「歯を食いしばってやってきたからこそ、今がある」東京Vにレンタル中の山田楓喜、木村勇大へのサンガ曺監督の想い「応援しています」

3月のインターナショナルマッチデーが終わり、J1リーグが再開。29日の“金J”では、第5節・東京ヴェルディ対京都サンガF.C.が行なわれた。

東京Vの染野唯月、京都の川﨑颯太というU-23日本代表の活動に参加したばかりの2人に注目が集まったが、強烈なインパクトを残したのは染野の方だった。

この日の東京Vは、京都の強度の高い守備と縦への推進力に押され、前半から2点をリードされる苦しい展開を強いられたが、後半になって染野がPKで1点を返すことに成功。後半ロスタイムには、齋藤功佑の折り返しを染野が押し込み、同点弾をゲット。2-2に追いつくという劇的な幕切れとなったのだ。

殊勲の染野だが、開幕から攻撃陣を形成してきた右MF山田楓喜、FW木村勇大の2人がレンタル元の京都との契約上の問題で今回は出場不可となったこともあり、多少なりともやりづらさはあったか。

「自分が先頭に立って戦わなきゃいけないし、試合を引っ張っていかなきゃいけない。誰がいないとかは関係なく、自分がコミュニケーションを取りながら試合を進めていければなと思ってやりました」と彼は自覚を口にした。

とはいえ、やはり今季2点ずつを挙げている山田楓と木村が出場できる状況であれば、前半の試合運びや内容は違っていただろう。

「2人がいるヴェルディさんと対戦したわけじゃないので、一概に比較は難しいですけど、たぶん楓喜と勇大が出た時のストロング、逆に彼らがいない時のストロングを城福(浩)監督もきちんと整理されたと思う。どっちが良かったか悪かったかは何とも言えないですね」と、山田楓と木村を送り出している京都の曺貴裁監督はコメントした。

ただ、前半に限って言えば、2人の不在が京都にプラスに働いたのは確か。実際、木村の最前線でのポストプレーと裏抜け、山田楓の左足キックの精度の高さとフィニッシュの迫力は、東京Vの大きな武器になっている。それがなくなったのはやはり城福監督にとっては痛かったと言わざるを得ない。

今回は山田剛綺と染野を2トップに起用し、松橋優安を右MFに配置したが、迫力ある京都の守備への適応にかなり時間がかかった印象も拭えなかった。チームとして後半は巻き返したものの、前半からもっとゲームをコントロールできていれば、今季初勝利も夢ではなかったはずだ。

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「楓喜と勇大に関して言うと、セットプレーにしても、裏への飛び出しにしても、チームの力になっていると思いますし、J1の舞台で出場機会をもらって活躍することが大きな自信になっている。世界的に言うと、彼らの年齢は決して若くないですし、Jリーグの舞台に立って出場することで、得るものはたくさんあるでしょう」

曺監督は2人の活躍を前向きに捉えている様子。10~20代前半の遠藤航(リバプール)を育てた経験のある指揮官は「若い選手は試合に出てこそ成長できる」という強い信念を持っているのだ。

山田楓と木村を同じJ1クラブに貸し出したのも、「20代前半の選手はもっと試合に出なければダメだ」と考えてのこと。今季序盤の2人のパフォーマンスを見れば、その決断が正しかったと言っていい。

「忘れてはいけないのは、彼らがサンガで出られない時に、本当に歯を食いしばってやってきたこと。だからこそ、今があると思います。選手はどこへ行っても浮き沈みがあるもの。沈んでいる時に何をするかっていうのが『選手の価値』なんです。

彼らがこの1年、ヴェルディの中でチームを助けながら成長することを、僕は元のチームの監督として応援しています」と、曺監督は今後も温かい目で教え子2人を見守っていく構えだという。

パリ五輪のアジア最終予選を兼ねる4月のU-23アジアカップ参戦が確実視される山田楓、クラブに残って自己研鑽を続けるだろう木村と、それぞれの当面のプレー環境は異なるが、レンタルというチャンスを与えられた今季を大事にしなければならない点は共通している。今回の恩師・曺監督との再会、そこで受けた刺激を糧に、ここから一気に突き抜けてほしいものである。

取材・文●元川悦子(フリーライター)

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