昔加入した保険。なかには、いまでは信じられないほど利率が高い「お宝保険」があります。本記事では、Aさんの事例とともに若いころに加入した個人年金保険を見直す時の注意点について、CFPの伊藤貴徳氏が解説します。
Aさんが「お宝個人年金」に加入したキッカケ
Aさん(55歳、男性)が個人年金保険に加入したのは、いまから30年前のことです。現在も勤めているメーカーによく出入りしていた保険外交員から勧められたのがきっかけでした。
「この個人年金保険は利率も高くて、ずっと続けておくだけで将来受け取れるお金が増えるものだから、満期まで続けておいてね」
それもそのはず。当時契約した個人年金の予定利率は4.75%と、いまからは考えられないほど高い利率なのでした。現在の個人年金の予定利率が1%を下回っている状況を鑑みると、Aさんの保有している個人年金保険は「お宝保険」といえるでしょう。
ちなみに予定利率とは、保険会社が契約者に約束する利率のことです。一般的に予定利率が高ければ高いほど、受け取り金額が増える割合は多くなります。
青年だったAさんは、「増えるからずっと続けておいてね」という担当者の言葉を頭の中に刻み、30年間保険料を支払い続けてきました。Aさんの当時の加入内容は下記のとおりです。
個人年金保険
保険料:毎月およそ1万5,000円
加入年齢:25歳
年金受取:65歳から
年金額:年間160万円の年金を10年間
保険料総支払額:約720万円
年金受取合計額:約1,600万円
→およそ2.2倍となって返ってくる
Aさんの当時契約した個人年金はざっくりいうと、保険料を約720万円支払ったら、年金として約1,600万円となって返ってくるというものでした。しかも、この条件は固定です。積立NISAやiDeCoのように将来の受取額が変動するものではありません。
バブル直後である1990年代前半までの積立型保険には、このようにいまとなっては考えられないほどの高利率の商品が販売されていたのです。
そんなお宝保険に契約していたAさん。しかしその自覚はありませんでした。当時青年だったAさんも年齢を重ね、そろそろセカンドライフの準備をしようかなと思い始めていました。そんなある日、保険会社から連絡が。
「現在ご契約いただいている個人年金のご契約確認のため、お時間をいただけませんでしょうか?』
保険会社からの契約確認でAさんの個人年金は…
Aさんは今後のことも気になっていたこともあり、契約確認のため、保険会社の方と会うことにしました。自宅最寄りの喫茶店で待っていると、やってきたのは明るく元気な20代のBさん(電話口で話した現在のAさんの保険担当者と名乗る人)。Aさんの契約内容についてこう話します。
Bさん「現在ご契約の個人年金は利率もよくて、いまの段階でも十分支払った保険料よりも増えている状態ですね! でも、契約を続けていく途中で、病気や介護状態となってしまったときの保障がなにもついていないように思います。Aさんはこの点について、いかがお考えですか?」
Aさん「うーん、なにも考えていなかったですね。契約した当時は病気や介護なんて想像もしなかったですから。でもいわれてみればこの歳になると気になる部分もあります」
Bさん「それでしたら、いまの個人年金にそういった保障をつけてあげましょう! 保険を切り替える形にはなりますが、契約を続けていく途中で三大疾病や介護状態になったら、それ以降の保険料は払わなくてよくなりますよ! 保険を続けられるかなという心配がなくなります!」
Aさんは、これからの体調の面も気になっていたこともあったので、現在の個人年金を解約して、保険料免除特約付きの個人年金へ切り替えることにしました。
見直し後の契約
個人年金保険
保険料:毎月およそ3万円
加入年齢:55歳
年金受取:70歳から
年金額:年間55万円を10年間
特約:保険料免除特約(三大疾病・所定の介護・高度障害状態)
総支払保険料:約540万円
年金受取合計額:約550万円
→約1.02倍となって返ってくる
見直し後の契約は、見直し前と比べると大幅に戻り率が減少する結果となりました。
それもそのはず。見直し後の契約には保険料免除という特約が含まれているからです。特約とは、いわゆるオプションなので積立部分には反映されません。つまり利率を引き下げる要因となるのです。
もちろん、契約時にAさんはこのことについてもしっかり説明を受けて納得をしていました。しかし、若いときから加入していた個人年金が、こんなにもいい保険だったというのを筆者との相談で初めて知ることとなり、「もったいないことをしてしまった……」と後悔することになってしまったのです。
将来のお金を増やす目的なら、20年以上前に契約した個人年金保険は解約しない
見直し後の契約にも、充分にメリットはあります。たとえば数年後、三大疾病や介護状態となり、保険会社の定める状態に該当した場合、それ以後の保険料の支払いは免除となります。
上記の状態となってしまった場合、治療費や収入減少が予想されるなかで数百万円の保険料の支払いが浮くというのはありがたいことです。
ただ、それなら介護保険やがん保険を別途に準備することでも十分代用できる可能性はあります。保険料免除特約のついたいまの個人年金保険は、間違いなく見直し前のものより利率は低いものです。
保険になにを求めるかは人それぞれではありますが、これまで長いあいだ、高い予定利率の保険を続けてこれたのであれば、解約してまで特約をつけるという選択肢はお勧めしません。
結局、Aさんも見直ししたばかりの個人年金保険を見直しすることにしました。自分の心配とするがんと介護についてはがん保険・介護保険で補い、将来の準備は積立NISAを活用することに決めました。
「自分が昔から続けていた保険がこんなにいいものだったなんて知らなかったです。見直しのときに、もっとしっかりと調べて確認すべきでした。後悔しています。幸い、昔の個人年金を解約することで戻ってきたお金は当初の条件よりは下がってしまいましたが、それでも支払った保険料をかなり上回っていたので、これを元手にしっかり準備に充てていきたいです。それにしても、解約はもったいなかったなぁ……」
長いあいだ契約を続けていると、加入内容はどうしても忘れてしまいます。もし、積立型の保険を20年以上続けているのなら、あなたの保険も「お宝保険」の可能性があります。もしも見直しの提案があったときは、加入内容をしっかりと確認することが大切です。
伊藤貴徳
伊藤FPオフィス
代表