M-1グランプリ2023準優勝のヤ―レンズ「M -1で優勝できたら売れなくてもいい」2024年も出場宣言!

ヤ―レンズ 撮影:武田敏将

M-1グランプリ2023の結果発表、最後の最後まで優勝者がわからない劇的な展開で優勝者が決まった。準優勝のヤ―レンズは、すでに今年のM -1に向けて再びしゃべり続けている。二人の目的は……もっと長く漫才をしたい。彼らの「THE CHANGE」に迫る――。【第3回/全3回】

08年と09年のM -1はNONSTYLEとパンクブーブーに代表されるように手数の時代でした。

出井 「10年はスリムクラブさんがボケ数を絞ることで目立って。15年の再開後は、伏線回収ネタが多かったり」

楢原 「伏線回収ネタは苦手というか、伏線のところでボケちゃうから回収できなくなっちゃう。伏線を張ってる暇があればボケたいんです」

出井 「『引っ越し』の“ちらし寿司”は、“何を回収しているんだ”というところが好きなんです」

――審査員コメント中も、楢原さんは飄々としゃべり続けていました。

楢原 「ちゃんと聞きたいと思いつつ、前にいるお客さんがニヤニヤしているから、こっちまで楽しくなって(笑)。それこそ普段のライブのような感覚いなったんです。今田(耕司)さんに怒られたらやめればいいやと思っていたけど、優しかったのでそのまま続けて」

出井 「第一印象は大事じゃないですか。“空気が読めないおじさん”と思われたら最悪だから、今田耕司さんが少しでも怒りそうな顔をしていたらすぐに止めようと思っていたけど、むしろ“もっとこい”みたいなスタンスだったんです」

――決勝ラウンドの前も張り詰めた空気ではなく。

楢原 「そうですね。ツーマンライブをやっていた令和ロマンと最終決戦まで進めたので、2組ともテンションが上がっていたというか。12月はライブがなかったんですけど、“最終ラウンドをツーマンにしよう”と言ってきたのが現実になったことがすごいなって」

出井 「今回の決勝は期待を下回る芸人が多かった印象で、最終ラウンドに進んだ3組は“勝ち上がった”というより、“生き残った”というイメージでした。だからこそ、仲間意識が強くなったのかもしれません」

結果発表は令和ロマンと激アツな展開に!

―― 2本目の「ラーメン屋」は22年の敗者復活戦からだいぶアレンジされていました。

出井 「前年の敗者復活戦を見た人もいるだろうなと思って」

楢原 「22年に決勝に行くつもりだったので、あのネタをやりたかったんです」

――早い段階で2本目は「ラーメン屋」と決めていたんですか?

楢原 「悩んではいたんですけど、一番やりたいネタをやったほうがいいかなって」

――結果発表は、令和ロマンとヤーレンズが交互に出るという激アツな展開でした。

楢原 「盛り上がりましたねぇ。最初は僕らだけがウケればいいと思っていたけど、実際に出てみると“盛り上がらなかった大会”と思われるのは嫌だなって。劇的な展開にホッとしました。もちろん優勝したかったですけどね」

出井 「大会のハイライトを作ることができたことはよかったなぁと思いました。めっちゃ悔しかったけど、僕の人生にとっても走馬灯に出てくるシーンだなと(笑)」

――準優勝という結果だけ見れば、事務所の先輩であるオードリー(08年)と同じルートです。

楢原 「M -1が盛り上がりすぎて、僕らみたいに“タレントになるよりM -1を獲りたい”という人が増えたと思うんです。でも、オードリーさんの時はM -1をステップにタレントになることが常道じゃないですか」

出井 「そもそも僕らはオードリーさんになれない。準優勝してあのくらいのスターになれるなら、今年のM -1は出ないかもしれないけど、オードリーさんは特別な存在なんです」

――おふたりはタレント性も高そうですが。

楢原 「そんなことはないんです」

出井 「明らかにタレント性が低い芸人もたくさん知っているから(笑)、僕らはそこまでタレント性がないとは思わないけど、高くもないかなと」

――松本人志さんが、楢原さんを「ガヤでもいける」と話していたんですよね。

楢原 「それがいけないんですよ。さっきも言ったように喉が弱いから、声を張ることができない。ボソボソとしゃべったことが副音声で使われたらラッキーくらいの感覚なんです」

――楢原さんの変わった人間性にもスポットが当たりそうです。

出井 「親に勧められて芸人になった人で、お笑いにポリシーがないからいつ辞めてもおかしくない。そんな状態で12年も続けていることがすごいと思います。継続する能力が高いけど、お笑い以外はTポイントを18000くらい貯めていたり、『ラヴィット!』(TBS系)の感想を2年間にわたって毎日ツイートしたり、無駄なことだけ続けているんです」

楢原 「まったく身にならないし、なんのためにやっているのかわからないことは継続できるんです。これといった趣味もないので」

出井 「“昨日、何してた?”と聞くと、“クッションに座って眠たくなるのを待ってた”って。お金も使わないんです」

楢原 「親から仕送りをもらっていたけど、口座から減らないので止められました。後輩に使おうと思っているんですけど、誰も慕ってこない」

出井 「そういうところも明かされていくと面白くなると思います」

楢原 「バレた瞬間に離れていくかもしれない」

出井 「大丈夫でしょ。漫才している姿を見ているだけで、普通の人は“異常だな”と察するから」

楢原 「そんな悲しみを背負って漫才をしています」

M -1で優勝できたら売れなくてもいい

――今年のM -1にも出場して、優勝を目指しているんですよね。

楢原 「組んだ時は、M -1で世に出て、バラエティ番組で活躍して……という将来像があったけど、最近はM -1で優勝できたら売れなくていいと思っているんです。楽しく漫才ができたらいいなって」

――ヤーレンズの漫才は楽しそうに見えますが。

楢原 「いやいや、4分という時間制限を気にしなきゃいけないから楽しくないですよ(笑)」

出井 「本当はもっと長く漫才をしたい。いまの時代の流れと逆で、もっと長く働きたいんです。誰にも止められることなく漫才をする権利がほしいという気持ちがありますね」

楢原 「楽しい漫才をするためにM-1チャンプになりたいんです」

取材・文/大貫真之介

左:楢原真樹(ならはら まさき)。1986年11月17日生まれ、大阪府出身。
右:出井隼之介(でい じゅんのすけ)。1987年3月2日生まれ、神奈川県出身。
NSC大阪校28期生の楢原と29期生の出井が2011年9月に「ヒートアップ」を結成し、後に「パープーズ」に改名。2014年に「ヤーレンズ」へと2度目の改名。M-1グランプリ2023で準優勝。

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