西九州新幹線「かもめ」の停車駅は? リレーかもめとの乗り換えは? などの疑問を鉄道ジャーナリストが解決します

西九州新幹線の疑問に鉄道ジャーナリストがお答えします

「新幹線に乗ろうと思って時刻を調べたはいいけれど、どの列車のどの席を選べばいいか分からない」と迷ってしまうことはありませんか?

全国の新幹線を、車窓を中心に10年以上観察・研究してきた鉄道ジャーナリストの栗原景さんが、知っていると便利なことや、誰かに話したくなる新幹線ならではの車窓の楽しみ方などをご紹介します。

この記事を読むと分かること

  • 使用されている車両、特徴、コンセントの位置
  • 西九州新幹線の停車駅
  • 座席選びのポイント
  • 車窓の楽しみ方
  • おトクに乗車する方法、予約について
  • 車内販売の有無、最高速度などの基本情報

西九州新幹線ってどんな路線?

西九州新幹線は、佐賀県の武雄温泉駅から嬉野温泉駅、新大村駅、諫早駅を経て長崎駅に至る路線です。2024年現在、他の新幹線路線とは直接接続しておらず、営業キロも69.6km(実キロは66.0km)と、全国の新幹線で最も短い路線です。武雄温泉〜長崎間は最速23分。博多〜武雄温泉間の在来線特急〔リレーかもめ〕〔みどり(リレーかもめ)〕と連携して、博多〜長崎駅間を在来線時代から30分短縮して最速1時間20分で結んでいます。

路線は短いですが、車両は東海道・山陽新幹線の最新車両と同じ系列であるN700S(8000番台)が使用され、最新の技術が投入されています。長崎・諫早はもちろん、これまで長い間鉄道がなかった嬉野温泉も便利になりました。

西九州新幹線の車両

西九州新幹線は、全列車がN700S(8000番台)6両編成を使用しています。東海道・山陽新幹線の最新車両と同じ形式ですが、JR九州ならではの個性あふれるデザインで、印象は大きく異なります。


N700S

〔のぞみ〕でもお馴染みの最新型標準車両をカスタマイズ

2022年9月23日の開業と同時にデビューした車両で、6両編成5本が在籍しています。
「九州らしいオンリーワンの車両」をデザインコンセプトとし、車体にはJR九州のコーポレートカラーである赤が配色されています。内外装には、九州新幹線800系などと同様、「和」のイメージを表現。車体側面には毛筆書体による「かもめ」の文字が配され、指定席の座席の布地には日本の伝統的なデザインが採用されています。


ロゴの「かもめ」の文字はJR九州の青柳俊彦元社長が揮毫(きごう)

6両編成は、自由席と指定席が3両ずつ。グリーン車はありませんが、1〜3号車(長崎寄り)の指定席は2席×2席のゆったりとした配置です。
木の温もりを感じる座席は、九州新幹線800系の指定席座席をベースとし、在来線の観光列車「36ぷらす3」に採用されたものを新幹線向けに再度リファインした腰掛けを使用しています。楽に腕を置ける大型のひじ掛けにはインアームテーブルが収納され、もちろん全席のひじ掛けにコンセントを装備。
1両ごとに座席モケットが異なるのも特徴で、1号車は「菊大柄」(グレー)、2号車は獅子柄(グリーン)、3号車は「唐草」(ベージュ)と、それぞれ落ち着きと華やかさを兼ね備えたインテリアとなっています。


1号車「菊大柄」(グレー)

2号車「獅子柄」(グリーン)

3号車「唐草」(ベージュ)

4〜6号車(武雄温泉寄り)の自由席は、東海道・山陽新幹線と同様の2席×3席配置。座席の表地はイエローで、こちらも全席のひじ掛け先端にコンセントが設けられています。また、自由席・指定席ともすべての車両にラゲージラックが設置されており、荷物棚に置けない大きめのキャリーカートを持っている人も安心です。

車いすフリースペースは3号車。最新のガイドラインに準拠して4席分のスペースが確保され、同じ車両に車いす対応の多機能トイレや多目的室も装備されています。


車いすスペース4席のうち2席は移り座れる対応座席あり

多機能トイレも3号車に設置されている

基本的な走行性能は東海道・山陽新幹線のN700Sを踏襲していますが、全国新幹線鉄道整備法に基づき最高速度は260km/h。このため、曲線を高速で通過できる車体傾斜装置は省略されています。一方、勾配が多いことから6両すべてに主電動機(モーター)を搭載。ブレーキは熱が均等に伝わる中央締結ブレーキディスクを採用し、以前の車両で見られた勾配区間での速度制限は不要となりました。さらにバッテリ自走システムを搭載し、事故等で停電した時でも最寄りの駅まで安全に移動できるようになっています。

〔かもめ〕はどんな列車?

〔リレーかもめ〕などと連携して博多〜長崎駅間を結ぶ


〔リレーかもめ〕で使用されている885系

西九州新幹線の列車は、速達タイプも各駅停車タイプも〔かもめ〕に統一されています。
〔かもめ〕は、1961(昭和36)年10月から京都〜長崎駅間の気動車特急として長崎に乗り入れ、1975(昭和50)年3月の山陽新幹線博多開業以降は47年にわたり博多〜長崎駅間の特急列車として走り続けてきた歴史ある愛称です。
現在は、朝晩が30〜40分間隔、日中は約1時間間隔で運行されており、嬉野温泉駅は1〜2時間に1本程度、新大村駅は終日1時間に1本程度停車します。

〔かもめ〕には、各駅停車タイプと、嬉野温泉駅や新大村駅(一部停車)などを通過する速達タイプがありますが、途中駅での追い抜きはありません。最速列車の所要時間は、途中諫早駅のみ停車する〔かもめ18号・45号〕の23分で、各駅停車タイプは30〜31分で運行されています。

現在の西九州新幹線は武雄温泉〜長崎駅間の運行であるため、在来線の〔リレーかもめ〕〔みどり(リレーかもめ)〕と、武雄温泉駅で同一ホームでの接続が行われています。このため、博多駅始発の〔リレーかもめ〕と〔みどり(リレーかもめ)〕の行先表示は「長崎」、長崎始発の〔かもめ〕は「博多」と表示されるのが特徴です。

なお、〔リレーかもめ〕は博多〜武雄温泉駅間で運行される新幹線接続特急です。車両はかつて在来線時代の〔つばめ〕にも使われた787系や「白いかもめ」として人気を集めた885系が使用されています。〔みどり(リレーかもめ)〕は、博多〜佐世保駅間の特急で、JR九州の初代特急型電車である783系や、885系が使用されます。


〔みどり(リレーかもめ)〕で使用されている783系

【使用車両】
N700S(8000番台)

【かもめの停車駅】
武雄温泉駅・嬉野温泉駅(一部列車)・新大村駅(一部列車)・諫早駅・長崎駅

【座席の種類】
普通車(自由席)/普通車(指定席)

【コンセントの有無】
各座席肘掛部にパソコン対応電源コンセント設置

【車内販売】
なし

停車駅一覧

路線 駅 リレーかもめ
在来線・特急 博多駅 〇
二日市駅 ▲
鳥栖駅 〇
新鳥栖駅 〇
佐賀駅 〇
江北駅 ▲
武雄温泉駅 〇
かもめ
西九州新幹線 武雄温泉駅 〇
嬉野温泉駅 ▲
新大村駅 ▲
諫早駅 〇
長崎駅 〇
所要時間(最速) 武雄温泉~長崎駅 23分
博多~長崎駅 1時間20分

〇:停車 ▲:一部停車

座席の選び方

大村湾が見えるD・E席側がおすすめ

乗車時間が短い西九州新幹線ですが、座席は長崎駅に向かって右側、D席(自由席はE席)が良いでしょう。
長崎駅から乗車するなら、左側です。武雄温泉駅から嬉野温泉の先まではトンネルや山を削った谷の区間が多く、車窓風景はあまり見えません。
視界が開けるのは、嬉野温泉駅発車から大小8つのトンネルを通過し、約4分が経過した頃で、畑や街の向こうに大村湾が見えてきます。下り列車は、上りの線路越しに眺めることになるので、長崎駅発の上り列車のほうが景色を楽しめます。


大村湾が見える車窓風景は見逃せないポイント(新大村~嬉野温泉駅間)

西九州新幹線の見どころ

途中下車も楽しみたい

西九州新幹線は、乗車時間が短いので始発駅から終着駅まで乗り通すとあっという間に着いてしまいます。途中には、嬉野温泉や新大村など魅力的な駅がありますので、時間に余裕があれば1駅か2駅ほど途中下車を楽しむのもおすすめです。

武雄温泉駅での対面乗り換え


武雄温泉駅で西九州新幹線と〔リレーかもめ〕が同じホームに停車する

階段も改札もなく、わずか数秒で乗り換え完了

博多〜長崎駅間の輸送を担う西九州新幹線は、始発駅の武雄温泉駅で、在来線の〔リレーかもめ〕と同一ホームの対面乗り換えを実施しています。1本のホームの片側に在来線の〔リレーかもめ〕が、反対側に新幹線の〔かもめ〕が停車し、わずか3分で接続するのです。乗り換え時間の3分は短そうに感じますが、中間改札もなく、本当に扉の目の前に扉が来るので乗り換えはラクラク。多くの乗客が一斉に乗り換える様子は必見です。

市民が参加してつくった駅

駅ごとに市民参加のオブジェクトがある

西九州新幹線の各駅のデザインは、原則として地元が基本コンセプトを提示し、建設主体である鉄道・運輸機構と意見交換しながらデザインを決めていく「パブリック・インボルブメント」という手法で設計されています。
例えば、古くからの温泉街である武雄温泉駅は、温泉街のシンボルである楼門をモチーフにしていますし、新大村駅は大村市の文化財である五色塀をモチーフに、その材料である海石をテクスチャで表現しています。


武雄温泉駅の改札口目の前に設置。およそ2,000枚のパネルで表現されている

注目したいのが、各駅にある市民参加のオブジェクト。ナマズをまつった神社もある嬉野温泉駅のコンコースには、地元の特産・肥前吉田焼のタイルで嬉野市内を流れる塩田川や温泉を表現したパネルがあります。よく見ると、タイルには1枚1枚、市民が描いた川の生きものが描かれているのです。
また新大村駅では、市民350人が描いた、大村市を象徴するオオムラザクラと花菖蒲が、タイルに転写されてコンコースに飾られています。途中下車したら、すぐに改札口を出ず、ぜひじっくり観察してみてください。


新大村駅ではタイルのほかに、トイレ前のガラススクリーンには市民が作成した押し花も飾られている

大村湾


棚田が広がる先には大村湾。季節ごとに様々な表情を見せてくれる(嬉野温泉〜新大村駅間)

街と段々畑の向こうに見える穏やかな海

車窓風景のハイライトが、嬉野温泉〜新大村駅間でD・E席側に見える大村湾です。
新幹線がトンネルを抜けると、その山の斜面に棚田や茶畑などの段々畑が連なり、その向こうに大村湾の青い海が見えます。手前に現れるのは、西九州新幹線の大村車両基地。まもなく大村市の町並みが現れ、新大村駅に到着する頃には海上に浮かぶ長崎空港も見えます。

港を望む長崎駅


2022年に新幹線の駅が完成した新しい長崎駅。長崎湾や稲佐山を望む

開放的な膜屋根が明るい港・長崎の玄関

西九州新幹線の開業を前に、2020年に150m移転し、装いを一新したのが長崎駅です。
新しい長崎駅は高架駅となり、新幹線のホームから在来線ホームを見晴らせる開放的な駅となりました。海に向かって広がるようなアーチ状の膜屋根が特徴で、ホームの端からは長崎港を見晴らすこともできます。在来線との間に壁がないことも特徴で、海の香りが漂う中、新幹線と在来線の列車が並ぶ風景は、まるでヨーロッパのターミナルを思わせます。

おトクなきっぷ

2024年3月現在、西九州新幹線におトクに乗車できるきっぷは「私たちも、かもめ。早特7」「かもめネット早特3」「かもめネットきっぷ」の3種類。早めに申し込むとおトク度アップです。
60歳以上の方なら、「ハロー!自由時間ネットパス」「ハロー!自由時間グリーンネットパス」のチェックをお忘れなく。

7日前までに申し込めばおトク

「私たちも、かもめ。早得7」は、博多・佐賀〜浦上・長崎間を利用する場合に、7日前までに予約すればおトクになる座席数限定のきっぷです。博多〜長崎間は通常6050円(通常期・指定席)のところ、なんと半額近い3200円。ほぼ高速バス並みの値段で利用できます。駅では販売しないネット予約専用のきっぷで、予約は7日前の23時まで可能(コンビニや銀行ATM、駅での支払いを選択した場合は22時30分まで)。このほか、3日前まで予約できる「かもめネット早特3」、当日購入も可能な「かもめネットきっぷ」もあります。

私たちも、かもめ。早得7 かもめネット早得3 かもめネットきっぷ
購入期限 7日前 3日前 当日可
発駅 着駅 普通車 普通車 グリーン車 普通車
博多駅 浦上駅・長崎駅 3,200円 3,600円 4,800円 4,200円
佐賀駅 浦上駅・長崎駅 3,000円 - - 4,100円
博多駅 嬉野温泉駅 - - - 3,710円
博多駅 新大村駅・諫早駅 - - - 4,200円

※逆区間も可/「かもめネット早特3」のグリーン車用は在来線のみグリーン車利用/「かもめネットきっぷ」は熊本・鹿児島中央など他の区間設定もあり




ハロー!自由時間ネットパス

60歳以上限定の魔法のきっぷ

60歳以上の方が入会できる「ハロー!自由時間クラブ」(入会費・年会費無料)の会員専用のきっぷで、JR九州全線、または北部九州エリアに3日間、特急を含めて乗り放題となるきっぷです。
西九州新幹線を含め、特急列車も自由席なら乗り放題で、指定席も6回まで利用可能。北部九州版を使えば、博多から西九州新幹線の各駅に下車するだけで元が取れてしまいます。
連続する3日間使えるので、1日を西九州新幹線の旅に使い、あとの2日間は他のエリアを旅することもできる、とても自由でおトクなきっぷです。有効期間開始日の前日まで購入可能で、座席の指定は駅のみどりの窓口か、特急券自動券売機で行ないます。
なお、西九州新幹線にはグリーン車がありませんが、グリーン車も6回まで利用できる「ハロー!自由時間グリーンネットパス」もあります。

価格 乗り放題エリア
北部九州版 9,800円 九州新幹線(博多~熊本駅間)、西九州新幹線全線及び山陽本線(下関~門司駅間)を含む豊肥本線以北のJR九州全線(日田彦山線BRT含む)及び鹿児島本線(熊本~宇土駅間)・三角線全線(宇土~三角駅間)
全九州版 19,800円 九州新幹線全線・西九州新幹線全線及び⼭陽本線(下関〜⾨司間)を含む、JR九州全線(日田彦山線BRT含む)




【西九州新幹線】基本データ

営業区間:武雄温泉〜長崎駅

営業キロ:66.0km
※西九州新幹線諫早〜長崎駅間は、在来線の線路増設として建設されたため、運賃計算の元となる営業キロと実際の距離(実キロ)が異なります。武雄温泉〜諫早間の実キロは営業キロと一致しています。

使用車両:N700S(8000番台)

最高速度:260km/h

最速列車の表定速度(停車時間を含めた平均速度):181.6km/h

座席の種類:普通自由席、普通車指定席

座席:1~3号車 2&2座席配列(指定席)、4~6号車 3&2座席配列(自由席)

車内サービス:なし

フリーWi-Fi:設置

トイレ:1号車、3号車(多機能トイレあり)、5号車

そのほか:多目的室、車いすスペース4席(うち2席は対応座席なし)
※すべて3号車に設置
※多目的室は身体の不自由な人や気分の悪くなった人、授乳が必要な人などが車掌に申し出ると利用できます


著者紹介

栗原 景(くりはら かげり)

1971年、東京生まれ。鉄道と旅、韓国を主なテーマとするジャーナリスト。出版社勤務を経て2001年からフリー。
小学3年生の頃から各地の鉄道を一人で乗り歩き、国鉄時代を直接知る最後の世代。
東海道新幹線の車窓を中心に、新幹線の観察と研究を10年以上続けている。

主な著書に「廃線跡巡りのすすめ」、「アニメと鉄道ビジネス」(ともに交通新聞社新書)、「鉄道へぇ~事典」(交通新聞社)、「国鉄時代の貨物列車を知ろう」(実業之日本社)ほか。

  • ※写真/栗原景、交通新聞クリエイト
  • ※掲載されているデータは2024年3月現在のものです。変更となる場合がありますので、お出かけの際には事前にご確認ください。

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