高温ガス炉 安全性実証 冷却試験に成功 原子力機構 茨城・大洗

安全性実証試験が行われた高温工学試験研究炉(HTTR)=大洗町成田町

日本原子力研究開発機構(原子力機構)は28日、茨城県大洗町にある高温工学試験研究炉(HTTR)で、運転中に冷却機能が喪失した状態を再現し、自然冷却によって原子炉を停止させる試験に成功したと発表した。試験は27日から継続していた。原子力機構は安全性が実証できたとして、ガス炉の熱を使う水素製造の実現に向けて次の段階に進む。

HTTRは炉心の冷却に水を使う一般的な原発(軽水炉)と異なり、ヘリウムガスを使う。最高950度の熱を取り出して利用することで、脱炭素エネルギーの水素を製造。安全性の高い次世代原子炉として、水素製造のほか、発電や海水の淡水化、地域の暖房など幅広い利用につながると期待されている。

原子力機構によると、原子炉が出力100%の状態で試験を行うのは初めて。27日午後、制御室の職員がヘリウム循環機3台の運転を停止したほか、制御棒の機能を止めて電源喪失の状態を再現した。

原子炉内の黒鉛は蓄熱性が高く、冷却材の循環が止まっても時間をかけて自然放熱できる仕組み。試験開始から17時間後の28日午前まで経過を観察し、原子炉などに異常がないことを確認した。

原子力機構の篠崎正幸高温工学試験研究炉部長は「安全性の基礎技術が確立された。高温ガス炉の社会実装に向けた大きな一歩」と評価した。

試験成功を踏まえ、原子力機構は今後、水素製造プラントを新たに作ってHTTRと熱を交換する接続技術の確立を目指す。年内を目標に原子力規制庁に申請し、許可を得た後、30年までに水素製造試験に取り組む計画だ。

HTTRは東日本大震災の影響などで運転を停止。20年6月に原子力規制委員会の審査に合格し、21年7月に運転を再開した。安全性実証は3段階の計画で、今回が最後の試験。11年と22年に出力を30%に制限した試験では、いずれも原子炉の安全性を確認していた。

■水素製造 実用化へ前進

高温工学試験研究炉(HTTR)で28日、冷却機能の喪失を想定した試験で安全性が実証され、世界でまだ実現していない原子力による水素製造の実用化へ大きく前進した。日本原子力研究開発機構(原子力機構)は、水素製造設備の建設に向けた準備を本格化させる。

高温ガス炉による水素製造は、温室効果ガスの排出ゼロが期待できるとして、各国が開発競争にしのぎを削る。原子力機構は英国やポーランドなどと協力関係を強化。開発や技術情報を提供することで、将来的には日本国内での実証炉開発に結び付けたい考え。

英国の研究所とは昨年、高温ガス炉に使う核燃料の共同開発で一致。日本と同レベルの製造技術を共有することで、将来の実用炉に使う燃料調達先の候補とする。

日本以外でただ一つ、高温ガス炉を持つ中国は実験炉で安全性実証試験を終え、実証炉を商業運転に切り替えたとされる。

原子力機構は「将来的に水素を安定的に供給することで、脱炭素社会の構築に大きく貢献できる」とする。安全性の高い高温ガス炉の開発を加速させ、日本式の原子炉や燃料の規格を各国に広め、世界をリードしたい考えだ。

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