隠蔽か、経理ミスか…交際費を土地代に算入。更正処分を受けるも、税務署に「逆転勝利」のワケ【税理士が解説】

判断が難しい交際費の損金算入。意図せず誤ってしまった場合にも、税務署から重加算税を課されてしまうのでしょうか? 本記事では、税理士の伊藤俊一氏による著書『税務署を納得させるエビデンス 決定的証拠の集め方』シリーズ(ぎょうせい)から、交際費の勘定科目と重加算税に関するエビデンスについて解説します。

勘定科目を誤った交際費は重加算税になる?

Q

交際費等の勘定科目と重加算税の関係について教えてください。

A

当初処理時の勘定科目が違っていても直ちに重加算税が課されることはありません。裏を返せば当初の勘定科目自体が証拠にはならない、ともいえます。あくまで原則論ですが、租税法は課税所得計算が正しいかを見ており、勘定科目には介入しません。

「法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)」にも「確定した決算の基礎となった帳簿に、交際費等又は寄附金のように損金算入について制限のある費用を単に他の費用科目に計上している場合」は「帳簿書類の隠匿、虚偽記載等に該当しない」とあります。

当初処理時の勘定科目が納税者の認識と違っただけであり、それが隠蔽、仮装に該当しないものであるなら、当然、それは重加算税の対象になり得ません。

交際費を売買代金として算入…隠蔽?ミス?

(重加算税/隠蔽・仮装行為)
審査請求人が土地等の売主A社に売買代金とは別に、A社の増額要求に応じて支払った金員は、土地等の売買代金ではなく交際費等に該当するが、その金員を売買代金として損金の額に算入したことにつき、隠ぺい又は仮装に該当する事由はないとして、重加算税の賦課決定処分を取り消した事例
(平22-04-20裁決)TAINSコードF0-2-388

売買契約を円滑にするために支払われた、土地代金とは別の「交際費」

<裁決の要旨>

1 本件は、一般土木建築工事業を営む請求人の法人税について、原処分庁が、請求人の売上原価のうち追加して売主A社に支払ったとする転売した土地の購入代金は架空計上されたものであるなどとして、更正処分等を行ったのに対し、請求人が、原処分庁の事実認定に誤りがあるとして、当該更正処分等の全部の取消しを求めた事案である。

2 本件別口金により支払われた金員は、本件売買契約の代金とは別の性格の資金として用意され、A社の会長と称されるKに支払われたものの、請求人のA社に対する本件売買契約上の何らかの債務を消滅させるための支払とは認められず、少なくとも本件土地等の売買代金すなわち売上原価とみることはできない。

3 本件別口金により支払われた金員は、請求人及びF社によって、A社の関係者であるKに対し、本件売買契約を円滑に進めるために、贈呈されたものであるから、事業に直接関係のない者に対して贈与されたものとは認められないので、寄附金に該当するものとはいえない。

交際費の要件は、事業に関係のある者に対し、親ぼくの度を深める目的で、行われた贈答等であると解されるところ、本件別口金により支払われた金員は、請求人及びF社から、A社の関係者であるKに対し、本件売買契約を円滑に進めるために、贈呈されたものであるから、租税特別措置法第61条の4第3項に規定する交際費等に該当するというべきである。

4 本件別口金により支払われた金員の費用としての性格は、交際費等に該当するが、本件別口金のうち、50%部分は、請求人が負担したものではなくF社が負担したものであり、請求人別口金(50%部分)は、請求人が負担したものである。

したがって、本件別口金のうち、F社が負担した50%部分は、本件事業年度の損金の額に算入されるものではなく、事実、請求人は算入しておらず、また、請求人が負担した50%部分は、交際費等として、本件事業年度の損金の額に算入されることになる。

売買契約と同時に支払われたので、土地代金の一部であると「誤認」した

5 請求人別口金の支払は、A社の会長と称されるKから本件売買契約の締結過程で求められ、その締結及び代金支払と同じ機会になされたことからすれば、請求人の代表者が、当該請求人別口金の支払を本件土地等の代金の支払に含まれると認識していたことは十分考えられ、交際費等に当たるものと認識していたと認めるに足る証拠はない。

6 そうすると、請求人が、請求人別口金により支払われた金員を本件土地等の売買代金として損金の額に算入したことについて、故意に事実をわい曲し、あるいは隠ぺい・脱漏したとまで認められない。

したがって、本件更正処分の基礎となった事実のうちには、国税通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装に該当する事由はないと認めるのが相当である。

経理者のミスで、隠ぺいではないと判断された

〈判断(一部抜粋)〉

ロ 判断

(ロ)法令の適用

請求人別口金により支払われた〇〇は、上記(1)のロの(ロ)のFのとおり、交際費等に該当するが、

前記1の(4)のリの(ハ)のとおり、請求人の総勘定元帳には「〇〇」と記載され、「商品土地仕入高」勘定として損金の額に算入されており、〇〇は、当審判所に対して、本件売買契約の決済は1回でしており、総勘定元帳に「土地手付金」と記載したのは私が指示したものではなく、経理の者のミスである旨答述する。

この点、〇〇が請求人別口金により支払われた〇〇の経理処理にいかなる関与をしたか明らかではないが、

この〇〇の支払は、〇〇の会長と称される〇〇〇〇から本件売買契約の締結過程で求められ、その締結及び代金支払と同じ機会になされたことからすれば、

〇〇〇〇が当該〇〇を本件土地等の代金の支払に含まれるものと認識していたことは十分考えられ、交際費等に当たるものと認識していたと認めるに足りる証拠はない。(※下線筆者)

そうすると、請求人が、請求人別口金により支払われた〇〇を本件土地等の売買代金として損金の額に算入したことについて、故意に事実をわい曲し、あるいは隠ぺい・脱漏したとまでは認められない

また、上記(1)のロの(ロ)のEの(A)のとおり、〇〇〇〇〇に相当する金額については、売上原価に過大計上されていないのであるから、故意に事実をわい曲し、あるいは隠ぺい・脱漏したとは認められない。

したがって、本件更正処分の基礎となった事実のうちには、通則法第68条第1項に規定する隠ぺい又は仮装に該当する事由はないと認めるのが相当である。

伊藤 俊一

税理士

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