社説:紅こうじ被害 拡大防ぐ措置が急務だ

 健康への期待に背き、食品の安全を大きく揺るがす事態である。

 小林製薬(大阪市)が製造した米こうじの一種「紅こうじ」が原因とみられる健康被害が相次ぎ明らかになっている。

 成分を配合した機能性表示食品のサプリメントの定期購入者ら2人が腎疾患で死亡し、因果関係が疑われるほか、摂取後の入院報告は100人超に上っている。

 同社が最初に健康被害を把握してから、先週末に使用停止の呼びかけと自主回収を公表するまで2カ月超を要し、対応の遅れが被害の拡大を招いたのは否めない。

 同社の紅こうじを原料に使った京都企業の酒、みそなど幅広い商品のメーカーが自主回収に追われ、全国に波紋が広がっている。

 事業者と国、自治体が早急に実態を把握し、さらなる被害を防ぐ手だてを尽くさねばならない。

 紅こうじは、血中コレステロール値を正常に保つ効果が期待できるとされ、国内外でサプリメントが販売されている。食品の着色や風味付けにも広く使われる。

 ただ、カビ毒「シトリニン」をつくることがあり、欧州では複数の健康被害の報告から含有サプリの使用を制限する動きがある。

 今回、同社には1月半ば以降、複数の医師らから被害の疑いが伝えられた。原因とみたシトリニンが検出されず、他の要因も特定できないまま公表が遅れたという。

 現段階では、一部から検出された「カビ由来の未知の成分」が腎疾患につながった可能性があるとし、原因究明を進めるとする。

 カビ毒のリスクのある物質で、相次ぎ医師から指摘を受けたなら、速やかに被害防止に動くのが当然だろう。自社製品のみならず、生産量の約8割に上る原料供給先への情報提供も遅れ、事態を広げた責任は極めて重大だ。

 問題のサプリ3商品が「血圧を下げる」「内臓脂肪を減らす」など効能をうたった機能性表示食品であることも見過ごせない。

 国が審査する特定保健用食品(トクホ)と異なり、事業者の責任で論文データなどを消費者庁に届ければ効能を表示できる。2015年に安倍晋三政権の成長戦略で導入されたが、信頼性や監督態勢への不安が現実となった形だ。

 国は、届け出済みの6千件超の機能性表示食品の緊急点検を打ち出した。行政が安全性を担保しない制度で起きた健康被害である。制度の意義や枠組み、問題が生じた際の対応を含めて見直しの議論が必要ではないか。

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