81歳のバイデン米大統領、側近も冷や汗「言い間違い」連発 「記憶力の悪い老人」に激怒→急きょ記者会見→また言い間違い【混沌の超大国、2024年アメリカ大統領選(5)】

演説するバイデン米大統領=3月7日、ワシントン(ロイター=共同)

 アメリカ史上最高齢の大統領、ジョー・バイデン氏は現在81歳。11月の大統領選で再選を果たせば退任時に86歳となる。外国首脳の名前や国名を言い間違えて認知能力の衰えが指摘され、最近の支持率は40%で不人気に悩む。
 それでも、このままいけば民主党候補としてドナルド・トランプ前大統領と戦う。大統領選のもう一人の主役、バイデン氏の素顔に迫ると、家族を繰り返し失う悲劇を乗り越えて今日の地位を築いた老練政治家の姿が浮かび上がってくる。(ワシントン共同=比嘉杏里)

※記者が音声でも解説しています。「共同通信Podcast」でお聞きください。

ホワイトハウスで記者団の取材に臨むバイデン大統領=2月8日(AP=共同)

 ▽言い間違い連発、側近は冷や汗
 「ドイツのミッテラン大統領」「メキシコのシシ大統領」「ウクライナに食料や物資を空中投下する」―。
 バイデン氏の言い間違いはもはや日常茶飯事。それぞれ「フランスのマクロン大統領」「エジプトのシシ大統領」「パレスチナ自治区ガザ」のことを話す文脈で間違えた。側近やホワイトハウス職員は冷や汗をかく毎日だ。
 バイデン氏の私邸などで機密文書が見つかった事件では、今年2月、訴追を見送った特別検察官が「記憶力が著しく限られている」と記載した報告書をまとめた。
 この報告書の意味について、特別検察官がこう説明したため米政界に衝撃が走った。
 「訴追したとしても、陪審員はバイデン氏を『記憶力の悪い老人』とみて有罪にしない、と判断した」
 バイデン氏はこれに激怒。ホワイトハウスで急きょ記者団を集めて非難した。
 「私が息子を亡くした日を忘れたとまで書いてある。よくもそんなことを言ってくれたもんだ」
 東部デラウェア州司法長官を務めた長男ボー氏は、バイデン氏が副大統領在任中の2015年、脳腫瘍のため46歳の若さで亡くなっている。だが、この場面でも、外交の話でエジプトとメキシコを取り違える失態を犯し、高齢不安に拍車を掛ける結果になった。
 共和党のエマー下院議員は早速、X(旧ツイッター)に「バイデン氏に大統領でいられるだけの認識能力がないのは明らかだ」と投稿。CNNテレビは「共和党への政治的な『贈り物』になった」と冷ややかに報じた。

米空軍士官学校の卒業式の壇上で転んだバイデン大統領=2023年6月、コロラド州コロラドスプリングズ(AP=共同)

 ▽目指すのは「高齢だが親しみやすい大統領」
 体力の衰えも隠せない。昨年6月、西部コロラド州の空軍士官学校の卒業式に出席した際、壇上に置かれた土のうにつまずいて転倒。警護担当に介助される様子の動画が拡散し、大きな注目を浴びた。歩く速度はゆっくりで、4歳しか違わない77歳のトランプ氏がエネルギッシュな言動で支持者を沸かせているのとは対照的だ。
 高齢不安にどう応えようとしているのか。今年2月末にワシントン近郊のウォルター・リード軍医療センターで健康診断を受けた後、記者が「問題はあったか」と問いかけると、バイデン氏はこう返した。
 「医師によると私は若く見えすぎるようだ」
 冗談を交えたアドリブはバイデン氏の得意とするところで、オバマ政権で副大統領を務めた8年間や大統領1期目もユーモアを繰り出してきた。
 11月の大統領選に向け、中国系動画投稿アプリTikTokにもユーモラスな動画を多く投稿している。最初に投稿した動画は視聴数が1千万回を超えた。
 ただ、TikTokを巡っては、下院が条件付きで米国でのアプリ配信を禁じる法案を可決するなど、厳しい対応をしており、バイデン陣営が選挙活動に利用していることも物議を醸している。今後の選挙活動では「高齢だが親しみやすい大統領」が有権者に響くかどうかが注目点となりそうだ。

支持者からプレゼントを受け取る上院議員時代のバイデン氏(中央)と家族=デラウェア州ウィルミントン(BETTMANN提供・ゲッティ=共同)

 ▽家族の絆、2人の息子
 バイデン氏の50年にわたる政治家人生には、家族との離別がつきまとった。
 1972年、29歳でデラウェア州から連邦上院議員に当選した直後、自動車事故で妻と長女を失った。2人の幼い息子はけがを負って入院。自身は病院で就任宣誓をした。
 電車で約1時間半かけてワシントンの連邦議会に通いながら子育てをし、77年に現在の妻ジルさんと再婚。娘のアシュリーさんが生まれた。家族の絆の強さを、オバマ元大統領が自伝に記している。
 「一家を一目見れば、家族がどれだけジョー(バイデン氏)を支えてきたかすぐに分かる」
 2015年に長男ボー氏がこの世を去った時には、失意から大統領を目指すことを断念し、16年大統領選への出馬を見送ったとされている。
 弁護士の次男ハンター氏は2023年9月、銃を購入した際に薬物使用についてうその申告をした罪で起訴された。バイデン政権は、有罪になっても恩赦しないとしているが、ジルさんは薬物依存を乗り越えたハンター氏を「本当に誇りに思う」と擁護した。

ホワイトハウスでバイデン副大統領(右)の業績をたたえる式典に出席したオバマ大統領=2017年1月(AP=共同)

 ▽黒人有権者が忘れられない光景
 副大統領時代、はるかに年下のオバマ氏(現在は62歳)を引き立て、深い信頼関係を築いたことも有名だ。
 もともとは民主党の大統領候補の座を争ったライバル同士だったが、オバマ氏に副大統領候補への就任を依頼されると、こんな条件を付けて引き受けた。
 「あなたが重要な決断をする時、部屋に残る最後の人間になりたい」
 トランプ政権への移行を間近に控えた2017年1月、オバマ氏は「この国への愛と長年の献身をたたえる」と文民最高位の勲章「大統領自由勲章」を授与。事前に知らされていなかったバイデン氏は思わぬサプライズに驚き、涙を流した。
 オバマ政権の8年を振り返り「素晴らしい旅だった」と声を震わせたバイデン氏。当時取材した記者の1人は、2人の関係を象徴するこんな場面を覚えている。
 「『史上最高の副大統領だった』と声をかけたオバマ氏、感極まった様子で『全て大統領のおかげだ』と応じたバイデン氏の2人が醸し出す雰囲気をよく覚えている。本当に信頼し合い、親密な友情があるのだなと実感した」
 史上初の黒人大統領に誠心誠意仕える姿は、黒人有権者らの間では忘れられない光景として今も語り継がれている。

中国の習近平国家副主席(左から2人目)の招待で訪中し、歓迎式典に臨むバイデン副大統領=2011年8月、北京の人民大会堂(共同)

 ▽得意の外交は上院議員時代から
 バイデン氏の得意分野に外交政策がある。
 「中国の習近平主席と最も長く時間を過ごしている世界の指導者は私だ」。バイデン氏は副大統領時代、国家副主席だった習氏と会談を重ねた。昨年11月、サンフランシスコ近郊で約1年ぶりの米中首脳会談にこぎつけ、台湾問題では折り合わなかったものの、幅広い分野で対立する米中の緊張緩和を図った。
 2021年に大統領に就任すると、トランプ政権の同盟軽視とされた姿勢から多国間協調にかじを切り、欧州との関係修復に尽力。22年2月にウクライナ侵攻を開始したロシアに対抗するため、北大西洋条約機構(NATO)との結束を固め、ウクライナ支援の土台を築いた。
 インド太平洋地域でも日本や韓国、東南アジア諸国連合(ASEAN)との連携強化を進める。36年に及ぶ上院議員時代、上院外交委員会の委員長や少数党筆頭委員として12年間にわたって米国の外交政策の形成に役割を果たした経験は折り紙付きだ。

米ミシガン州ディアボーンの予備選投票所前で「バイデンを見捨てよう」と書かれたプラカードを持つサムラ・ルクマンさん=2月、(共同)

 ▽懸念は「ガザ」
 一方で、昨年10月から続くイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘では、ガザの民間人犠牲者が3万人を超え、イスラエルに寄りすぎだと国内外から批判を受けている。
 大統領選で激戦が見込まれる中西部ミシガン州では、アラブ系米国人たちが怒りを募らせ、民主党予備選での落選運動に発展。餓死者が続出するガザの現状を受け、これまでバイデン氏を支持していたリベラル寄りの若者や党内からも、政策転換を迫る声が日増しに大きくなっている。
 バイデン氏は、イスラエル軍が計画するガザ最南部ラファへの地上侵攻を「レッドライン(越えてはならない一線)だ」と警告。ガザへの食料投下、人道物資の海上輸送に必要な臨時埠頭建設を始めるなど、ガザ支援策を矢継ぎ早に打ち出した。
 だが中東情勢の安定化にはほど遠く、支持者をつなぎとめられるかは不透明だ。トランプ氏との接戦が予想される11月の大統領選まで戦闘が長引けば、バイデン氏にとって大きな懸念材料になるのは間違いない。

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