減少する一般入試枠…「入試制度」のあり方について、現役東大生ライターと激論

TOKYO MX(地上波9ch)朝の報道・情報生番組「堀潤モーニングFLAG」(毎週月~金曜6:59~)。「激論サミット」のコーナーでは、“日本の入試制度”について現役東大生でライターの布施川天馬さんを交えて、議論しました。

◆大学入試3手段…一般入試、総合型選抜、学校推薦絵選抜とは?

文部科学省によると、昨年入学した大学生のうち「総合型選抜」や「学校推薦選抜」といった"年内入試”で入学した学生の数が、初めて半数を超えました。

そもそも大学入試は上記の2つに加え、「一般入試」の3つの道があります。これまで主流だった一般入試は年明けに行われ、テストの点で全てが決まる一発勝負型。対して、総合型と学校推薦は年内に合否が決まります。そして、過去には"AO入試”と言われた総合型は、特定の分野に秀でた学生や世界の社会問題を発見し、学問を通し解決できる人材育成などの教育理念に合致する学生を小論文や面接で選考。一方、学校推薦は出願の条件として全科目の評点平均が一定以上であることが求められ、書類審査や小論文、プレゼンテーションなどが行われます。

現在は総合型、学校推薦を志望する高校生が多く、都内の学習塾ではそれらに対応したコースが設置されるほど。しかし、両者は留学や資格の有無など学校以外で得た経験なども重要視されるため、親の経済状況によって格差が生まれるという見方もあります。そのため一般入試で受験する生徒からは「チャンスが減ってしまうのはどうなのか」など不安の声もあがっています。

過去にAO入試で慶應義塾大学に入学した食文化研究家の長内あや愛さんは、「AO入試は1990年に始まったので上の世代の方からは"一芸入試”と誤解されるが全くの別物。問題発見をして問題解決する、そこに対して高校生のときにコミットすることで成長を促進する」とその特徴を語ります。

さらに自身がAO入試を選んだ理由について、「ひとつは(AO入試は)入試(のタイミング)が早いから、もしダメでも一般入試が受けられる。あとは、自分がなんとなくこんなものが好き、こんなことがやりたい、それがどうやって社会と繋がっているのか(AO入試を通して)知ることができるから」と明かしつつ、全てを踏まえた上で「(入試の)半分は総合型でいい」と私見を述べます。

株式会社トーチリレー代表取締役の神保拓也さんは"指定校推薦”、今でいう学校推薦で大学に入学したそうで、高校生時代については「1年~3年まで高い点数を取らないといけないのですごく大変だし、先生とのやりとりも大切。僕の場合は浪人をする余裕がなく、確実に大学を決めたいという観点から勉強を頑張れば大学に行ける、なおかつ奨学金ももらえるということで3年間学業を頑張った」と振り返ります。

総合型と学校推薦による入学生が半数を超えた現状について、神保さんは「いわゆる富裕層がそうしたものを受けられるということで、体験がお金で買えると不公平議論がなされるが、そもそも大学の進学率は昨年最高を更新したとはいえ約6割。金銭的な理由で大学進学を諦めている子もたくさんいる。そうした方々から見たら大学に行くという選択肢があること自体が贅沢であり、そこからさらにお金持ちが有利という議論をしてもナンセンス。入試制度以前のところから不公平の議論はある」と指摘。

関西大学特任教授の深澤真紀さんは、「日本は一般入試信仰がとても強い」と言います。というのも、日本で総合型が増えたのは2000年以降と歴史が浅く、一方で学校推薦は先生のお気に入りの成績優秀者のみというイメージがあるから。しかし、「実は一般入試のほうが多様性を失っていることがデータで出ている。総合型のほうが、多様性がなくなると思われがちだが、さまざまな家庭の事情、バックボーンを持った人が通りやすい」と"多様性”という側面から総合型のメリットを挙げます。

◆一般入試がなくなる!? 全てAO入試のみにする学校も!?

では、総合型と学校推薦が増えると、どんな問題があるのか。両者は面接や小論文、プレゼンテーションが重要な選考基準として設けられているなか、それらの内容を左右する学生の情報量に差が出ることを、布施川さんは危惧。「何を研究するのかを自分の言葉で話さなければならない。今はまだネットや本から得る情報でも足りると思うが、今後徐々に極まっていったときに何で差をつけるかというと、発想力、もしくは現地に赴き獲得した一次情報による説得力しかなくなる。これはつまり才能か資金力、どちらかがものを言うようになってしまうのではないか」と懸念。

また、選ぶ側についても言及。「成熟した入試があると信じたいが、選抜者側の意図によって多様性が決められている場合があるかもしれない。そうなると作られた多様性は保たれるが、それは本当の意味で多様性なのかという疑問点がある」と案じます。

この意見に対し、長内さんは「いかに選ぶ側の主観、バイアスがかからないようにするかは大変な問題で、その点、一般入試の問題の方が公正と言えるかもしれない」と納得する傍ら、「ただ、特別な経験の有無よりも、普通の経験であっても何を感じ、どう学ぶのか、特定のものに対して深掘りしていくことが総合型なのかなと思う」と全てが経済的な理由だけで決まるわけではないと意見します。

こうしたなか、東北大学では将来的に全ての入試を「AO入試」にすると発表しています。その理由は、AO入試で入学した学生のほうが一般入試の入学者よりも成績の評価(GPA・成績評価指標)が高かったから。

こうした動きに、布施川さんは「国立が全部AO入試にしてもいいものなのか」と異論を唱えます。そして、「AO入試は(一発勝負の)ペーパーテストで取りこぼしてしまう才能を取れるのは確か。ただ、(論文やプレゼンテーションで決まるとなると)逆に頭が回っても口下手の人は落ちてしまう」と課題を示唆。

アメリカでは大学入試試験に際し、高校の成績・自己PRなどをまとめたエッセイの他、年に複数回受けられる大学進学適正テストのスコアの提出が必須。高校生の段階で継続した好成績が求められ、努力した分評価されるという点では平等な入試制度と言えます。なお、海外では日本のような一発勝負型の入試制度を採用している国はわずかです。

深澤さんは、その理由について、アメリカでは元来男子校から男子大学、それも白人が中心に行くという閉鎖的な傾向があったが方向転換し、大学も共学にしてさまざま人を受け入れ始めたところからAO入試が盛んになったと解説。また、欧米ではAO入試に関して専門の職員が運営していますが、日本は教員が兼任することが多く、そのあたりから違うとか。さらには、「日本はAO入試=面接と思われがちだが、欧米ではエッセイが重要。そうなると必ずしも口下手が落ちるわけではない」と布施川さんの懸念点を払拭します。

◆日本の入試はどうあるべきか? 大学入試改革論

今回の議論を踏まえて、日本の入試制度はどうあるべきか、コメンテーター陣が発表します。神保さんは、「外野がとやかくいうことではなく"各大学の考え方に任せるべき”」と主張。大学で何を学ぶのかを見据えたビジョンを打ち出してほしい」と熱弁すると、堀は同意します。

続いて深澤さんは「みんな18歳で入学して22歳で卒業する、こんなに同一性が高いのは日本だけ」と嘆き、大学は年齢・性別・出身地域・家庭格差などが異なる、さまざまなバックボーンを持った生徒を受け入れるべきと熱望。

長内さんは、総合型や学校推薦の入学者が増えることは良しとしつつ、「ただ、受験生の気持ちからすると総合型のように先に受験機会があると変な誤解が生まれてしまう。なので、全ての受験機会を同時にしてもいいのでは」と提案します。

布施川さんは「総合型"に”反対なのではなく、やりすぎるのは良くないという話で、最大の問題は一般と総合が両方受験できること。これはつまり、お金で受験機会を2回買えるということで、双方の割合を1:1にして、どちらかを選択して受験する制度にすべき」と改革を望みます。

最後に堀は「どういう教育をしたら、その後どういう人生が待っていたのか、日本はそうしたデータが取れていない。事実に基づき、データで検証してほしい」と証拠に基づく施策を訴えていました。

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<番組概要>
番組名:堀潤モーニングFLAG
放送日時:毎週月~金曜 6:59~8:30 「エムキャス」でも同時配信
キャスター:堀潤(ジャーナリスト)、豊崎由里絵、田中陽南(TOKYO MX)
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/morning_flag/
番組X(旧Twitter):@morning_flag
番組Instagram:@morning_flag

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