「僕は勇気だけが取り柄ですから」2回戦までエース温存… 4強入りの中央学院、驚きの采配が引き出した快投劇!

なかなかできる采配ではない。

「トーナメントのヤグラを見たときにココに(エースを)当てようと思った」

中央学院が5−2で青森山田を下し、ベスト4進出を決めた。

この日の勝利の立役者になったのは今大会初登板となったエース蔵並龍之介の好投だった。8回途中までを投げて8安打を浴びながらも1失点。チームを勝利に導く快投劇だった。
何よりの驚きはそんなエースをここまでの試合で登板させなかったことである。蔵並曰く「調子が良かったわけではない」らしいが、エースナンバーである。初戦から登板させるのがよくある采配だ。相馬監督は「調子が上がっていたんで使いかったですけどね」と本音を覗かせつつも大会を勝ち上がることを考えての策だったと明かしている。

ここ数年の大きな流れとして複数投手を敷くチームは少なくない。しかし、多くの場合、エースを中心に大会の1、2回戦までにエースが先発。連投や球数、日程を考慮して、おおよそ準々決勝くらいから奇策に出るというのがよくある采配だ。

この日の第1試合に登場した阿南光はまさにエースの吉岡暖を先発させなかったが、代役の投手が2回途中で4失点するとエースをマウンドに挙げている。一方、2枚の投手を揃えているようなチームは、1、2回戦で先発を変えてみたり、あるいは1試合を固定の2人で投げ切ると決めているようなチームもある。

しかし、準々決勝では中央学院だけがそれのどれも踏まなかった。ここぞとばかりに温存してきたエースを先発させてきたというわけである

相馬監督は話す。

「僕は勇気だけが取り柄ですから、それをしただけです。部長を中心としてコーチらが人間的なことなど様々選手たちに教えてくれているので、僕は結果の責任を取る。そういうなかでやっていますので、一つひとつ勝ち上がっていく中でここがターニングポイントになるかなと」

抜擢を受けたエースは好調だった。ストレートは130~140キロで推移し、スライダーとフォークを織り交ぜた。特にフォークは右打者のインコースに沈ませ打者の虚を突いていた。高校野球の世界でインコースにフォークを投げる投手は少ないが見事な制球力だった。

「フォークボールは得意な球なんでそれをうまく投げれたと思います。自分のイメージとして、右バッターの方がフォークを投げやすいイメージ。自信持っています。ただ狙ってインコースに投げているわけじゃなくて、いいとこに落ちるのを意識して、それがインコースにいった」

準々決勝という舞台でのエースの好投はチームを大きく前進させたのは間違いないだろう。
蔵並自身の気持ちを掻き立てたところもある。もともと、後ろ向きな性格で考え込んでしまうタイプ。これまで出番がなかったことで彼の蓄積されたエネルギーが爆発を生んだとも言えるだろう。強力打線の青森山田が相手とあって燃えるものがあった。

蔵並はキッパリといった。
「青森山田は打線がいいんで抑えたい気持ちがあった。高校野球は金属が主流の中で、木製で打ってくる選手がいた。対戦していてすごくいいバッターだなって雰囲気があって燃えるところがありました。(木製バットを)折ってやろうくらいの気持ちはありました」

絶対的エースとこれまで2試合を乗り切ってきた2人の投手。相馬監督の思い切った采配が成功したことで、準決勝からの2試合の試合が戦いやすくなったのは間違いない。

準決勝では過去2試合で先発した臼井夕馬を出すこともできるし、3試合クローザーを務めた颯佐心汰も控えている。

「誰に何と言われようとも、自分の決めたことに腹を決めようと思っていました」

優勝から逆算でもしているかのような思い切った采配。あと2戦。センバツ初勝利からの初優勝が見えてきた。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

【著者プロフィール】
うじはら・ひであき/1977年生まれ。日本のプロ・アマを取材するベースボールジャーナリスト。『スラッガー』をはじめ、数々のウェブ媒体などでも活躍を続ける。近著に『甲子園は通過点です』(新潮社)、『baseballアスリートたちの限界突破』(青志社)がある。ライターの傍ら、音声アプリ「Voicy」のパーソナリティーを務め、YouTubeチャンネルも開設している。

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