JR東海、リニア27年開業断念 官民から早期開業望む声 小異捨て大同に

リニア中央新幹線の新駅の工事が進められている中津川市に置かれた2027年開業を伝える看板=29日午後

 JR東海は29日、リニア中央新幹線の品川―名古屋間の2027年の開業を断念する方針を示した。同日、都内で開いた有識者会議で明らかにした。JR東海の丹羽俊介社長は「残念ながら27年の名古屋までの開業は実現できる状況にない」と述べた。静岡工区の着工のめどが立たず、開業時期は未定のまま。大きな経済効果を期待する中部の政財界からは、落胆の声が上がる一方で、一日でも早い開業を望む声が大勢を占めた。

 JR東海は昨年12月、リニアの開業時期について「27年は困難」としていた判断を「27年以降」に変更した。静岡工区を巡っては、静岡県の川勝平太知事が環境への影響に懸念を示しており、工事が進んでいない。
 29日に国土交通省で有識者会議「第2回リニア中央新幹線静岡工区モニタリング会議」を開催。矢野弘典座長(産業雇用安定センター会長)は「各当事者を代表する立場の方が参加し、『小異を捨てて大同につく』という見地に立って協議を進めていただきたい」と述べた。
 静岡工区は、不確実性を伴うトンネル工事の中でも極めて難易度が高い。掘削距離が長いものの、トンネル掘削工事に着手できないまま、6年4カ月が経過している。会議に出席したJR東海の丹羽社長は「静岡工区(の未着工)が名古屋までの開業の遅れに直結している。新たな開業時期についても静岡工区のトンネル掘削工事にいまだに着手の見込みが立たないため、見通すことができないが、引き続き、早期の開業を目指して全力を挙げて取り組む」と力を込めた。
「国益損なう」
 リニアの27年開業断念の方針を受け、愛知、岐阜、三重の東海3県の知事はコメントを発表した。愛知県の大村秀章知事は「沿線自治体の思いは切なるものがある。関係者が一丸となり、一日も早い全線開業の実現に取り組んでいく」とした。岐阜県の古田肇知事は「(国とJR東海は)引き続き課題を一つ一つ丁寧に解決し、品川―名古屋間のできるだけ早い時期での開業を目指していただきたい」と述べ、三重県の一見勝之知事は「開業の遅れはわが国の国益を損なっているのではないか。一刻も早く課題解決が図られるとともに、開業時期が明確になることを強く期待している」と語った。
 静岡県の川勝知事は29日午後、記者団に「リニアの整備促進と自然環境保全の両立に向け、JRとの対話をできる限り速やかに進めていく」とのコメントを出した。
再開発に影響も
 同日、中部国際空港の利用促進に関する会見に出席した中部経済連合会の水野明久会長は「(リニア開業は)地域の活性化に大きな影響を与える。引き続きサポートしていきたい」と早期開業に期待を寄せた。名古屋商工会議所の内田吉彦専務理事は「地域では都市開発などの準備を進めているため、少し残念だが、一日でも早い開業をぜひとも目指してほしい」と語った。
 一方で、ANAクラウンプラザホテルグランコート名古屋(名古屋市中区)の矢澤宏幸宿泊部長は「想定していたことなので、驚きはない」と冷静に受け止める。名古屋駅地区のホテルの担当者も「特需として見込んでいない。往来が増える一方、日帰りが増えて宿泊が減る可能性もあり、好影響ばかりではない」と指摘する。
 OKB総研調査部の中村紘子上席研究員は「当地域では27年を一つの目標にしている再開発や企業投資が多い。27年にリニアが開業できなくなったことで、これらの再開発や投資の中で期待通りの時期からの効果が得られなくなる可能性がある」と指摘している。

© 株式会社中部経済新聞社