【県の行政監査】苦言を活性化に生かせ(3月30日)

 県監査委員が公表、県と県議会に報告した「新産業の創出・振興に係る事業成果の検証」は、県の産業政策が不十分だと手厳しく指摘した。「地域活力のベースは産業力」という意識も欠如していると断じた。苦言をエールと捉え、産業の活性化に正面から向き合ってもらいたい。

 再生可能エネルギー・カーボンニュートラル、医療関連、航空宇宙、ロボット、廃炉関連の5項目が監査の対象となった。本庁、出先、公益法人など30の機関に対して、事前の書面調査、担当者へのヒアリングなどを実施して報告書にまとめた。

 評価結果に基づいて監査委員は四つの意見を出した。その一つは、県の総合計画や商工業振興基本計画で掲げる成果指標に着目した。設定した目標に対し、再生可能エネルギー、医療福祉機器、ロボット関連などに未達成があり、達成率は65.5%にとどまる現状に危機感を示した。

 要因として、民間委託事業での委託先との綿密な打ち合わせや進行管理が十分でないことを挙げている。東日本大震災と東京電力福島第1原発事故や最近の自然災害の影響で、外部委託の割合が高まっているのが本県の特徴となっている。委託事業の成否が成長の鍵の一つともいえる。

 民間には優れた専門知識に加え、現場を熟知している強みがある。この強みを十分に生かすため、委託先と密接に連携を図る重要性を認識すべきだろう。さらに、委託先の事業者が独り立ちするための新たな支援にも適切に対応する必要がある。監査意見を踏まえ、委託先との関係を深めてほしい。

 内堀雅雄知事は、二酸化炭素など温室効果ガスの排出量を2050年までに実質ゼロにする「カーボンニュートラル」の実現を目指すと宣言している。経済活動の制約ともみられがちだが、監査委員は新たな社会価値を創造する成長の機会、新たな商機と捉えるべきとも提言した。

 福島民報社と福島テレビが昨年12月に実施した県民世論調査の結果などをみても県民は脱炭素の実現に懐疑的だ。提言を機に新たな視点での産業政策の展開を望む。新産業の創出・振興に欠かせない企業誘致は隣県に後れを取っている。スピード感を持った活動も求めたい。(安斎康史)

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