60歳の親が転職したいと言っていますが、無理なのではと心配です……終活世代の就活実状とは その1

高年齢者の転職の実状

図表1は、令和4年1年間の年齢階級別転職入職率を、男女別で表したものです。転職入職者とは、入職前1年間に就業経験のある者をいいます。

図表1

男性のパートを除いて、男性・女性の一般と女性のパートが59歳までは転職が減少していますが、60歳から64歳ではいったん増加し、65歳以上では再び減少しています。役職定年や早期退職が、働き方を考える機会になっているのでしょうか。

また、男性は転職先がパートであるものが、一般に転職した者の約3倍となっています。ただ、すんなりと転職ができたのでしょうか。60歳前後の終活世代で、実際に職探しをした2人の例を見てみましょう。

プライドを守るため、就職が難航したAさん

Aさんは事業者でしたが、54歳の時に取引先との契約が切れたことを機に、2年ほど休養することにしました。持病があり、どこかで休みたいと思っていたのです。2年程度なら収入がなくても過ごせる資産があるし、自分にしかできない技術があるので、仕事に困らないと思っていたそうです。

しかし、3年たっても仕事の問い合わせがありません。それでも、就職するのはAさんのプライドが許さなかったそうです。これまでは温かく見守っていてくれた家族からも、どこかに就職するようにうるさく言われましたが聞く耳を持ちません。

Aさんが59歳のある日、就職を決意しなければならない出来事が起こります。クレジットカードの置き忘れを度々やったため、さすがにこのままマズイとAさんは自覚しました。

よって、Aさんは職探しを始めるのですが、新卒の際の過去の栄光(引く手あまた)が頭から離れず、希望すればすぐに就職できると思っていました。しかし、“お祈りメール”(企業からの不合格通知)が続きます。

いくら60歳定年から65歳定年になっても、70歳まで引き上げられても、「この人に来てほしい」という理由がなければ、59歳を過ぎた人を迎える企業はないに等しく、あっても給与面において採用される側が納得いかないということがあります。企業の事情によりますが、技術があって即戦力になるかどうかより、年齢の壁には勝てないのが実情です。

60歳になる間近に、Aさんは技術・経験を買ってくれる企業に就職しました。収入はこれまでより大きく落ちましたが、技術面では頼られる毎日であり、自由な時間を過ごしてきたときよりも心身ともに充実し、健康に過ごせています。

60歳を過ぎても、学び直しで就職が可能か悩むBさん

Bさんは61歳。60歳になってからやりたい仕事が見つかり、そのための資格を取得し転職を試みます。また、パソコンスキルも要求されますが、日常、パソコンを使って文書作成・メールの送受信等行っているので、問題はありません。

年齢で門前払いをされると思っていましたが、転職を希望するその職場は、定年がないとのことでした。

ところが、面接に挑んだBさんが目にしたものは、面接試験を進行する以外の面接官のやる気のない姿勢でした。その後、お祈りの選考結果と履歴書が、速攻で返送されてきました。予定より早い通知に、年齢による選別がされていたと思わざるを得ませんでした。

まとめ

終活世代の就活は、いつまで生きているかも関係してきます。終活世代は、「残りの人生どう生きるか=残りの人生をどう働くか」となる世代です。個人差はあるものの、年々能力が衰えていく年代であるため、転職先も限られてくるでしょう。

残された人生をどう生きるかを決めたら、迷っている時間はありません。思い立ったらなるべく早く行動することが重要になります。

必ずしも、願いどおりの仕事・収入を得られないこともあるでしょう。しかし、60歳を過ぎていれば、公的年金を繰上げ受給することもできます。ひと月繰上げるごとに、65歳で受け取る予定の0.4%減額されてしまいますが(例えば、60歳で受け取ると0.4×12×5=24%減額されます)、年金を受け取りながら無理せず長く働くことも、終活世代の働き方の1つではないでしょうか。

注意:年金を受け取りながら厚生年金に加入する在職老齢年金では、給与(賞与含む)と年金の合計が48万円を超えると、超えた分の2分の1の厚生年金が支給停止になります。

出典

厚生労働省 高年齢者雇用安定法 改正の概要
厚生労働省 令和4年雇用動向調査結果の概況
内閣府 令和5年版高齢者白書(概要版) 第1章 高齢化の状況(第2節) 第2節 高齢期の暮らしの動向
内閣府 令和5年版高齢社会白書(概要版)
日本年金機構 働きながら年金を受給する方へ

執筆者:林智慮
CFP(R)認定者

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