バスの減便・廃止、運転手不足で苦渋の決断 路線運行の各社は採用に知恵絞る

路線廃止などの張り紙が並ぶ前橋赤十字病院の停留所

 バス運転手の新たな労働時間規制を控え、乗り合いバス(路線バス)をやりくりする企業は人手確保に腐心してきた。規制に見合う手厚い人員はすぐにそろえられず、利用者にしわ寄せが及ぶ減便・廃止に踏み切った会社は「今回は採算の問題ではない」と言い切る。規制による労働環境の向上と、希望者が集まるような魅力発信を掲げ、採用活動を続ける。

 現在3社が乗り入れる 前橋赤十字病院(群馬県前橋市)の停留所は、4月から1社2系統のみになる。27日午前にバスを使った男性(82)はつえを突き「本数が少なく不便」と話すが、その便もなくなる。付き添う妻(76)は「どうしたらいいかね」と困り顔だった。

 同院には利用者から増便を求める声が寄せられていた。総務課は「むしろ増やしてほしいと思っていたのでショックだ。市にも循環バスの延伸などを要望しており、患者の意向に応えていきたい」とした。

 日本中央バス(前橋市)は1日(一部は3月下旬)のダイヤ改正で2路線を休止、別の路線で一部停留所を廃止する。担当者は「規制に対応したいが運転手がいない。常時募集の上、1年以上前から何度も会社説明会を開いた」と語る。採用活動は多少実を結び、自社の高速バスや貸し切りバスの運転手にも助っ人を頼むが「まだ足りない」という。

 一方で廃止路線は沿線の学校と相談し、近隣の別路線に通学しやすい時刻の便を設ける。団地を通る路線では行き先が枝分かれしていたが、免許がない高齢者向けに商業施設を通る新ルートに統合。土日の運行再開も決め、住民から感謝の電話があった。担当者は「縛りの中で可能な限り要望に応えるダイヤにした」と声を振り絞った。

 群馬中央バス(前橋市)は9路線のうち2路線を廃止、6路線で減便する。苦渋の決断には利用者減や燃料費高騰もあるが「何より運転手不足。国などの補助制度があっても、手を挙げる人がいない。やりがいを広めてほしい」という。

 昨年4月に減便した群馬バス(高崎市)は今回も早朝と夜間の便を調整し「運転手の賃金が下がらないよう模索したい」。関越交通(渋川市)は「始発から最終まで1人で運行する小規模路線の一部の減便にとどめた」と説明。永井運輸(前橋市)も一部路線で利用者が少ない便を減らす。

 前橋工科大の吉田樹・特任准教授(地域交通政策)は「交通産業は長時間労働で給与水準が低く、大変だと思われがち。マイカー社会で成長の見込みがイメージしにくく、選ばれにくくなっている」と指摘する。

 乗り合いバスは労働時間の規制を踏まえ、人口規模を問わず全国で減便や廃止が相次いでいるという。本県は自治体が運行を委託し補助する路線が多く「4月の変化は少ない方だが、楽観はできない」。もともと便数が少ない上、今後は自治体が支えなければ維持できない自主運行路線が出てくると推測し、「公共交通に前向きな自治体と、そうでない自治体で、充実度に差が開いていく」と展望した。

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