葉どおり、自身の現状を正しく把握することは、将来の計画を立てるうえで非常に大切です。改定を重ねて複雑化した年金制度をすべて理解する必要はありませんが、自分に関係しそうな制度やトピックは、定期的にチェックしておくとよいでしょう。

牧野 寿和
牧野FP事務所合同会社
代表社員

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