縄文土鈴・土面作りワークショップ ~ 縄文アーティスト 兵頭百華さんが、土にふれることから伝えたい縄文の心と技

縄文アーティストである兵頭百華ひょうどう ももか)さんが開催する縄文サロンを知っていますか。

縄文土器の展示、作品や書籍などの物販販売などに加えて、「縄文土鈴(じょうもんどれい)・土面(どめん)作りワークショップ」と「縄文のお話会」を開催しています。

「縄文土鈴・土面作りワークショップ」のことを、体験と兵頭百華さんのインタビューを通じて紹介します。

縄文サロンとは

「縄文サロン」は、単発的なサロンとして、2022年(令和3年)11月から始まり、今では毎月開催されています。
水島東常盤町近くにある「ミズシマパークマネジメントLab.」が担当する地域サロンの一つです。

縄文サロンでの楽しみは次のとおり。

  • 縄文土鈴・土面作りワークショップ
    土鈴、土面から選び制作。一人一人に1kgの粘土が準備されているため、粘土の量と時間内であればいくつ制作しても大丈夫
  • 縄文のお話会
    縄文の基本的な知識、兵頭さんが見る縄文の魅力、岡山・中国地方の縄文についてなどの話しをしながら縄文について語り合う会
  • 縄文土器の展示、作品書籍などの物販販売
    おもに兵頭さんが制作した縄文土器(模写と創作)とフラワーアレンジメントなどの展示など

そのほかにもワークショップやお話会に加えて、兵頭さんが手がける縄文土器の展示なども楽しめます。

入口から兵頭さんの「おもてなし」を楽しめる

会場は、この建物の2階の「ミズシマパークマネジメントLab.」です。建物の入口には、真新しい「縄文サロン」ののぼりが目をひきます。

すりガラスから、縄文土器らしき影が見える

入口を入るとすぐに、兵頭さん手作りのウェルカムボードと縄文土器に生けた花などがお出迎え。

縄文土器などの展示

こちらが縄文土器の展示会場です。

左手には、実在する縄文土器を模写した作品。右手には、兵頭さんにより創作した作品が展示されています。縄文土器の形や文様、厚さなどを、ぜひ体感してください。

筆者は縄文土器と聞くと思い浮かべるのは、代表的な形の火焔型土器(かえんがたどき)です。これも展示されています。
ろくろもない時代に、芸術的で実用的な土器が制作されていたことに驚きです。

兵頭さんが創作した縄文土器の一つ「一心同体」。土にふれる喜びを感じる兵頭さんならではの作品ですね。

縄文土鈴・土面作りワークショップを体験

続いて、縄文土鈴・土面作りのワークショップを体験しました。
ワークショップでは、まず兵頭さんから、縄文土器や縄文時代について説明があります。

兵頭百華さん(中央)

縄文土器用に発酵させた粘土(1kg)をはじめ、縄や竹ベラなどの道具がそろっています。
取材時の参加者は、筆者を含め6名(大人2名、子ども4名)でした。

これから作る縄文土鈴と土面の一例。右上の土偶のなかがくりぬかれており、振ると素朴な音でなる鈴になっています。

筆者は縄文土鈴に挑戦。作る手順はつぎのとおり。

縄文土鈴の作り方(土鈴の場合)

  • 粘土を半分程度取り丸にする
  • その粘土を人型にする
  • 下部をとんとんと机にあて底を作る
  • 粘土紐をひっつけ文様を入れる
  • そこから粘土を取り出し、玉を入れ閉じる

粘土(1kg)を竹ベラで半分に切り、丸い粘土にします。兵頭さんがお手本として実践。

筆者も挑戦しましたが、まん丸にすることさえも難しいですね。

皆さん思い思いに集中し、楽しみながら制作。参加者の状況にあわせ、兵頭さんがフォローしてくれます。

土鈴(土偶型)を制作した後、土面作りをしているところを撮影させてくれました。
土面の制作には、調理用のボウルを利用。逆さに置き、乾いた布を敷いた上で作ります。

テーブルの上いっぱいに、作品がどんどん増えています。配布された粘土がある限りは、時間内にさまざまなものをいくつ制作しても良いとのことです。

制作途中の玉型の土鈴を見せてくれました。右手に持っている縄で縄目の文様をつけていきます。
また、こちらの参加者は、土鈴(土偶型)、土鈴(玉型)、勾玉2つなど6つの作品を制作。

当日、参加者の皆さんにより、制作された作品は次のとおり。
個性豊かな土鈴、土面、土器などが完成。こちらの作品を乾燥した後に、2024年4月28日に野焼きで完成する予定です。

縄文土鈴・土面作りワークショップのあとで、講師であり縄文アーティストである兵頭百華(ひょうどう ももか)さんにインタビューしました。

兵頭百華さんにインタビュー

講師であり縄文アーティストである兵頭百華(ひょうどう ももか)さんに、縄文土器を制作するきっかけなどについて話を聞きました。

──兵頭さんが縄文土器に出会ったきっかけは何ですか。

兵頭(敬称略)──

私が中学2年生のときに誘われ、母と一緒に新見市にある猪風来美術館(いふうらいびじゅつかん)へ行き、縄文野焼き祭りに参加したんです。焼かれる縄文土器を初めて見たときは、「ふーん」と興味まで持つことはありませんでした。

でも、美術館で展示されていた(後に兵頭さんが師事する)、縄文造形家の猪風来(いふうらい)さんの作品を見たときには、体の熱があがる感覚がありました。心をつかまれたんですね。

しかし、そのときには、縄文土器を始めるまでには至りませんでした。

──では、改めて縄文土器に出会うきっかけがあるんですね。

兵頭──

2019年夏になり、猪風来美術館で講演会と陶芸教室(縄文土器)があり参加しました。そのときに、猪風来さんから、「手が土器を作ることを覚えているうちに、続けたほうが良い」と言われ、その1週間後にも参加。以来5年くらい続けています

猪風来さんのところへ「縄文時代について知りたい」と訪問されたかたにも、猪風来さんは「まずは縄文土器を作ってみたらどうか」と提案していました。

縄文土器を制作することで、縄文土器を作る技術だけでなく、縄文人の心とつながるような感覚を得られ、縄文についてより理解が深まることがあるんです。結果、提案されたかたも、縄文土器の制作を続けています。

──縄文土器を制作する技だけでなく、心も大事にされていますね。

兵頭──

会場となる「ミズシマパークマネジメントLab.」の左手に展示している縄文土器は、おもに出土した土器を模写したものです。

見てもらえればわかりますが、縄文時代と一言で言っても、1万年以上も続いた時代のため、それぞれの時代での特徴や形はさまざまです。土器の形や文様、厚みでさえも違う

猪風来美術館にある作品を間近で観察し、一つ一つの形・文様などを忠実に再現していく過程で、当時この土器を作った縄文人の思いを感じることがあります。

  • この線はどのような祈りを込めて描いたのだろう
  • なぜか、あの文様に心が反応してしまう
  • この土器の角度、形を作るにはこのような工夫があったのだろう

模写をつうじて、縄文時代に土器を制作していた女性の表現の奥深さを感じることがあります。

──そもそも縄文土器とは、何のために作られたのですか。

兵頭──

縄文土器の使用目的は、煮炊きするための土器です。

縄文土器作りは粘土紐で上に積み上げる輪積み技法で作ります。一般のかたは、制作の過程でつぶれてしまうことが多いですね。

──展示作品の中でも、特徴のある6つの突起がついている土器がありますが、これは兵頭さんの創作ですか。

兵頭──

こちらの作品は、創作や模写でもなく、再現制作になります。出土した実物の欠片を元に全体をイメージして制作しています。

特にこの土器は、空洞の四角い突起が6つ付いており、比較的厚めの土器であったため、土が乾かないうちに、どのように作ったのかを試行錯誤しながら再現しました。

これまで、多くの作品と向き合ってきた経験から、制作過程も再現できたのではないかと思っています。

──兵頭さんが師事されている猪風来さんとの出会いが大きいのですね。

兵頭──

猪風来さんは、2024年現在77歳。若いときから、縄文土器を制作していましたが、1986年(昭和61年)に「縄文の心」をもとめて千葉県から北海道へ家族で移住しています。

北海道では、原野に竪穴式住居を建てアトリエとし、家族で自給自足の縄文の生活をしていました。竪穴式住居は、地面に穴を掘り生活するため、生活の目線が大地と同じ目線になります。生活を通して、すべての生命は、大地から生まれている平等で等価であることを感じたそうです。

その後、全国に美術館の候補地を探し、いくつかの候補地のなかから、最終的に新見市の場所(現在の猪風来美術館)が選ばれました。縄文時代の生活をしながら、縄文土器を制作する。それを一緒に移住した家族とできていることだけでもすごいと感じています。

今では、猪風来美術館の陶芸指導員として、毎月第2,3水・日曜日の陶芸教室にも携わるようになりました。

──最後に、兵頭さんにとっての縄文土器の魅力を教えてもらえますか。

兵頭──

縄文土器を制作しているときは、楽に自然と手が動き、縄文土器とリンクしているような感覚で、没頭して制作できています。

また、縄文土器だけでなく、縄文の心
人としての本質的な考え方である、「縄文時代の女性のすべてのものへの慈愛と敬意の念が評された命の器である縄文土器」に魅かれています。

自然のなかで縄文土器を制作していくすべての工程に、より心が豊かになっていくことを感じさせてくれています。

おわりに

筆者は、縄文時代と聞くと、授業で学んだ「火焔型土器(かえんがたどき)」のみの情報しかなく参加しました。

「縄文土鈴・土面作りワークショップ」に参加することにより、以下のことを知りました。

  • 1万年以上もの間、争いもなく平和な時代であったこと
  • 縄文土器を制作するのは女性の役割であり、すべての命を育む儀式の一つであること など

約3時間ものワークショップにもかかわらず、参加者のかたにも恵まれ、楽しく交流をしながら、縄文土鈴を制作。
引き続き、年に2度開催される猪風来美術館での野焼き(2024年4月28日予定)にも参加予定です。

縄文土器の鑑賞・制作から、縄文の心について学べる縄文サロン、ぜひ参加してみてください。

なお、「縄文土鈴・土面作りワークショップ」は、定期的に開催されていますが、一度に多くのかたを受け入れることが難しいため、早めの予約をおすすめします。

募集は兵頭さんのInstagramなどで定期的におこなわれています。

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