世帯年収800万円の30代共働き夫婦…予算オーバーの「住宅ローン6,000万円」を組むために「捨てた」生活必需品【FPが解説】

(※画像はイメージです/PIXTA)

2024年3月19日、日本銀行は金融政策を決める会合で、マイナス金利政策を解除する見直しを決定しました。これにより、消費者にとって直接的に関わってくるのが、住宅ローンの金利です。住宅ローン金利の上昇に耐えられるライフプランを立てるには、どうすればよいのでしょうか? Aさん夫婦の事例とともに、長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。

日銀、マイナス金利を解除

2024年3月現在、日本銀行がマイナス金利政策の解除に踏み切りました。これは2007年以来17年ぶりの利上げになります。ただし当面は緩和的な金融政策をとり、事実上のゼロ金利政策は維持されていくものと考えられます。

住宅ローン金利はどうなる?

消費者にとっての関心は、今後「住宅ローンの金利」はどうなっていくのか。

もし毎月の返済額がいまよりも1万5,000円増えたとしたら、どうなるでしょうか。当然のことながら毎月の給料の手取り額が1万5,000円アップしていなければ、家計の収支は圧迫されることになります。ただでさえ物価は上昇しているのに、住宅ローンの金利上昇で「とどめ」を刺されてしまう家庭も少なくないでしょう。

連合が公表した2024年春季労使交渉の第1回回答の集計結果によると、ベースアップと定期昇給を合わせた賃上げ率は平均5.28%で、前年から1.48ポイント上昇しました。この5%超の賃上げ率を背景に日本銀行が利上げへと動くというシナリオですが、実際のところ、中小企業に勤務する多くの会社員にとっては賃上げなど別世界の話。それを根拠に利上げされ、住宅ローン金利が上昇したらたまったものじゃないという感覚です。

FPである筆者は金利の今後を断言する立場にはありません。しかし、今後庶民を待ち受けるのはさらなる生活苦であるという想定のうえで、相談業務をおこなっています。

最近は支出の大幅な節約、資産運用や貯蓄づくりに取り組む人が急増しています。住宅ローン金利の上昇に耐えられるライフプランを検討したい人が増え始めているのです。

本当に地方でも「自動車」は必需品なのか?

特に地方在住の会社員にとって家計の足手まといになっているのが「自家用車の維持費・購入費」です。自動車の維持さえなければ、子供の教育費や老後資金に問題がなくなる家庭が多いのが現実です。

自動車税、重量税、環境性能割、ガソリン、自賠責保険、自動車保険、整備費用、駐車場費用、自動車ローンの利息、そして約10年ごとの買い替え。「車を持ったら罰ゲーム」と揶揄されるほど税金の割合が多いのが特徴です。道路交通法違反を犯した場合には反則金も必要です。自動車を持っていなければ交通違反もないのですから、倫理を横に置けばこれも維持費のひとつといえます。

食費を削ったり、携帯電話料金を見直したりしても、その効果は自動車の維持費に比べたら微々たるもの。いっそのこと自動車を手放してみてはどうかと提案することもありますが、地方都市に住む方の多くがこういうのです。

「田舎では自動車は必需品です!」

たしかに、一家に一台どころか1人一台所有しているのはめずらしくありません。自営業の人などは1人で二台所有していることさえあります。

地方都市では自動車がなければ生活できない、それは本当なのでしょうか。莫大な維持費を支払い続けるほど、必要不可欠なものなのでしょうか。

結論からいうと、自動車が必需品なのではなく、「自動車がなければ成り立たないライフスタイルを選んでいる」のが現実ではないか、冷静に考えるべきときに来ているのではないかと筆者は考えています。

筆者は東北地方の出身であるため、自動車は必需品という感覚も十分理解できるし、そう思って生きてきました。しかし「自動車がなくても生活できる方法はないか」と真剣に検討した経験がある人は周囲を見渡してもほとんどいません。少なくとも、一家に一台で済ませることはできないのかとライフスタイルを考え直してみる機会が一度はあってもいいかもしれません。

事例では地方都市在住の会社員が、自動車を使わないライフスタイルを模索しながら住宅を購入した経緯をご紹介します。

5,000万円の物件か、3,700万円の物件…マイホームをどちらにするか検討

<事例>

夫Aさん(32歳男性):会社員 年収420万円、普通自動車所有 自動車ローンなし

妻Bさん(32歳男性):会社員 年収380万円、普通自動車所有 自動車ローンあり

子供 5歳

子供 2歳

夫のAさんは東北地方在住の会社員です。

子供の小学校進学が迫っているため、学区を決めると同時に住宅を購入する計画を立てました。
希望としては、子供2人を大学まで進学させ奨学金を利用しないことでした。

希望する立地をみつけ住宅メーカーに試算をしてもらったところ、土地込みの見積もりは5,000万円。かなり高いなという印象を受けました。5,000万円のうち、土地代が1,500万円です。小学校と中学校が近く、バス停も徒歩3分のところにあります。スーパーマーケットも徒歩15分程度。小学校までの通学で大きな道路を渡る必要がないためさほど心配がありません。

利便性がいいことは理解できるものの、できれば4,000万円以下に抑えたいとの意向で、違う土地の提案も受けました。それは価格500万円のかなり郊外の立地です。バス停は見当たらず、小学校はあるものの子供の足で徒歩30分以上かかります。暗くなってから1人で下校するのは心配になるような場所です。スーパーマーケットまでも自動車を使わなければ行けません。この土地に最初の見積もりよりも小さな建物を建てれば、資金計画は3,700万円になるようです。

5,000万円の物件と、3,700万円の物件。一長一短があり決めきれないため、FPの意見を聞いてみることにしました。

車を減らすと劇的に家計が変わる

FPからの回答は簡単なものでした。

・5,000万円の物件も返済は可能だが、老後資金はギリギリ

・3,700万円の物件は老後資金にゆとりが出るがQOL(生活の質)は落ちる

・5,000万円の物件を買い、自動車を一台減らせば3,700万円の物件の場合よりも老後資金が増え、QOLは維持でき、将来の金利上昇にも対応の余地が生まれる

「つまり、車を一台にして5,000万円の物件がいいと思います」とFPが言います。驚くAさん夫婦。

「でも、この田舎で自動車は必需品ですよね。公共交通機関が壊滅状態ですよ。東京のようにはいきません」

FPが答えます。「その実情はとても理解しています。しかし、簡単に計算してみると次のようになります」

物件価格5,000万円の場合(金利1%)
利息 927万9,814円
支払い総額 5,927万9,814円

物件価格3,700万円の場合(金利1%)
利息 686万7,000円
支払い総額 4,386万7,000円

差額 1,541万2,814円

これに対して自家用車一台を今後40年間所有し続けた場合は、

車検費用 260万円
自動車税(年額3万9,500円) 158万円
自動車保険(年間8万円) 320万円
ガソリン(月1万5,000円) 720万円
メンテナンス費用(年3万円) 120万円
買替費用(一台200万円を4回)800万円

合計 2,378万円

住宅ローンの支払総額との差額は836万円になります。もしこれを資産運用に回すことができたら、より大きな金額になります。

机上の計算では理解できるが、自動車を減らせるのか?

自動車を減らすためには、立地が重要になります。駅やバス停が近いところ、職場までのアクセスがよいこと。自宅か職場の近くにスーパーマーケットやドラッグストアがあることなどを条件に考えることになります。また灯油などは宅配サービスを使い、水などの重いものはネットで購入すると意外と不便ではありません。

「一台だけなら減らせるのかもしれないな……。残った一台も軽自動車にしたらもっといいということですね」と夫Aさん。

その場合、遠出するときに窮屈で不便になりますが、その場合は事前にレンタカーを借りておくことも選択肢としてあります。

Aさん夫婦は妻Bさんのローンが残っている車を残し、夫Aさんの車を売却することにしました。そして5,000万円の物件を購入することに。毎月のガソリン代、自動車保険料の分が浮いたため、それはつみたてNISAに回しはじめました。

夫Aさんは晴れている日は自転車、雨や雪の日はバスと徒歩で通勤することになりました。通勤時間がかなり増えたものの不可能ではないとわかったのです。

「車を二台ともなくすのは現時点ではまだ勇気がありませんが、立地次第では一台で済むのだと自信がつきました」と夫Aさんがいいます。

住宅購入の先の先まで考える

今後、首都圏以外は著しい人口減の社会となっていきます。地方によっては街並みがコンパクトになっていく可能性もあります。安いからといって極端に郊外の物件を購入すると、近隣が過疎化していく現実が待っているかもしれません。文字通り自動車が一生の必需品となってしまい、むしろ余計な支出を増やすことにつながるでしょう。人口減の社会では郊外の自宅の売却はかなり難しいはずです。

「自動車は必需品」というライフスタイルは、自宅購入のタイミングで見直してみることをおすすめします。

長岡 理知

長岡FP事務所

代表

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