ロッテ悲願の勝率1位Vへ…吉井理人監督が見た佐々木朗希の成長と課題「今季中にどこまで行けるか」

練習中の選手を温かい視線で見守る吉井監督【撮影:羽鳥慶太】

2年目を迎えるロッテ吉井監督、開幕直前に挙げた投手陣の課題とは

日本でもプロ野球が29日に開幕する。昨季パ・リーグ2位に躍進したロッテでは、昨春のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で活躍した佐々木朗希投手が優勝へのキーマンとして注目される。プロ5年目までの成長を、大谷翔平投手やダルビッシュ有投手の5年目もコーチとして指導した吉井理人監督はどう見ているのか。そしてロッテにとっては悲願となるシーズン勝率1位での優勝へ向け、専門ともいえる投手陣をどう動かしていこうとしているのか聞いた。(取材・文=THE ANSWER編集部 羽鳥慶太)

昨季のロッテはシーズン2位と躍進を見せた。ただ首位を争いを展開したのは6月まで。最後はオリックスに15.5ゲーム差をつけられた。データを見ると弱点ははっきりしている。オリックスと比べチーム得点は3点少ないだけなのに対し、失点は実に96点も多かった。チーム防御率もリーグ4位で、特に終盤は駒不足が目立った。クライマックスシリーズ・ファイナルステージ第3戦を、リリーフ投手でつなぐブルペンデーで戦わなければならないほどだった。

「長い、といっても3~4イニングをしっかり投げられる投手が足りなかったかな」と吉井監督は言う。特に佐々木が左内腹斜筋損傷で7月下旬から戦線離脱すると、その傾向は顕著になった。先発ローテーションを組むのも苦しくなり、9月は7勝16敗と大きく負け越した。「ずば抜けた実力の投手がまだいない。いろんな意味でです。小島、種市、朗希がそうなりつつあるんですけど、まだ1年間信頼して回せるかといえば、そうじゃない」。

佐々木に加え、種市篤暉、小島和哉を中心に、今季の先発陣は回していく。中でも注目を集めるのが佐々木だ。昨季も15試合で7勝4敗、防御率1.71。91イニングで135三振を奪ったように、投げさえすれば圧倒的な投球を披露できる。どこまで稼働できるかで、チームの成績も大きく左右される。

「力はわかっているんです。そろそろ、規定投球回数に達してほしいですね。本当は去年そうしたかったんですが、大きな怪我をしてしまったので。今年は大丈夫じゃないかと思っています。キャンプで本人は調子悪そうにしていたけれど、試合に投げれば戻ってきましたし。間に合わせてくれました」

吉井監督も「今季中にどこまで行けるか」と期待する佐々木朗希【写真:Getty Images】

佐々木がエースとなるのに必要なこと「あとは中6日で回復して…」

問題は回復力だ。軽々と球速160キロを超えるようにあまりに出力が大きく、ここまでは登板間隔をしっかり開けて回復を促してきた。吉井監督は「9回投げる力があるのもわかっている。あとは中6日で回復して、1年間投げられるかどうか」とわかりやすい課題を与え、こうも付け加える。「もし大リーグに行くとすれば、9月、10月に活躍できないと評価されない。大事な時にいないとなってしまう」。メッツ時代の1999年には、プレーオフでグレッグ・マダックス(当時ブレーブス)と投げ合った指揮官の言葉には重みがある。

佐々木にとっては、日本を代表する投手となれるのか、試金石となる1年だ。吉井監督はダルビッシュ有(パドレス)も大谷翔平(ドジャース)も、プロ5年目を日本ハムの投手コーチとして見守った。当時の2人と比較するとすれば――。

「朗希は元々の質はものすごく高い。ダルビッシュや大谷よりもいい投手として入ってきているので。ただ体力は2人には全然かなわない。成長曲線を見れば少し緩やかかな。(日本ハム時代の)ダルビッシュなんて、こちらが思考停止して見ていても試合を作って、勝ってくれるくらいの安心感があったでしょう。ただ朗希は緩やかだけど、確実に上へ登っている。今季中にどこまで行けるか楽しみです」

開幕投手に指名した小島には、佐々木とはまた違った期待がかかる。「ここ数年、規定投球回数に達しているのがチームには彼しかいない。ローテーションは1年回してナンボなので、今年もそういう投手を中心に回していきますという意思表示ですね。ああいうタフな投手にならないといけないよ、と」。昨年12月には開幕マウンドを任せると決め、種市を含めた3人の並びまで決めていた。

「小島ー種市ー朗希の3人が活躍しないと優勝はない。当面は同じカードにこの3人をぶつけて戦っていきます。そうできるのは西野が次のカードの頭でしっかり投げてくれるのが大きいんですけどね。他はリリーフも含め、みんなで頑張ろうと。大げさじゃなく、2軍にいる選手も含めてみんなで戦おうとなりますね」

現在のロッテには発展途上にある投手が多く、勝ちながら育てることが必要になる。首脳陣としては大きなチャレンジだが「これは本当に難しいけど、可能だと思っています」と言い切る。「投手は敗戦処理で1軍に来ても、あまりプラスにならない。ビハインドでも1点2点、勝てるかなというプレッシャーのある中で投げないと、選手は成長していかない。タイミングが本当に難しい」という現状は、腕の見せ所でもある。

選手の力を最大限に発揮するため、データと状態の把握は欠かせない【撮影:羽鳥慶太】

ロッテの上位進出に必要なやりくり…確率の上げ方を「必死で考えている」

昨季Aクラス入りした3球団の中で、ソフトバンクは毎年のように外からの補強を続け、強大な戦力を維持している。オリックスは投手陣の育成に定評がある上に、今や毎年FA選手を獲得する側だ。ロッテが互角以上に戦うには、選手の“旬”を見極めてやりくりしていく手腕も必要不可欠。チームが好調だった昨季の前半は、ここも冴え渡っていた。

日本プロ野球での「やりくり」といえば、故・野村克也氏の代名詞だ。吉井監督はヤクルト時代の3年間、野村監督の元でプレーし“活かされた”側だった。いざ自身が監督となった時、影響を受けているかと問うと「特に意識をしているつもりはないけれど、どっかであるんでしょうね。仰木監督も、バレンタイン監督もそんな感じだったので」と、名将の名前が次々に飛び出す。現役時代に接したのは、工夫しながら戦う指揮官ばかり。吉井監督はコーチ時代に「専門外」と言ってはばからなかった攻撃も、投手の目を生かして組み立てている。

「説明はしづらいけれど、相手が嫌かなという起用をしているつもりです。もちろん客観的なデータも使います。今は個人に対して、予測OPSなども出してくれるので」

打者で言えば、ベテランが好成績を残しているのも、この延長線上にある。昨季は角中勝也が打率.296、岡大海が.282を叩き出した。「2人とも頑張ってくれましたよね。考えているのは使う上で、若手と区別しないこと。もし1つ言えるとすれば、その子がどうやったら打てるだろうというのを、こっちも必死で考えている。いろんなものを使って、一番打てそうな場面に使おうとはしていますね」。力を発揮しやすい出番を用意すれば、あとは信じるだけ。コーチ時代に見せた投手のやりくりと、変わらないという。

監督として1年間戦い、改めて感じていることがある。「勝つためにはまず選手に動いてもらわないといけない。もちろん、こうやったら勝てるんじゃないかと考えてオーダーを組んでいる。だから100のうち1、2くらいは監督の役割かもしれないけれど、結局は選手」。その選手たちに求めているのは、突き詰めればたった一つだ。

「今年も『チャレンジしよう』と言い続けています。ファンの皆さんには挑戦し、頑張る姿を見てほしい。一緒に戦いましょう」

染めるのを止めたせいもあるが、すっかり白髪が増えた。「(葦毛の名馬)メジロマックイーンみたいになってしまったな」と大好きな競馬に例え、頭をかく。ロマンスグレーの指揮官は歓喜の秋を目指して、頭をフル回転させていく。

THE ANSWER編集部・羽鳥 慶太 / Keita Hatori

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