理学療法士が伝授!「単語の数」と「速度」が大切だった…認知症の方を“会話で不安にさせない”コツ

(※写真はイメージです/PIXTA)

家族が認知症になったらどのように接したらいいのでしょうか? 理学療法士の川畑智氏による著書『ボケ、のち晴れ 認知症の人とうまいこと生きるコツ』(アスコム)では、伝え方や接し方がまとめられています。この回では、会話についてのコツをご紹介しましょう。

相手を不安にさせる話し方

「脳いきいき教室」という、脳の健康を保つ市町村事業での話です。

2人1組で頭の体操を進めていくのですが、80代の大森さんは、先に進むことができません。「どこかわからないところがありましたか?」と聞くと、「わからないのではないけれど、もう一度教えてもらってもいいかしら」と言います。

「もちろんです」と答え、最初から説明しましたが、それでもぽかんとした様子です。そして私に、困ったようにこう言いました。

「あなたの言葉は聞こえているけれど、まだ頭に届いていないのよ」

話を理解できないとき、大抵の方は「聞こえないの」「よく聞き取れないわ」という言い方をします。

大森さんのように、「頭に届かない」と正確な表現で伝えてくださる方は滅多にいません。その言葉は、認知症の人と会話をするうえで、私に大きなヒントを与えてくれました。

「言葉は確実に聞こえているのに、頭に届いていない」ということは、聞き取り(リスニング)を担う脳の側頭葉にしっかり情報が届いていないということです。

理解しにくい英単語や専門用語を使いながら、速い会話スピードで話しかけられたシーンを想像してみてください。

単語の意味を一生懸命に考えている間に、話はどんどん先に進んでしまい、なにがなんだかわからなくなってしまう。認知症の人の頭の中では、普段の会話でこのような状態になってしまうことがあります。

そのときの大森さんが、まさにその状態でした。

たとえば、認知症の人に、次のように話しかけたとします。

「血圧を測ってからお風呂に入りましょう。それが終わったらお昼ご飯です。今日は焼き魚ですよ。午後のリハビリのためにしっかり食べてくださいね。夕方には自宅まで送りますので、安心してください」

これだと、明らかに情報過多。

目の前を、突然16両編成の新幹線が通り抜けたようなものです。

「ごめん、もう一度最初から話してくれる?」

「ですから、血圧を測ってお風呂に入って、そのあとにご飯とリハビリで……」

「私は、なにをしたらいいの? どうすればいいの?」

こんなやりとりが延々と続くと、どんどん雲行きが怪しくなっていきます。

会話はひとつずつ、言葉の列車は4両まで

認知症の方との会話のコツは、言葉の入力数を少なくすることです。

「○○さん、□□しますよ」というところで区切りましょう。それが終わったタイミングで「次は△△しましょうね」というように、1つひとつ伝えていきます。

さらに、1回あたりの単語の使用は4語以内が理想です。

「○○さん 血圧 測りますよ」

「○○さん お風呂 入りましょう」

「お昼ご飯は 焼き魚です」

口から出発する言葉の列車は、4両編成まで。

一連の流れですべて伝えてしまうと、頭の働きが苦手になった人には理解が追いつかず、不安しか残りません。

もうひとつ気をつけたいのが、会話の「速度」です。

認知症のリスクのある方や、MCI(軽度認知障害)の方には、私たちが思っているよりもゆっくり話さないと、1つひとつの単語がしっかり頭に届きません。

ゆっくり、一語一語区切って話すこと。読点ではなく句点を使って話すくらいの余裕が必要です。さらに重要なのは、会話の中にジェスチャーを加えること。

食べる話なら食べる身振り、お風呂なら頭や体を洗う身振りを加えることで、視覚的な情報が脳に届き、会話の理解をうながしてくれます。

きょとんとしたり、ぽかんとしたり。理解が追いつかないことへの不安から、ソワソワ、イライラしたり、ウロウロ、キョロキョロ目が泳ぐなどの落ち着かない動作は、あなたの言葉が「脳に届いていない」サインかもしれません。

認知症の人とは異なる世界に日常がある私たちは、ついついいつものクセで、普段どおりの話し方をしてしまいます。言葉を重ねすぎていないか、話すスピードが速すぎないか、一度立ち止まって、振り返ってみてください。

それがお互いの晴れ間を増やすことを、私は大森さんから教わりました。

川畑 智

理学療法士

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