『大奥』は歴史に刻まれる作品に 小芝風花、亀梨和也、安田顕、宮舘涼太らが見せた名演

連ドラとして約20年ぶりに復活した『大奥』(フジテレビ系)がついに最終回を迎えた。本シリーズの代名詞でもある「女のドロドロ」を盛り込みながらも、第10代将軍・徳川家治(亀梨和也)とその正室として大奥に迎えられた五十宮倫子(小芝風花)の切ないラブストーリーを中心に据えた今作。多くの苦難を乗り越え、愛を育んできた2人に早すぎる別れが訪れる。

相次ぐ天変地異やそれに伴う不況で、民衆の間に社会不安が広がっていたこの時代。そこに追い討ちをかけるかのごとく浅間山が噴火した。江戸の町にも火山灰が舞い降り、幕府には暗雲が立ち込める。田畑が荒れ果て、米の値が急騰すれば、人々の暮らしはより一層厳しいものとなる。そんな中で病に伏せる家治は、自ら蟄居閉門を命じた田沼(安田顕)に改革を任せるのだった。

己の死期を悟った家治は、倫子を呼び寄せる。彼が最後に口にするのは、後悔や無念ばかりだ。子供たちを殺めた者を捕らえ、この国をもっと豊かにして、倫子ともっと一緒に生きたいーー。家治には、やり残したことがたくさんあった。だが、その願いは叶わず、家治は倫子の目の前で世を去る。「三つ葉葵のように」という最期の言葉の意味は、倫子には分からなかった。

家治の死後、徳川御三家と御三卿の合議により、田沼は罷免される。田沼の代わりに老中首座となったのは、定信(宮舘涼太)だった。ついに念願だった幕政のトップに躍り出た定信。そんな折、世直しを謳って息子を殺された挙句、屋敷も取り壊された田沼は社会に絶望し、大奥に火を放つ。苦難に満ちた道のりではあったが、家治はこの大奥で生まれ、この国の未来を思い、たった一人の愛する人と出会った。その全てを無に帰すかのように、大奥は炎に呑み込まれていく。

なんと虚しいことか。されど、家治はこの世に遺していく愛する者たちを守るための嘘を倫子についていた。大奥とともに命運を共にしようとする倫子のもとに現れたのは、城を追われたはずのお品(西野七瀬)。彼女はあることを家治から託されていた。実は家治が死んだと言っていた貞次郎は生きていて、無用な争いがなくなり、平穏が戻るまで、倫子、お品、お知保(森川葵)の3人で育ててほしいと頼まれていたのである。3枚のアオイの葉先が向き合う徳川家家紋・三つ葉葵のように。

家治の願いを知った倫子は生きることを決意し、再建された大奥で大御台として皆の前に立つ。家治がこの国のために尽くしてきたことの成果が、きっと実を結ぶ時が来ると鼓舞する倫子を、お知保や松島(栗山千明)、高岳(田中道子)も穏やかな顔つきで見つめていた。倫子が大奥に来たばかりの頃は、清廉潔白な彼女の振る舞いが生きるために鬼にならざるを得なかった皆を苛立たせた。けれど、それでも慈悲深い心で奪うのではなく与えることをやめなかった倫子。その姿勢が皆の心にも影響を及ぼしたのである。

そして5年後、倫子が言った通り、家治のやってきたことが徐々に実を結ぶ。平賀源内(味方良介)がかねてより家治に任されていたさつまいもの栽培方法を編み出し、家治が作った学問所で学んだ若者が定信の行き過ぎた質素倹約を批判するようになったのだ。それは同時に、民衆がかつて批判していた田沼の知性を見直すことに繋がった。最後に家治が託してくれた願いも果たせず、あの日、大奥と命運をともにした田沼は地獄に落ちたのかもしれない。けれど、彼がやってきたことは決して間違いばかりではなかった。

対して、本来の目的も見失い、多くの人を絶望に陥れてきた定信。彼の悪行は猿吉(本多力)がお品に託した手紙によって明らかにされ、自身が田沼に行ったように、倫子によって罷免される。大義のためならば人を殺めることも厭わない定信だが、倫子を愛する気持ちだけは本物だったのだろう。その命を奪うことはできない。そんな愛する倫子から毅然とした態度で「私の夫は何があろうと家治公お一人です」と言われ、定信は肩を落として大奥を去っていった。

そこから月日は流れ、一橋家の養子となり、豊千代と名を改めた貞治郎(鈴木福)は長らく空席だった将軍職に就任。倫子は家治との子を身ごもり、生まれた姫君に家治が望んでいたように万寿と名付けた。その万寿が婚儀の時を迎えた日、出家した倫子は浅光院に促されるように家治との日々に想いを馳せる。浅光院を演じるのは、本シリーズに欠かせない存在であり、今作ではナレーションを務めた浅野ゆう子だ。浅野をはじめ、多くのキャストによって紡がれてきた歴史ある作品『大奥』。小芝風花はその大看板を背負い、感受性豊かな演技で観る人の心を揺さぶった。

悪行には天罰が下るが、善行はいつか必ず実を結ぶ。今作はシンプルだが、倫子たちが生きる時代と同じく、他人を思いやる余裕がないほどに厳しい現代に大事なメッセージを届けた。そのメッセージを説得力あるものにしていたのが、倫子や家治の信念や愛情深さを体現する小芝と亀梨和也、またヒール役に徹した役者陣の存在だ。特に安田顕の血管が切れそうなほどの熱演ぶり、定信の二面性や随所に滲む哀愁を表現した宮舘涼太の演技は素晴らしかった。史実に大胆な脚色を加えたストーリーもさることながら、力ある役者陣の名演を楽しむ作品として、今作は『大奥』の歴史に刻まれることだろう。

(文=苫とり子)

© 株式会社blueprint