「初球から、ブリッと振ってほしい」 ロッテ吉井理人監督、50年ぶりの勝率1位へ“大化け”期待の大砲

「いいところも悪いところも見てしまった」吉井監督はチームを深く知ったからこその不安もあるという【撮影:羽鳥慶太】

2年目を迎えたロッテ吉井理人監督が語るチームの現在地

日本でもプロ野球がいよいよ29日に開幕する。昨季パ・リーグで2位と躍進したロッテの指揮をとるのが吉井理人監督だ。日本有数の投手コーチが初めて指揮官となり2年目。ロッテにとっては1974年以来、実に50年ぶりとなるシーズン勝率1位でのリーグ制覇が大目標となる。開幕を目前に控えての心境や、チームの現在地などを赤裸々に語ってくれた。(取材・文=THE ANSWER編集部 羽鳥慶太)

監督2年目のシーズンが始まろうとしている。吉井監督は現在の心境を「不安はありますよ」と偽ろうとはしない。「去年とも全然違いますね。いいところも悪いところも見てしまったので。1年やって課題もたくさん出てきた。それを今シーズンはうまく勝ちながら解消していこうと考えているところです」。育てながら勝つという難しいテーマを前に、頭を巡らせている。

1年目の昨季は異例のスタートだった。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本代表の投手コーチを任され、キャンプ後半からチームを離れた。戻ってきたのは開幕直前。「毎日ミーティングしていたので、不安という感じではなかったけど……。何も知らずに入ったのが良かったのかもしれません」。開幕から、下馬評を覆す勢いでロッテは走った。6月までは首位に立つなど旋風を巻き起こした。ただ終わってみれば、オリックスに15.5ゲーム離されての2位。特に9月、7勝16敗と大失速したのが響いた。2チームの差は、どこにあったのだろうか。

「大きく2つあると思います。一つは先発投手。2番手のロングとかでもいいんですが、3?4イニングをしっかり投げられる投手が足りなかった。最後はローテーションを組むのにも困ってしまった。あとは長打力不足ですね。7、8本ヒットを打っても得点が1、2点という試合が多かった。これを短期的に埋めるのはなかなか難しいんですが……」と困った口調だが、もちろんそのまま良しとはしない。いくつか手を打ってシーズンを迎える。

内野の布陣を大シャッフルした。二塁の中村奨吾内野手を三塁へ、遊撃の藤岡裕大を二塁へ。遊撃は茶谷健太と友杉篤輝の2人を競わせながらシーズンを戦うという思い切った策だ。中村は昨季もゴールデングラブ賞を獲得した生え抜き10年目。藤岡は主に遊撃を守り、打率.277を残したばかり。チームの核として欠かせない2人をあえて動かす理由とは――。

就任からチームの主砲にと期待する安田尚憲【撮影:羽鳥慶太】

内野の大シャッフルには見えない「隠れテーマ」がある

「選手のコンディションを考えると、中村は去年打撃が今ひとつだったのは守備の負担もあったのではと考えました。より負担の少ない三塁の方がいいのかなと。また、藤岡は遊撃だと1年間出るには体力が少し足りなかった。二塁がキツくないわけではないんですが、彼は1年間出てほしい選手なので」。さらに、隠れたテーマがある。「なんとか安田の尻に、火をつけたいと思ってね」。

ドラフト1位で入団して7年目を迎える安田尚憲は昨季、規定打席に達したものの打率.238、9本塁打。チームの中心打者になってほしいという吉井監督の期待に、なかなか応えられずにいる。

「心配性なのか、積極的に振りにいけないことがあるんですよね。初球が一番のチャンス。だったら、結果はわからないけど初球からブリッと振って欲しいと思っています」

同じことが6年目の山口航輝にも言えるという。昨季は打率.235、14本塁打。2022年の成績をわずかに下回った。「2人ともスピードが売りではないし、長打力を見せてほしいタイプ。そういう(初球から思い切って振る)スイングをしてくる打者だと思われると、カウントが悪くなってからも最後に甘い球が来たりするので」と、投手目線からの分析もしてみせる。

「もっとバットを振って、技術的にはいかに強くぶつけられるか。それでもっと成績を伸ばせると思う。二塁打でいいんです。本塁打じゃなくても」と、課題に挙げた長打力不足を解消するキーマンとして期待している。そんな時に指揮官の頭をよぎるのは、現役時代に“いてまえ打線”が売りだった近鉄でプレーした日々だ。

練習では選手やスタッフに声をかけて回る姿が目立つ吉井監督【撮影:羽鳥慶太】

メジャーの本塁打王のアドバイスが、安田や山口に当てはまる?

「オグリビーがよく、ブライアントに言ってました。もっとバットを振れ、強く当てろって。当時は英語がそんなにわからなかったけど、今でもよく覚えてます」

1989年、西武のリーグ5連覇を阻止した近鉄打線の中心が、49発で本塁打王に輝いたラルフ・ブライアントだった。ただ前年途中に、中日からトレードでやってきた際には適応に苦しんでもいる。そんな時に同僚だったベン・オグリビーがアドバイスしていたのだ。オグリビーはブルワーズ時代の1980年、ア・リーグの本塁打王にも輝いた超大物。当時40歳になろうとしていたが、ブライアントの大化けにひと役買っていた。

その後吉井監督は、大リーグでもプレーし様々な強打者と対戦した。このアドバイスは今でもスラッガーには欠かせない、時代を超えた真理だという。

長打力の向上には、もちろん外国人選手の活躍も欠かせない。昨季はグレゴリー・ポランコが26本塁打でキングに輝いた。ポランコは2022年は巨人でプレーし、昨季がパ・リーグ1年目。一時は打率が1割を切るような不振に見舞われたが、吉井監督は目覚めを待ち続けた。

「スイングを見ていたら、いつか打ちそうだと思えたんですよね。当たったら本当に遠くへ飛ばすし、投手としたら嫌だなと」

今季はそこに、DeNA時代に2度の本塁打キングに輝いたネフタリ・ソトが加わる。「ソトが来てくれて、ポランコを歩かせてもソトにいかれるという流れができてくれれば。そこに安田と山口が入ってくれたら、(味方の)投手にも闘志を与えられる打線になる」。勝つための種はまいた。期待株の“意識変革”にも期待しながら、戦う1年が始まる。

THE ANSWER編集部・羽鳥 慶太 / Keita Hatori

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