水上恒司に漂う往年の銀幕スターの貫禄 『黄金の刻』でも“まなざし”の芝居が光る

3月30日に放送される『黄金の刻』(テレビ朝日系)で、西島秀俊演じる主人公・服部金太郎の青年期を演じるのが水上恒司だ。水上は3月29日に最終回を迎えたNHK連続テレビ小説『ブギウギ』で趣里演じる主人公・福来スズ子の最愛の人である愛助を演じていたのが記憶に新しい。また2023年末に公開された映画『あの花が咲く丘で、また君に出会えたら』(以下、『あの花』)では戦時中の日本にタイムスリップしてしまった主人公・百合(福原遥)が恋をする特攻隊員・彰を演じた。

話題作に立て続けに出演している水上は、『ブギウギ』や『あの花』、そして『黄金の刻』の舞台となる時代背景もあいまってか、どこか昔の銀幕スターのような風格が感じられる。そのような印象を抱かせるのは、水上が演技で見せる強いまなざしや演技への姿勢にあると考える。

たとえば、水上のまっすぐな瞳が演じている役柄の志の高さや芯の強さを体現する。水上はNHK大河ドラマ『青天を衝け』で吉沢亮演じる主人公・渋沢栄一の従弟、渋沢平九郎を演じ、その壮絶な最期は視聴者の心に強い印象を残した。無数の銃で撃ち抜かれ、血を吐きながらも、栄一から授かった誇り高き名前を叫ぶ瞬間は勇ましい。「花と散らん」と言葉を残して事切れるまで、眼光は鋭いままだった。

『ブギウギ』で演じていた愛助は結核を患い、スズ子とともに生きたいという意思に反してその体は衰弱していく。それでも愛助は最後の最後までスズ子を思い続けた。力を振り絞り、スズ子に手紙を書く、あの目に胸を打たれた視聴者は少なくないはずだ。

『あの花』で演じていた彰は、公式サイトのキャッチコピーにある通り、主人公・百合を何度も何度も助ける強く優しい人物だ。異なる時代を生きる百合の言動は、その時代を生きる人の価値観とは大きく異なる。彰はそんな百合を純粋に気にかける心優しさを持つ。とはいえ、彰は命がけで戦地へ飛ぶ運命を受け入れている。彰の意志は「日本男児」のイメージを彷彿とさせる凛とした表情や潔い立ち居振る舞いに表れている。

また水上からは、自身が演じるキャラクターがどのような思いを抱き行動しているのかを深く心に落とし込んだような、演技への真摯な姿勢が感じられる。水上が演じている役柄の感情の機微を絶妙な面持ちや所作によって見せることで、役柄の苦悩や思いが深く感じられ、その思いを通じて作品自体が伝えようとするメッセージがひしひしと伝わってくる。

『あの花』では、大切な存在となった百合への思いを胸に特攻に向かう姿がとても切なかった。彰が乗る戦闘機が飛び立った後、彼の表情は明かされない。しかし映し出されたその背中には、大切な人を守るために戦地へと飛び立つ彼の凛々しさだけでなく、大切な人との別れに対する確かな悲しみも感じられた。

もちろん、水上が演じるのはかつての時代を生きた人物ばかりではない。4月から始まる山下智久主演のドラマ『ブルーモーメント』(フジテレビ系)では、山下演じる主人公・晴原と対立する消防班班員・園部優吾を演じる。予告編を見る限り、これまた強い志を持った人物であることがうかがえる。園部は主人公と度々対立する立場にいるようだが、自然災害から人々の命を守るため、さまざまな困難を乗り越えながら成長していくはずだ。視聴者の心に残る演技を見せてくれるに違いない。

ドラマ『黄金の刻』予告編
『黄金の刻』の予告編では、「時計って、すごいな」と感嘆の声をあげる姿が印象的だ。日本初の腕時計、世界初のクオーツウォッチを発売したことで知られる「セイコーグループ」の創業者・服部金太郎の人生を重厚に描き出す今作。公式サイトに掲載されたインタビューで、水上は「青年期の金太郎さんを演じさせていただくうえで、いかに金太郎さんが《時》に魅了されていったのかという過程が大事だと思っていました」と話している(※)。主人公が時計に魅せられる重要な青年期を水上はどう演じているのか。4月から始まる『ブルーモーメント』も含め、水上がこの先見せる演技にますます期待が高まる。

参照
※ https://post.tv-asahi.co.jp/post-246238/
(文=片山香帆)

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