オッペンハイマー

 〈手術成功〉と暗号が送られてきた。1945年7月、受けたのはトルーマン米大統領。連合国の首脳が会談するドイツ・ポツダムに届く▲原子爆弾の爆発実験が成功したと、暗号は告げていた。降伏は時間の問題とされる日本への投下を疑問視する研究者もいたが、実験を率いた人物が異論を抑え込む▲そのリーダー、物理学者のロバート・オッペンハイマーは「この戦争は自由のための戦いだ」と夢見るように語っていたと、当時の部下は回想している。実験からひと月足らずで、広島と長崎に原爆が落とされた▲米アカデミー賞7冠の伝記映画「オッペンハイマー」の日本での公開が始まった。戦後「原爆の父」とたたえられた科学者が、やがて悔いと失意の人に一変し、その後の核開発に反対する姿が描かれる▲広島、長崎の惨状を知ったのが苦悩の始まりだが、むごさの具体的な描写はない。目を背けている、と批判がある。原爆を生み出した苦悩に踏み込んだのを「米映画の変化」という声もある▲この映画への「アンサー(答え)」となる作品をいつか…と、ゴジラ映画で注目された山崎貴監督が語っていた。取りつかれたように原爆開発へと突き進んだ「過去」、核兵器の脅威が消えない世界の「今」を問う作品に、人それぞれアンサーがあるだろう。(徹)

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