『変な家』は「普通の映画」? ティーンムービーの進化形がもたらした大ヒットの必然

3月第4週の動員ランキングは、『変な家』が週末3日間で動員39万9000人、興収5億1900万円を記録して2週連続で1位を獲得。この成績は、なんと前週同期間との興収比で109%という数字。「前週超え」の有無は作品がメガヒット&ロングヒットとなる条件の一つで、この現象は昨年12月に公開されて先週末の時点で興収44億6900万円を記録している『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』や、昨年11月に公開されて先週末の時点で興収27億7500万円を記録している『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』でも起こったこと。このような短期間での「前週超えヒット」の連発は、日本の映画興行において大きな変化が訪れていること示している。

片や戦中の日本を舞台とした特攻隊員と女子高生のタイムスリップラブストーリー、片や一軒家の変な間取りにまつわるホラーミステリー。アニメーション作品であり、観客の年齢層の中心が20代以上だった『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』はひとまず置いておくとして、近年なかなかヒット作が出なかった国内の実写映画である『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』と『変な家』のヒットは、一見まったく異なるジャンルの作品であるようでいて、いくつかの共通点がある。一つは、中心となる観客層がティーンであること。もう一つは、これは一つめの理由でもあるのだが、いずれもマスメディアから取り上げられる前に、ティーンの間ではTikTokやYouTubeを通して認知を広げていた原作・原案を持つ作品であることだ。

つまり、『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』や『変な家』のヒットの構造は、2000年代から2010年代にかけて国内のメジャー配給会社から毎週のように供給されてきたコミック原作のティーンムービーに極めて近い。違うのは、完全に女性の観客層に振り切った少女コミック原作の恋愛映画や、若い世代の観客以外には入り込みにくい誇張された演出や演技に振り切ったコメディ映画ではなく、作品の作り自体は基本的にシリアスなトーンであることだ。例えば、『変な家』には「ティーン向け作品における誇張された演出」、言い換えるならば「変な演技」の代表的な担い手である佐藤二朗が二番手のポジションで出演しているが、演出的にも演技的にも抑制されたトーンがキープされている。

己の不明を恥じるならば、『変な家』を試写で観た時はここまで大ヒットするとはまったく予想できなかったし、今もどこか腑に落ちない気持ちは残っている。しかし、想定する観客の男女比を偏らせることなく、作品の入り口においては年齢的な逆ハードルを感じさせない「普通の映画」の体裁をもった『変な家』は、2010年代までのティーンムービーの正常進化形として、あの当時の全盛期以上の大きな成果をもたらしつつある。

(文=宇野維正)

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