底抜け(3月30日)

 国を越えて見聞を広げるかつての「インバウンド」か。江戸っ子のお伊勢参りを描いた「東海道中膝栗毛」。旅人への戒めも、ちらりとのぞく▼小田原宿で「事件」は起きる。弥次、喜多の2人は、底板を沈めて漬かる五右衛門風呂の入浴法を知らなかった。下駄[げた]を履いて入り、底を踏み抜いてしまう。当時、この風呂釜は上方では流行していたが、関東では一般的でなかったとの説もある。旅先で慣れないことは、ほどほどに―の教訓でもあるだろう▼時は現代。日本経済の底が割れ、市中に投入されたお金は無益に流れ出たのか。家庭の食費の割合を示すエンゲル係数は昨年、約28%で40年ぶりの高水準に。家計が火の車だとの証しでもある。県内のスーパーでは、「奉仕品」の表示が踊る。中央銀行は大規模金融緩和策の終わりを宣言したが、円安は解消され、物価高は鎮まるのか。借金が異次元に増えている中、国は積極財政の出口に向かうのか。先行きはいまだ見通せない▼弥次、喜多は風呂釜を弁償するはめになった。一方の財務省と日銀。国民生活の底を支える「二人三脚」とも言える道中が続く。旅の恥は…とはいえ、こちらは小さなつまずきも許されまい。<2024.3・30>

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