首都圏「新築マンション」の平均価格は〈バブル期〉よりも高い!?「平均給与」は上がらないのに新築マンションの価格が高騰するワケ

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給与が上がらないといわれ続けている一方で、首都圏にある「新築マンション」の価格は高騰が止まりません。一体なぜなのでしょうか。そこで本記事では麗澤大学未来工学研究センターで教授を務める宗健氏の著書『持ち家が正解!』(日経BP)から一部抜粋して、バブル期以降の首都圏全体における「不動産価格」の推移について詳しく分析します。

東京の新築マンション価格はバブルではない、さらなる上昇もあり得る

近年、不動産価格は上昇を続けており、コロナ禍や東京オリンピック・パラリンピック終了の影響も受けている様子はない。

なぜ、給料が上がらないのに不動産価格が上がっているのだろうか。購入者の属性や販売される物件の中身を細かく見てみると、価格が上昇しても売れ続ける理由が見えてくる。

不動産価格が高値を付けた時期といえば、バブル経済期を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。しかし実は、不動産経済研究所(東京・新宿)が公表している首都圏の新築マンション平均価格の推移を見ると、現在の価格はバブル期よりも高い。

2009年の東京23区の新築マンション価格の平均値は5,190万円、中央値は4,680万円だったが、2019年上半期には平均7,644万円(2009年比147.3%、以下同)、中央値6,698万円(143.1%)と大幅に上昇している。

バブル期以降、新築マンション価格は大幅に下落し、東京23区の平均価格は2002年の4,003万円が最安だった。それと2019年上半期の平均価格7,644万円を比べると、191.0%と2倍近い上昇になっている。

首都圏全体では、2009年の平均値4,535万円、中央値4,150万円が、2019年には平均値6,137万円(135.3%)、中央値5,399万円(130.1%)と大幅に上昇している。

バブル期の1990年の首都圏全体の平均価格は6,123万円だったので、2019年の価格はバブル期を上回っている。

地方の不動産価格は人口減少などの影響もあり下落傾向にあるが、首都圏では20年前と比べて新築マンション価格は2倍近くに高騰しており、10年前と比べても1.5倍程度になっている。

一方、バブル崩壊以降、日本は長らくデフレが続き、給料は上がっていないと言われる。確かにネットで「給料上がらない」と検索してみると、たくさんの記事が出てくる。その記事のほとんどは、国税庁の「民間給与実態統計調査」か、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」のデータを基にしているようだ。

国税庁の民間給与実態統計調査には1949年(昭和24年)から2019年(令和元年)の長期時系列データがあり、その総括表を見ると、以下のような変化がある。

・1999年と2019年を比べると、平均給与は461.3万円から436.4万円へと5%下落している。

・2009年と2019年を比べると、平均給与は405.9万円から436.4万円へと8%上昇している。

日本のバブル経済期は1985年のプラザ合意後からだといわれているが、1985年の平均給与351.7万円を100とすると、1997年の467.3万円の133がピークで、その後2008年のリーマン・ショックの影響を受けて、2009年には405.9万円の115まで低下した。その後やや持ち直して、2019年には436.4万円の124となっている。

厚労省の賃金構造基本統計調査にも、1976年(昭和51年)から2019年(令和元年)までの長期時系列データがあり、以下のような変化がある。

・1999年と2019年を比べると、平均給与は496.7万円から537.8万円と8.3%上昇している。

・2009年と2019年を比べると、平均給与は470.5万円から537.8万円と14.3%上昇している。

国税庁のデータと厚生労働省のデータでかなりの違いがあるが、こうした数字を素直に解釈すれば、平均としては、確かに給料はあまり上がってはいないが、大きく下がっているともいえない、ということになるだろう。

もちろん、国際比較としての実質賃金指数や消費者物価指数では、日本だけが低位安定であり、先進国の中で日本だけが物価も賃金も上がっていないというのは事実だろう。

しかし、国際比較を日常で実感することは一般的には皆無だろう。マクロ経済の指標の分析と個々人の利害がぶつかり合う生身の市場では、その様相が全く違う。

実はここに、平均給与が上がっていないのに、不動産価格、特に首都圏の新築マンション価格が大きく上昇した理由が隠されている。

実は、多くの人の給料は大きく上がっている

統計理論の記述統計では、平均値や中央値、データの分布といったことは極めて重要だが、一方でコーホート分析と呼ばれる、同じ時期に生まれた人を時系列で追っていく分析や、同一の個人を時系列のデータとして扱うパネル・データ分析と呼ばれる手法がある。

そして、給料が上がっているかどうか、という観点では、全データの記述統計としての平均と、世代としての変化を見るコーホート分析や個人の変化を見るパネル・データ分析では全く違う結果になる。統計データをどう扱うかで、結論が正反対になるのだ。

実際、賃金構造基本統計調査の年齢階級別の年収を見ると以下のような変化となっている。

・25〜29歳の年収は、1999年に389.9万円だったものが、2009年には365.3万円へ6.3%下落した。しかし2019年には418.7万円となり、1999年と比べて7.4%増となっている。

・45〜49歳の年収は、1999年に602.7万円だったものが、2009年には580.8万円へ3.6%下落した。しかし2019年には615.6万円となり、1999年と比べて2.1%増となっている。

約25年前の1999年に25歳だった人は、2019年には50歳近くになっているわけで、年収で見ると389.9万円が615.6万円と225.7万円増えて約1.6倍になっている。もちろん、企業規模や雇用形態、職種等によって水準は異なるが、一人ひとりの個人で見れば、年齢が上がったことで、給料は大きく上がったことになる。

全体の平均で見れば、確かに20年前から給料はあまり上がっていないのだが、日本企業の給与体系には、正社員を中心にまだまだ年功序列が根強く残っているため、年齢が上がるとともに給料が上がる構造が温存されている。

結局、多くの人は、少しずつだが給料が上がっている。しかも共働き率が上昇し続けていることから、家を買うような世帯の年収は、上昇し続けている、ということになる。給料が上がっていない、というのは、単なる統計上の平均の話なのだ。

そもそも日本は、欧米のような年齢に関係なく給与が決まるジョブ型雇用の社会ではないため、平均値による単純な経年比較はなじまない。しかも、定年後の給与は大幅に下がることが多いため、高齢者が増えれば全体の平均は下がっていくのは当たり前なのだ。

とはいえ、新築マンション価格が20年で2倍近く、この10年でも1.5倍になっているのは、さすがに上がり過ぎではないか、という意見もあるだろう。

しかし、2019年の全国家計構造調査では、東京都の2人以上世帯の一般世帯で50-54歳の世帯平均年収は1000万円を超えており、2017年の就業構造基本調査の結果では、東京都の共働き世帯年収の最頻値は1000万円以上1200万円、構成比は16%となっている。

そして、年収1000万円以上の世帯数の絶対数はなんと68万4800世帯となっている。

首都圏の新築マンションは高騰したとはいえ、買える人はまだまだたくさんいるのだ。

宗 健

麗澤大学未来工学研究センター

教授

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