親しい友人が悩んでいたら、何とか力になりたいと思いますよね。
でも、度が過ぎた「助け」が友人にとっては迷惑な展開を招いたとなると信頼関係も崩れてしまいます。
相手のプレッシャーにならない「手助け」と「おせっかい」の差はどこにあるのか、何とかしたい自分の気持ちはどう扱うのが正解なのでしょうか。
ある女性が友人からの相談を受けてしくじったことについて、ご紹介します。
引っ込み思案な友人
麻美子さん(仮名/26歳)は、大学時代から仲のいい友人Aさんがいました。
「引っ込み思案で自分の気持ちを出すのが苦手」とAさんについて感じていた麻美子さんは、大学の頃から買い物でもサークルでも自分が引っ張ってあげてコミュニケーションの場を作っていた、といいます。
大学を卒業して別々の会社に就職してからもお付き合いは続き、いつまでも彼氏ができないAさんのことを、麻美子さんは「臆病が治らないといつも心配していた」そうです。
そんなAさんから「同じ会社に好きな人がいる」と打ち明けられたのが2ヶ月前。
「相手は同い年の同期なのですが、自分から挨拶をするとか話しかけに行くとか、Aにしてはがんばってるなって思いました。
同じ会社だから『嫌われたらいろんなことで大変になる』といつも気にしていて、気持ちはわかるけどもう少し積極的になればいいのにとも感じていましたね」
素直にAさんを応援する気だった麻美子さんは、実際に目にしたことのないふたりの社内の状態が良くなるように、あれこれとアドバイスを送っていたそうです。
持ちかけられた相談
「そのAが、『今度一緒に飲む機会があるんだけど、そのときにLINEのIDを交換したくて』と相談してくれました。
どんな流れだったら警戒されずにIDの交換ができるか、Aは悩んでいて。
会社を離れた状況で男性と話すのも初めてで、緊張する気持ちはわかりました」
Aさんが初めて自分から行動を起こそうとしているのがわかり、麻美子さんは必死に策を考えます。
「数人で話しているときにさり気なくLINEについて話題にする」「ふたりきりならLINEの使い方を相談してみる」など、半分はプライベートな状況なら気軽に話すのがいいのでは、と麻美子さんはAさんに伝えたそうです。
「Aは『ありがとう』って、何とかしてふたりで話せる状態を作る、と言っていました。
ただ問題がひとつあって、その男性を狙っている女性社員がほかにもいて、その人も飲み会に来るから独占されそう、って不安そうだったのですね」
その女性社員は会社で男性によく話しかけていて、明るく気さくな性格で自分よりも交友関係が広く、評判がいいことがAさんにとっては脅威でした。
「そんな人が一緒のなかで男性と時間を作ってLINEのIDを交換するって、Aには難しいかもと思ったのです」
大学の頃、合コンに行っても黙りがちで複数の人がいる会話では特に我を引っ込めてしまうAさんの様子を知っていたので、麻美子さんはうまくいくか心配だったそう。
「それで思い付いたのが、飲み会のときに私がAに電話してその場でアドバイスをすることです」
想像と違った友人の対応
「Aさんにその案を伝えたとき、真っ先に断られましたね。
Aの性格からして、自分の恋愛に友達の私を巻き込むのは気が引けるだろうことは、予想していました。
だから、『かけなくていいからね』ってAが繰り返すのを『まあ任せてよ』って返したのが、いけなかったと思います……」
麻美子さんにとっては「Aに気を使わせない」ために暗黙の了解を付けた形でした。
当日、麻美子さんは聞いていた飲み会の開始時間を一時間ほど過ぎたあたりでAさんのスマートフォンに電話をします。
ところが、1回目ではAさんは出ず、その後も3回ほどかけ続けてやっとAさんとつながります。
「どう?うまくいっている?」
と尋ねる麻美子さんに、Aさんは少しの沈黙の後で、
「今ちょうど彼と話しているところだから」と言って「ごめん、切るね」と通話を終了しました。
「肩透かしをくったようで、正直ちょっと腹が立ちましたね。こっちは助けてあげたくて、協力するつもりでかけたのですが」
と、麻美子さんはそのときのAさんにわずかな怒りを覚えたそうです。
麻美子さんは、Aさんのことだから電話をしたら「どうすればいい?」とSOSを求めてくるに違いないと思っていて、想像とは違う対応に驚きも感じていました。
その日はAさんから電話がかけ直されることはなく、どうなったのか気を揉む麻美子さんはAさんに対して不信感を覚えたまま、数日が過ぎました。
「おせっかい」になる気遣いとは
Aさんから電話があったとき、麻美子さんは「少し機嫌が悪かった」といいます。
自分の好意を無にされ、その後の報告もしないAさんの状態に傷ついていました。
「例の好きな人とは無事にIDの交換ができたと言っていました。それは素直にうれしかったし、よかったねと答えたのですが……」
麻美子さんが驚いたのは、それから後のAさんの言葉です。
「心配してくれた気持ちはうれしいし、わざわざ電話をかけてくれたのもありがたいと思っている。
でも、あのときは本当に彼と話している最中で、何回もかかってくるから彼が気にして『出たら?』って言われて、話が中断したのね。
かけなくていいって私は言ったのだから、それを受け入れてほしかった」
と、あのときの状態について話してくれたそうです。
「何ていうか、自分のしたことは完全におせっかいだったのだと気が付きました。
1回目で出ないときにやめればよかったとそのときは思ったのですが、後になってそもそもAの時間に割り込むことそのものがまずかったのだなって……」
Aさんは怒っていたわけでは決してなくて、ただ「自分で何とかするつもりだった」と繰り返し麻美子さんに伝えました。
「電話に出なかったら察してくれるかなと思った」
というAさんの言葉が、麻美子さんの心には今も深く残っています。
自分はあくまでも好意で、助けるつもりで提案したことでしたが「かけなくていい」と断る友人の気持ちを考えておらず、そのときになっても自分の気持ちを押し付けていたのが事実でした。
「気遣いじゃなくて、ただのおせっかいですよね」
麻美子さんは深くため息をついて、Aさんへの申し訳なさにまたうなだれました。
友人の気持ちを信じること
麻美子さんの行動は、友人であるAさんの恋路を助けたいがためのものでした。
ところが実際はそれが友人にとって迷惑な状況を生んでしまい、結果は「邪魔」なものとなりました。
もし麻美子さんの提案を受け入れるとしたら、Aさんは「困ったときにこちらから電話をするから」と答えていたのではないでしょうか。
「かけなくていい」と言われたのであればそれを信じるのも、おせっかいを生まないためには大切なわきまえだと感じます。
ひとりで何とかしようとしている友人の気持ちを想像すれば、自分が割り込むことより「何かあったら連絡をしてね」と外から支えるやり方も思いつくはずです。
「私は、Aにはできないだろうと最初から決めつけていました」
と麻美子さんは話しますが、これは友人を信じていないということ。
本人のやる気を尊重せず失敗を前提にすると、それが伝わることで相手は友情を失っていきます。
この電話の後、Aさんからの連絡は減った現実が麻美子さんの心を苦しめていました。
「Aには、何か相談すれば自分の邪魔をすると思われているのかもしれません。
反省したし、あんなことはもう二度としないと言えるのですが、信じてもらえるかどうか……」
Aさんに必死に謝ったという麻美子さんは、何よりも自分がAさんを軽んじていたことを深く反省しています。
どこまで手を差し伸べるのが正解なのか
親しい友達が悩んでいれば、何とかして現状を変えてあげたいと思うのは自然なことです。
長い付き合いなら友人の性格などもよくわかっていて、だからこそ自分の助けについて大きな価値を感じることもあるでしょう。
それでも、当の本人に何とかしたい気持ちがあり、自力でやれることを探しているのであれば、その気持ちを尊重するのが「友達」としての役割ともいえます。
本人の気持ちを無視して自分のやり方を通すのが「助け」とはなりづらく、また責任を負えないことも考えないといけません。
友人が悩んでいるとき、どこまで手を差し伸べるか、本人の「こうありたい」をしっかりと聞くことが大前提。
悩みを打ち明けてくれたのなら、それに応えるのは方法を考えたり伝えたりする以外にも「本人を信じて見守る」ことも大切な友情の在り方です。
麻美子さんは「これからはあなたの気持ちを第一に考えるから」とLINEでメッセージを送りました。
それをAさんがどう受け止めるか、一度遠ざけられると信頼が戻るのは難しいのが現実。
友達を大事にする意識は、自分のやり方を相手にとっての正解にせず、本人の気持ちを尊重する姿勢が欠かせません。
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「せっかく助けてあげようとしたのに」。自分の親切心を拒否されれば、怒りが沸くのもまた当然と思います。
ですが、自分と相手の現実は違っていて、その「助け」が想像通りの価値を持つとは限りません。
自分のやり方を受け入れてもらうより、「相手が望む在り方はどうなのか」をきちんと知る意識を、忘れずにいたいですね。
(mimot.(ミモット)/ 弘田 香)