宝塚側が謝罪 上級生など14項目のパワハラ認め、遺族側と合意書【劇団員急死問題】

宝塚歌劇団は28日、公式サイトに「宝塚歌劇団宙組劇団員の逝去に関するご遺族との合意書締結のご報告 並びに再発防止に向けた取組について」と題した文書を発表。阪急阪神ホールディングス、阪急電鉄、宝塚歌劇団の連名で、昨年9月に同宙組の劇団員が急死した問題に関し、遺族側と合意書を締結し、再発防止に向けての取組について報告。故人(被災者)へのパワハラ、劇団側の責任を認め、謝罪した。

次の3点を挙げ「合意書調印の席には、阪急阪神HD代表取締役会長グループCEO角和夫をはじめとする関係者が出席し、ご遺族に対し謝罪を申し上げ、本件と同様の事態を二度と生じさせないよう、健康な職場をつくるために全力を尽くすことをお誓いいたしました。 あらためて、亡くなられた劇団員のご冥福をお祈りするとともに、ご遺族には心よりお詫び申し上げます」とした。

・厚生労働省指針が示す「職場におけるパワーハラスメント」に該当する様々な行為を行ったことによって、被災者に多大な心理的負荷を与えたことを認める。

・劇団が経営陣の怠慢(現場における活動への無理解や無配慮等)によって長年にわたり劇団員に様々な負担を強いるような運営を続けてきたことがかかる事態を引き起こした。

・全ての責任が劇団にあり、被災者に対する安全配慮義務違反があった。
加えて、阪急・劇団側は同様の被害が二度と生じないよう健康な職場を作るために全力を尽くすこと、遺族に対し相当額の慰謝料等解決金を支払うことを記した。

阪急・劇団側が認めたパワハラ案件は次の14項目。なお、「本件新人公演」とは、2023年10月19日に開演される予定であった宙組下級生による新人公演を指す。
(1) 2021年8月14日、宙組上級生が、被災者が自分でやることを 望んでいたにもかかわらずヘアアイロンで被災者の髪を巻こうとして、 被災者の額に1か月を超えて痕が残るほどの火傷を負わせたこと、及び、 それにもかかわらず、当該宙組上級生は、真に被災者の気持ちを汲んだ 別紙1 2 気遣い・謝罪を行わなかったこと。
(2) 2021年7月20日の新人公演の直前の2日連続深夜に、宙組上 級生の指示により、被災者が髪飾りの作り直しの作業を行うこととなっ たこと。
(3) 2021年8月頃、宙組上級生が被災者に対し、新人公演のダメ出しで人格否定のような言葉を浴びせたこと。並びに、宙組プロデューサー(当時)がこれを認識しながら放置し、対処をしなかったこと。
(4) 2023年2月3日、宙組幹部4名が被災者を会議室に呼び出したこと、並びに、その後宙組生全員の集まりをひらいたことにより、被災者が過呼吸の状態になるほど大きな精神的負担が生じたこと。
(5) 宙組プロデューサーが前(4)項の会議室を確保し、被災者が精神的負担を受ける場を設定したこと、並びに、被災者が組替えを求めたことに対しこれを無視したこと。
(6) 2023年2月1日、劇団が、上記(1)の事件につき、「全く事実無根」との見解をホームページ上で発表したこと。
(7) 劇団が、被災者に対し、死亡前直近1か月間において、過大な業務量を課し、長時間業務を行わせたこと。
(8) 本件新人公演に向けた準備において、「振り写し」が必須ではなく、また本件新人公演の演出担当者が「振り写し」を行う必要はないと言っていたにもかかわらず、宙組幹部が、被災者に対して、「振り写し」を 行うべきであると指導し、その結果、被災者に一層の過重な業務が課せられたこと。
(9) 本件新人公演に向けた準備において、「お声がけ」を行うことは必須ではなく、被災者を含む下級生に負担が生じる状況であったにもかかわらず、宙組幹部が「お声がけ」を行う必要はないと宙組生に指導せず、その結果、被災者に一層の過重な業務が課せられたこと。
(10) 本件新人公演に向けた準備において、本件新人公演の演出担当者の怠慢により、被災者が同人の業務を肩代わりせざるを得なかったこと。
(11) 2023年9月2日、本件新人公演の配役表に関して、宙組幹部が、午後10時以降の深夜帯に被災者を指導・叱責し、これにより被災者が 午後11時50分になっても帰宅できない状況になったこと。
(12) 2023年9月下旬、宙組幹部が、被災者に落ち度がないにもかかわらず、「振り写し」に関し、被災者を指導・叱責したこと。
(13) 2023年9月27日、下級生による衣装の取り扱いに関する衣装 部門からの苦情に関し、被災者に落ち度がないにもかかわらず、宙組上3級生が被災者に対し、下級生の失敗は被災者の責任であるとして指導・ 叱責したこと。
(14) 2023年9月28日又は同月29日、宙組上級生Aが、被災者に落ち度がないにもかかわらず、「お声がけ」に関し、被災者を大きな声で指導・叱責したこと。その後、宙組上級生Aが、別の宙組上級生Bを呼び出し、被災者について指導したうえで、宙組上級生Bが、他にも宙組上級生がいる中で、被災者に嘘をついているかと繰り返し詰問したこと。

再発防止について、宝塚歌劇団は1990年代後半以降、新劇場の開場や観劇人口の拡大が背景にあると説明。興行数や公演回数の最大化に努める一方、公演スケジュールが過密となり、舞台の高度化や複雑化に伴う組織全体の負担が増大したため、現場の負担が増加の一途をたどった、とした。

「そうした負担を軽減する措置や現場をサポートする体制の整備が追いついていませんでした。さらに、そのような状況にある現場の意見に耳を傾け改善に繋げる仕組みや環境整備も十分ではありませんでした。その結果、劇団員をはじめとする出演者やスタッフは、時間的にも精神的にも追い詰められた状況におかれておりましたが、かかる状況を放置し、またその中で、行き過ぎた指導・叱責がハラスメントに該当する可能性があることや、互いに尊重しあう関係のあり方などについて考えるような教育・研修の機会を設けることもしなかった阪急阪神HD並びに阪急電鉄及び劇団の責任は、極めて重いと考えております」

阪急・劇団側は、組織運営に大きな不備があり、その結果、「現場任せ」の運営となり、劇団員をはじめとする出演者やスタッフに様々な負担を強いるような状況が続いてきたことを「痛切に反省」と記した。

そして、改善策として4つの指針を示した。

興行数・公演回数を削減する「公演回数の見直し」。
稽古スケジュールの見直しと時間管理、健康管理を強化し、現場の問題を把握し意見を吸い上げる体制、内部監査を強化する「組織的なマネジメントやサポートを強化するための体制・システムの整備」。
過去から伝承されてきた慣習・しきたり・指導方法を見直し、出演者・スタッフの役割分担を見直し、人材育成を強化する「劇団員及び関係者の意識改革・行動変容を促す取り組み」。
外部有識者で構成されるアドバイザリーボード、阪急阪神HDで社長直轄の組織としてリスクマネジメント推進室を新設する等の「劇団の改革を実効性の高いものとするためのサポート体制の整備」

以上の謝罪、反省、改善策を文書で公開している。

(よろず~ニュース編集部)

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