日本列島のほぼ真ん中辺りに位置する東海地方は、古くからモノやヒトの往来が盛んで、豊かな自然と過ごしやすい気候に恵まれていることもあり、野菜づくりが盛んな地でした。
そんな東海地方には、数々の伝統野菜が地産地消されており、野菜本来の「旬」や食文化を教えてくれる貴重な存在として親しまれています。
愛知で生まれ、全国に広まった「愛知早生ふき」
日本原産のフキは、平安時代から国内で薬用や食用として使われてきた身近な春の山野草です。
中でも、明治時代から尾張(主に知多)地域で栽培されてきた「愛知早生ふき」は、やわらかくて食べやすいため、全国に広まっていったといいます。
JAあいち経済連によると、「愛知早生ふき」は、200年以上前に知多半島の加木屋村(現・愛知県東海市)で見つかった品種で、やわらかくて香りが良いのが特徴とのこと。
現在では全国で栽培されるフキの多くを「愛知早生ふき」が占めており、愛知県内では東海市、知多市、南知多町、稲沢市、愛西市などで栽培されています。
※愛知県はフキの出荷量でも全国シェアトップ(約46%/2022年農林水産省調べ)です。
本来の旬は早春ですが、ビニールハウスを使った独自の栽培技術により、10月から5月を出荷時期としているそうです。
明治時代から知多地域を中心に栽培され、現在でも生産物が入手できるという理由から、2002年に「あいちの伝統野菜」に選定されています。
煮物、炒め物、佃煮…多彩な食べ方で春を味わう
フキはあくが強く、天然毒素(ピロリジジンアルカロイド類)を含みますが、日本では昔からあく抜きして食べる習慣があり、フキやフキノトウ(フキの花のつぼみ)を食べたことによる毒素が原因と思われる健康被害の報告は無い(農林水産省)そうです。
【あく抜き】 ※料理に使う前には必ず行ってください。
1)よく洗ったフキをまな板の上に並べ、塩を少量まぶして、手のひらを使って押しつぶすようにコロコロと転がし(板ずりし)ます。
2)3分ほどゆでてから、水にさらします。
※水にさらす時間は長い方がアクがたくさん抜けます(1時間〜半日が目安)。
あく抜きといっても特別なものはいりませんし、意外と簡単ですので、今まで料理に使ったことがない人も、この機会に挑戦してみては。
以下にいくつか調理例をご紹介します。
まずは、シンプルな「ふきの煮浸し」です。
あく抜きをしたフキを、かつおだしと酒、みりん、少量のしょうゆを合わせた煮汁に入れて、ひと煮立ちさせた後に取り出し、冷ました煮汁に戻し入れて味を含ませます。
器に盛り付けた後にかつお節をのせれば、鮮やかな黄緑色、かつおだしをたっぷりと含んだ爽やかな風味、シャキシャキの歯応えが楽しめる春らしい前菜となります。
油揚げや高野豆腐を一緒に煮ても美味しいと思います。
次は「鶏もも肉とふきの焚き合わせ」です。
一口大に切った鶏肉の両面を油で焼き、酒、しょうゆ、みりん、砂糖で味付けをし、あく抜きをしたフキを加えて5分ほど煮ます。
甘辛の味付けと、鶏肉のコクと旨みがフキにしみて、老若男女に受けのいいおかずになります。
お弁当のおかずに入れてもいいですね。
ガッツリ系の豚肉との炒め物も、試してみてほしい一品です。
食べやすい大きさに切った豚肉をごま油で炒めて火が通ったら、あく抜きをしたフキを加えて炒め合わせます。
酒、みりんを加えて味をなじませたら、仕上げに麺つゆを回しかけて完成です。
豚肉はどの部位でも良いのですが、コクの出るバラ肉がお薦めです。
ご飯のお供や酒の肴に「佃煮」はいかがでしょう。
あく抜きをしたフキを、酒2、しょうゆ2、みりん1、砂糖1の割合の煮汁で、 落とし蓋をして汁気がなくなるまで弱火で煮詰めたら出来上がりです。
焦げ付かないよう、時々かき混ぜるといいようです。
最後は、ふきの葉を使った「ふき味噌」です。
沸騰したお湯に塩を少量加え、よく洗ったフキの葉を2〜3分ゆでて冷水に浸し、あくを抜きます(葉は板ずりが難しいため)。
ふきの葉をよく絞り細かく刻んで油で炒め、味噌4、みりん6、砂糖3、しょうゆ1の割合で合わせた味噌だれを加えて、弱火で煮詰めます。
味噌はお好みのものを使うといいです(写真の調理例では、合わせ味噌を使用)。
温かいご飯に合う常備菜として重宝しますし、おにぎりの具にしても美味しいと思います。
フキは低カロリー(ゆでた可食部100グラムあたり7キロカロリー)で、多彩なミネラルや食物繊維が含まれ、生活習慣病の予防に効果があるといわれます。
気候の変動の目まぐるしさについていけず、心身にわずかな不調を感じやすい春。
昔から親しまれてきた春の香りと味を楽しみながら、小さな不調も笑顔で乗り越えていきましょう。
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