『フリースタイル日本統一』#23ーー悲願の日本統一は“番組白星ゼロ”の呂布カルマに託される

2023年10月より放送中の『フリースタイル日本統一』(テレビ朝日/ABEMA)。同番組では、全国16地区で活躍するラッパーが3名1組となって、それぞれの地元の威信を賭けてフリースタイルバトルに挑戦。勝利チームは敗退チームから好きなラッパー1名を吸収し、最終的に日本統一を果たすと、その暁として賞金100万円が贈られる。

以下より、3月26日に公開された【#23】のハイライトを振り返っていく。細かなネタバレもあるためご注意いただきたい。

・輪入道、SANTAWORLDVIEWーー呂布カルマに立ちはだかる強敵ラッパーたち

前々回の【#21】より開幕した決勝戦(百万石の戦い)。ここまで、TEAM神奈川のMC☆ニガリ a.k.a 赤い稲妻が爆走し、一気にリードを広げるも、TEAM東海も歩歩が奮起により、その差を縮める。残すは、TEAM神奈川が輪入道、SANTAWORLDVIEW、FORKの3名。対するTEAM東海は、呂布カルマの1名のみ。しかも状況は芳しくなく、呂布カルマは番組ではいまだ白星ゼロ。あまりに不安すぎるラスト出陣。それでもやはり、彼はどんなときでも物語の主人公なのだった……。

すでにオンエアから日にちも経っているため、結論から言おうーー呂布カルマ率いるTEAM東海が、優勝。日本統一を果たし、優勝賞金を獲得した。

ただ、そこまでの道のりはとても過酷なもの。第一に、前回の【#22】終了時点でステージに立っていたのが、最恐の妖怪、バイブスモンスターなどの異名を持つ輪入道。これまで『フリースタイルダンジョン』などでも共演歴があり、お互いの手の内が知れているのも、一筋縄で勝てる相手ではないことも、呂布カルマが誰よりも理解していたところだろう。

そんな輪入道戦の主な話題は、“サンプリング”。呂布カルマのトレードマークである、サングラスに柄シャツ姿。それが輪入道のオリジナルでもあるのか、はたまた“真似”なのか。あくまで後者だという指摘に、輪入道も“着る服まで指図されるのか?”と激昂したり、最終的には呂布カルマがかつて、輪入道の言葉を“サンプリング”していたという話題にまで発展。(サンプリングは、あくまで“真似”と同義でないと前置きしておくが、)お互いをリスペクトしながらも、根深い関係を持つふたりだからこそ、話題の出所もとても複雑、かつ具体的だ。

だが、結果は3-2で呂布カルマの勝利に。試合後に残した「こうなったら俺、強いですよ」の言葉通り、その勢いままにTEAM神奈川の5番手・SANTAWORLDVIEWを5-0の圧勝で撃破。とはいえ、輪入道に対してと同様、呂布カルマのラップに感じられたのはアーティストとしてのリスペクト。ジェロム・レ・バンナなど、ボクシングや格闘技のネームドロップを多用したバトルのなかでも、SANTAWORLDVIEWの方から出てきた“勝利の女神”のフレーズを拾って、〈勝利の女神とか今更そういうの無しだぜ 勝利の男の神様かもしんねぇ 更に言うともしかしたら 俺がそのものかもしんねぇ〉〈俺のケツを追えよ Boy〉と、自らの強烈なボースティングに繋げた場面がとても見事だった。

・FORKv.s. 呂布カルマ、『KOK2021』の雪辱を果たすとき?

ということで、本稿のメインとして紹介するのは、誰もが見たかったに違いない、このカード。FORK v.s. 呂布カルマだ。

試合前には、呂布カルマが「おい、来てくれや」と吐き捨てるように一言。それに対して、呆れ顔のFORKがステージに水を置きながら「おい、来てくれや? 誰に対してモノ言ってんだよ」と首筋に言葉のナイフを当てれば、オーガナイザーのZeebraが「鳥肌たってる人~?」と、悠長な挙手確認で場の空気を和ませる。決勝戦、それも最終試合を目前に、まるでコントのような展開だった。

さて、この試合の先攻は、FORK。ビートは、ANARCHY「Fate」。ハイライトは次の通りだ。

FORK:呂布カルマ 結局最後はこうなるな これは時代が証明してる 俺とお前ここで再会してる 確か違う山を登ると言ってたが登った先は同じ部屋だったかもな

呂布カルマ:違う山を別々に登りにここで会ったが何年目か知らねえ 色んなところで会ってる ずっと背中を見てる 先輩 だがここが部屋だなんて狭すぎるぜ 俺ら青天井 どこまでも飛んでいくんだろ 言葉が俺に羽を飛ばして飛ぶんだよ

FORK:全く震えてない これがそう 狭い? お前 俺から結構離れたいって事か? 寂しいじゃねえか これ何平米か知らないけど ペーペーとは違う せいぜい頑張れよ/日本統一知らねえ 下手な演出はいらねぇ どんな料理で食ったって味は問題ねえ

呂布カルマ:FORKさん超つまんねえよ 韻の数だけ重ねんの止めてくれよ 俺がペーペーかどうかなんてもう分かってんだろ 今更口に出さなきゃ分かんねえのかよ オメェはよ/今更俺がペーペー PayPayでお会計みたいな話ですか?

FORK:PayPay 1000万じゃ足らんらしいから 今日買えよ ここがペイデイ/お前は俺の前ではいつまでもペーペーだぜ つま先まで見とけ /眠らせねぇ 火曜の夜が再び また街の噂になってるぜ

呂布カルマ:韻ばっか踏みたくて 支離滅裂な事を言っているMCたちを見て 俺は韻を踏むのを止めたよ 筋の通った韻を踏むアンタを見て 俺はバトルで韻を踏むのを止めたよ/じゃあアンタのお望み通り持って帰ってやるよ1000万 全員で山分けだぜ買うもん用意しとけ

この空気感は、実際に見逃し配信を視聴してもらえばすぐに伝わるかと思うが、雰囲気が急に『ULTIMATE MC BATTLE』など、大型大会のそれと同じように一変したこの試合。よい意味で空気が重く、バトルの仕方もライムやフロウより、むしろパンチ一発でどれだけ相手の脳を揺さぶれるかといった方向性に切り替わっている気がする。いや、きっと、ステージ上のふたりはそんなことを意識せず、ただ単純にどちらがラッパーとして格好よい言葉を強く刻めるかを試し合おうとしていただけだとは思うが。

さて、このカードといえば、思い出すのはかつての『KING OF KINGS 2021』決勝戦。あのときは、FORKの完璧かつ、ライムを踏みまくったラップに、呂布カルマも序盤からブチ上がるのを堪えていたという。今回も同様だったのかもしれないが、〈俺がペーペーかどうかなんてもう分かってんだろ 今更口に出さなきゃ分かんねえのかよ オメェはよ〉あたりで会場の空気をほぼ完全に掴むと、〈じゃあアンタのお望み通り持って帰ってやるよ1000万〉で止めを刺す。

それでもあくまで〈筋の通った韻を踏むアンタを見て俺はバトルで韻を踏むのを止めたよ〉と、そのほか有象無象との対比を通して、リスペクトを示す。ここでもやはり、大切にされたリスペクト。むしろ、リスペクトを示すことすら、自らの武器にしてしまう、前述の「こうなったら俺、強いですよ」という言葉を証明する内容となった。

結果は、1-4で呂布カルマが勝利。ゆえに、TEAM東海が悲願の日本統一を果たした。“熱韻スタイル”で、とにかく心地よいラップを提示してくれたCIMA、最高のエンターテイナーこと歩歩、Sirogaras戦など、ニューカマーとして自らにスポットを当てさせたKANDAI、終始、今回最もゴリゴリなスタイルを崩さなかった楓、“もう若手ではない”と結果で示した泰斗a.k.a.裂固、そして“おいしい部分”だけは残さず平らげる呂布カルマ。最高の6名が最後、ウィニングラップを披露して、日本統一の喜びを祝い、味わい尽くすのだったーー。

(文=一条皓太)

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