【光る君へ】お互いに本心を口に出せず、歯車が狂い始めた紫式部(吉高由里子)と藤原道長(柄本佑)。ついに道長は正妻を取ることに

大河ドラマ「光る君へ」第11回より ©️NHK

2024年のNHK大河ドラマ「光る君へ」。『源氏物語』の作者・紫式部のベールに包まれた生涯を、人気脚本家・大石静がどう描くのか? ここでは、ストーリー展開が楽しみな本ドラマのレビューを隔週でお届けします。今回は、第11回「まどう心」と第12回「思いの果て」です。

前回はこちら。

思い合っているのに、ほんの少しの行き違いやタイミングのずれが取り返しのつかない別れのきっかけになってしまうことがある。そして、狂い始めた歯車は元に戻ることはない──。そんなことがまひろ(後の紫式部/吉高由里子)と藤原道長(柄本佑)の二人の間にも起こっていく。

第11回「まどう心」と第12回「思いの果て」では、前回、花山天皇(本郷奏多)を欺きクーデターを起こした道長の父・藤原兼家(段田安則)がいよいよ権勢を増していく中、どうにもならない運命の流れに巻き込まれていく恋人たちの気持ちが切ない回でもあった。

花山天皇の動向を探る間者の働きをしていたまひろの父・藤原為時(ためとき/岸谷五朗)は、花山天皇が失脚し兼家が摂政に昇り詰めた結果、官職を失うこととなった。一家の今後の生計を案じたまひろは、最終的に一人、東三条殿に兼家を訪ね、直談判に及ぶ。しかし兼家は冷酷に突っぱねる。「わしの目の黒いうちに、そなたの父が官職を得ることはない。下がれ」

呆然としたまま屋敷を辞するまひろの姿を、居合わせた道長が見かける。「父上、お客人とはどなたですか」と父の反応をうかがうように尋ねる道長に、兼家はこう言って切り捨てるのだった。「虫けらが迷い込んだだけだ」

そんなまひろに父の友人・藤原宣孝(のぶたか/佐々木蔵之介)は婿取りをすすめる。「北の方にこだわらなければいくらでもあろう」。北の方というのは「嫡妻(ちゃくさい)」のこと。つまり身分の高い人の正妻のことをいう。

「光る君へ」の時代考証を務める倉本一宏氏の著書『紫式部と藤原道長』(講談社現代新書)にはこうある。「平安貴族というと、妻問婚(つまどいこん)による一夫多妻制を思い浮かべる人も多いと思うが、実際には彼らは嫡妻と同居していたのであり(というより、その女性の家に婿入りしたのである)、一時期には妻は一人しかいなかった人がほとんどなのである」

そして、「平安時代の結婚した女性は、『嫡妻』と『それ以外の配偶者(妾/しょう)』に区別されます。妻としての立場、社会的待遇などに大きな差があったので、心持ちは全く別のものでした」(『NHK大河ドラマガイド 光る君へ 前編』内、同氏解説「平安貴族の〈結婚〉のかたち」)とも。

今回の2回を通してキーワードになるのが、この「北の方」と「妾」だ。夫とともに暮らせる「北の方」に対し、「妾」は常に待つ身。宣孝に「妾は気が進まない」というまひろだが、それだけではなく、心の中には、まだ諦めきれない道長への思いもあった。

兼家の娘・詮子(あきこ/吉田羊)の息子・懐仁(やすひと)親王(高木波瑠)が、わずか7歳にして一条天皇として即位する日がやってくる。しかしその朝、天皇の玉座である高御座(たかみくら)に、子どもの生首が置かれていた。宮中の備品や調度品の製作、装飾をつかさどる役人・内匠司(たくみのつかさ)と女官たちがおののく中、道長は自らの袖で血を拭い、首を鴨川に捨ててこいと命じる。花山天皇の仕業だと察せられた。

道長はその場にいる者たちに「他言無用。もし、もれた場合には命はないものと覚悟せよ」と伝えて、即位式は無事に行われる。その息子の機転を兼家はほめ、道長はその日、五位の蔵人に昇進した。

大河ドラマ「光る君へ」第11回より ©️NHK

下女に暇を出し、家計を切り詰め暮らすまひろのもとに道長から文が届き、二人はいつもの廃屋で逢瀬の時を持つ。道長は言う。「妻になってくれ。遠くの国には行かず、都にいて政の頂を目指す。まひろの望む世を目指す。だから、俺のそばにいてくれ」

「私を北の方にしてくれるってこと?」と目を輝かすまひろ。「北の方は無理だ」「妾になれってこと?」「そうだ」「それでもまひろが一番だ」。道長の腕を振りほどき、まひろは語気を強めて言う、「耐えられない、そんなの!」

身分の低いまひろは、道長の「北の方」にはなれない。それは、まひろだってわかっているはずだ。しかし一瞬期待してしまったのか。考え抜いて伝えた思いを拒絶された道長も、さすがに堪忍袋の緒が切れる。

「ならばどうすればいいのだ! 遠くの国に行くのは嫌だ。偉くなって世を変えろ。北の方でなければ嫌だ。勝手なことばかり言うな!」、そう言い捨てると立ち去ってしまう。そしてその勢いで、帰宅するとすぐに父のもとへ行き、こう言うのだった。「左大臣家に婿入りする話、お進めくださいませ」

えーっ、ちょっと待って! ああ、まひろ、そこは追いかけるところではないだろうか。今言わないとダメなのではないだろうか、見る側はそんなハラハラした気持ちになるが、一方でまひろの懊悩(おうのう)もわかる。「北の方」と「妾」では、社会的な立場も、夫婦としての状況も天と地ほど違ってくるのだろう。道長も早まらないで!と思わず声をかけたくなってしまう展開だ。ああ、もう!

そして第12回では、まひろのもとに新しい友人が出入りするようになる。病で亡くなった父の妾・なつめ(藤倉みのり)の娘・さわ(野村麻純)だ。なつめの別れた夫と暮らすさわを、今際の際のなつめに会わせるためにまひろが呼びに行った縁で、まひろを慕うようになってくる。

大河ドラマ「光る君へ」第12回より ©️NHK

宣孝はまひろの婿として藤原実資(さねすけ/秋山竜次)をすすめてきたが、実資が赤痢に罹患していたため話は流れる。婿取りに乗り気でないまひろを、宣孝は「霞(かすみ)を食ろうて生きていけるとでも思っておるのか!」と一喝。現実を突きつけられて、まひろの迷いはますます深まる。

一方、道長の希望を受けて、左大臣・源雅信(益岡徹)に息子の婿入りを迫る兼家。その強引さに気が進まない雅信だったが、屋敷を訪ねた道長との様子を見ていた源倫子(ともこ/黒木華)が父にすがって頼み込む。「私は道長様をお慕いしております」。根負けした雅信はこれを聞き入れた。

庚申待(こうしんまち)の夜、まひろは弟・藤原惟規(のぶのり/高杉真宙)とさわの3人で酒を飲んで過ごした。庚申待とは、古代中国起原の行事で、その夜は眠らずに過ごすというもの。もしも眠れば、腹の中にいる3匹の虫が、天帝にその者の罪を告げるとされていた。

しかしその夜、またしても道長から文が来る。読み終えるや否や、まひろは道長の待つ廃邸に走る。「妾でもいい。あの人以外の妻にはなれない」、そう心の中でつぶやきながら。

だが、待っていた道長から聞かされた言葉はあまりに残酷なものだった。「左大臣家の一の姫に婿入りすることとなった」というのだ。嫡妻を取る、しかもその相手はまひろも親しく交流している倫子だ。事実に打ちのめされて言葉を失うまひろ。やっと口をついて出た言葉は心とは裏腹なものだった。「倫子様はおおらかな素晴らしい姫様です。どうぞお幸せに」

「幸せとは思わぬ。されど地位を得てまひろの望む世を作るべく、精いっぱい努めようと胸に誓っておる」。「楽しみにしております」

ああ、どうしてこっちへ行っちゃうの? というぐらい、お互いに本心を口にはできない。次に道長の心の声が響く。「妾でもよいと言ってくれ!」

そうだよ、まひろだってそう心に決めて走ってきたんじゃないの? と、ここでも見る側はやきもきだ。しかし、そうか……とも思う。これが見ず知らずの相手だったら、自分が妾でも耐えられるかもしれない。けれども、相手の嫡妻となる人が近しい間柄だと、こちらの痛みや傷も生々しくなってしまう。

「道長様と私は、やはりたどる道が違うんだと私は申し上げるつもりでした。私は私らしく自分の生まれてきた意味を探してまいります」

ひとつかけ違えたボタンは、どこまで行ってももう元通りにはならなかった。道長も半ばやけになってその夜のうちに、倫子のもとを訪れる。もう二人は別々の道を歩んでいくしかないのか。それでもツインソウルで行くというのは、この先、どんな展開が待ち受けているのだろう。何とも切なくてやるせない展開の2回だった。まひろがまひろらしく生きる様を応援したい。


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