【韓国ドラマ】『タッカンジョン』『恋愛体質』に登場する「平壌冷麺」はどんな料理?〈前編〉澄んだスープの中に肉の香り、癖になる美味しさ!

Netflix配信ドラマ『タッカンジョン』は、ひょんなことからタッカンジョン(フライドチキンの一種)に変身してしまった娘(キム・ユジョン)を人間に戻そうと、父親チェ・ソンマン(リュ・スンリョン)と彼女に片思いしている青年コ・ペクジュン(アン・ジェホン)が奮闘するコメディミステリーだ。

その第3話に、ペクジュンとグルメ評論家ホンチョ(チョン・ホヨン)が出逢ったときの回想シーンがあった。

■『タッカンジョン』回想シーンの平壌冷麺、アン・ジェホンは『恋愛体質』でも平壌冷麺店でデート

『タッカンジョン』第3話の回想シーンで二人が出会ったのは、偶然相席になった平壌冷麺の店だった。

美味しそうに麺をすすり込むペクジュンに、「平壌冷麺、お好きなんですね」と話しかけるホンチョ。二人はこの店の麺の蕎麦粉とでんぷん粉の割合を推測し合い、当てたほうがスユク(豚肉や牛肉の蒸し煮)をごちそうになる。

ホンチョは一目ぼれしたペクジュンを、「平壌冷麺のスープのような男。澄んでいるが、肉の香りがあふれている」と評した。これは平壌冷麺を食べたことのない者にその味をイメージさせるのに有効な表現だ。

『タッカンジョン』のイ・ビョンホン監督がアン・ジェホンと組んだラブコメディ『恋愛体質~30歳になれば大丈夫~』でも、アン・ジェホン扮するドラマPDボムスがヒロインの脚本家ジンジュ(チョン・ウヒ)を平壌冷麺店に誘って、食事をする場面がある。

ボムスは平壌冷麺について、初めて食べたときは味がないと感じるかもしれないが、次の日にまた食べたくなる味だと、ジンジュに力説。その後、2人はデートで平壌冷麺店に通うようになるのだ。

平壌冷麺の老舗のひとつ「又来屋」(ソウル乙支路4街)
「又来屋」の平壌冷麺
ソウルの楽園洞で新規開業予定の老舗「乙支麺屋」の豚のスユク

■平壌冷麺はどんな料理?

平壌冷麺とはその名の通り、朝鮮民主主義人民共和国(通称:北朝鮮)の首都・平壌発祥の冷麺のこと。俗にムルネンミョン(水冷麺)と呼ばれる冷たいスープの麺料理だ。

スープは牛肉ダシがメインだが、豚肉や鶏肉などの合わせダシもよく用いられる。その味は、初めて食べる日本人や韓国人が驚くほど淡白だ。麺は蕎麦粉が主で、でんぷん粉が従。蕎麦を食べ慣れている日本の人には食べやすい。

日本や中国にも平壌冷麺やムルネンミョンを名乗る店はあるが、海を渡った料理の多くがそうであるように、その土地土地の気候や産物、嗜好によって変化していく。

日本各地で在日同胞が提供しているムルネンミョンは、麺がでんぷん粉や小麦粉がメインだったり、蕎麦粉をまったく使わない麺だったりする。

また、吉林省など中国東北部で朝鮮族(朝鮮系中国人)が提供しているムルネンミョンは、蕎麦粉の代わりにトウモロコシ粉を使ったりする。ムルネンミョンと言っても、その実態は国や地域によってさまざまなのだ。

いま、ソウルにある冷麺専門店は、朝鮮戦争(1950年~1953年)のとき北側から南側に避難してきた人たちが始めた店が多い。南北分断の固定化によって故郷に帰れなくなった避難民にとって、冷麺は郷愁を誘う食べ物だ。20年くらい前、ソウルの冷麺専門店では北朝鮮訛りで楽しそうに話し、スユクをつまみにソジュを飲み、冷麺で〆るお年寄りをよく見かけた。

南北分断の悲劇を淡々と描いた映画『あの人に逢えるまで』(2014年)では、朝鮮戦争の勃発で夫(コ・ス)と生き別れになった妻(ムン・チェウン)が、議政府に実在する「平壌麺屋」でひとり冷麺を食べるシーンがあった。

映画『あの人に逢えるまで』に登場した議政府の「平壌麺屋」の平壌冷麺

© 株式会社双葉社