犬1000頭を劣悪飼育…未曾有の動物虐待の求刑はわずか懲役1年 海外の判例と比べてみても…【杉本彩のEva通信】

論告求刑公判 があった2024年1月15日、 長野地裁松本支部の前で取材を受ける杉本彩さん

劣悪な環境で犬の繁殖を続けていた犬の繁殖・販売業者 「アニマル桃太郎」。その元代表百瀬被告と、従業員の男による動物虐待事件は、2021年11月に逮捕されてから、当協会は告発団体としてすべての公判を傍聴し、このコラムでも何度かその内容をお伝えしてきた。そして今年1月には、第8回目の公判が行われ、厳しい求刑を求め祈るような気持ちで傍聴した。しかし検察が出した求刑は、なんと懲役1年(動物愛護法違反)罰金10万円(狂犬病予防法違反)という、あまりに軽微なものだった。

百瀬被告は約30年間、業として繁殖を行ってきた。そのうち約14年間に渡る犬たちへの非道な扱いが、裁判の証言により明らかになっている。アニマル桃太郎の繁殖施設で、約1,000頭もの犬を劣悪な環境で狭いケージに閉じ込めて飼育し、給餌給水も十分にせず、病気や怪我をした犬にも適切な治療は施されずに衰弱させ死なせた。

5万人超の声は響かず

また、最初は動物虐待罪のみの起訴であったが、当協会が殺傷罪での追起訴を求め2021年年末から2022年1月に署名運動をしたところ、同年8月により重い「殺傷の罪」で追起訴となった。

動物虐待罪だけで終わらせてはいけないと思ったのは、百瀬被告とその従業員が、出産間近の妊娠犬の四肢を荷づくり用のヒモで縛り、ケージに仰向けにして固定化し、獣医師でもないのに無麻酔で帝王切開のような真似事をし、腹から仔犬を取り上げていたからだ。2021年6月に当協会に寄せられた元従業員から得た虐待の内部通報は、耳をふさぎたくなるような痛ましい内容で、激しい嫌悪感が湧き上がった。同時に私たちの怒りは、「そこにいる犬たちの苦しみを終わらせなければいけない」 「この残酷な虐待を一刻も早く止めなくてはいけない」 という使命感へと変わり、刑事告発に至ったのだ。

その後、先述の当協会が呼びかけ追起訴を求めた運動では、たった16日間で50,842筆もの署名を集め、検察もその民意を重く受け止めたのか、殺傷罪での追起訴という望む結果が得られた。しかし、これが量刑に影響しなければ意味がない。そこで、昨年6月には実刑を求める署名運動を行い、約4か月足らずでネット署名:46,341筆、 真筆署名 : 4,115筆、 合計:50,456 筆を集め、検察に届けた。初公判から約2年、告発状の受理からは約2年半に渡り、告発団体としてこの事件を追いかけてきた。

だが、その求刑が出る第8回公判で検察が求めたのは、懲役1年、罰金10万円だけ。その求刑を法廷で聴いた時は、にわかに信じがたく愕然とした。どれほど落胆したことか。 

動物虐待罪、殺傷罪が法改正により厳罰化され、2020年6月の施行後にも違法行為があり逮捕された事件だったことから、当協会のみならず、署名した方はもちろん、それ以外の多くの市民も実刑を強く望んだ。厳罰化後は、殺傷罪は懲役5年以下または500万円以下の罰金、虐待罪は1年以下の懲役または100万円以下の罰金となり、殺傷罪については倍以上の厳罰化、虐待罪については懲役刑が加わったのに、動物虐待において厳罰化がその求刑と判決にほとんど影響していないと感じる。

海外では10年の実刑も

しかし動物虐待の厳罰化後の日本において、その法律が先進他国と比べても甘いわけではない。動物虐待の罪で刑務所に収監される場合の刑期を最高5年以下まで引き上げ、法改正を重ね、法定刑については他国と肩を並べている。むしろ国によっては日本のほうが重いこともある。

被告に対して実刑を強く望んできた当協会だが、他国で長い懲役刑が科せられたケースはないのか調べてみたところ、アメリカでは犬に対する12件の虐待罪で8年から10年の実刑というケースがあった。他にも約 2か月の間に21匹もの猫が次々と誘拐され虐待の末に殺されるという事件では、16年の実刑となるなど、他にも猟奇的な連続動物虐待死事件では長い懲役刑が下っている。このアメリカのケースについては、人への危害にエスカレートする可能性のリスクが判決に影響を与えているのではないかと察するので、アニマル桃太郎の事件と単純に比較することはできない。ただ、今までのあらゆる動物虐待事件に対する司法の判断を見るかぎり、たとえ同じような猟奇的な連続動物虐待死事件が日本で起こったとしても、これほどの判決が下りることも、飼育禁止命令などの法令により再犯を防ぐ術も、今のところないのだ。

また、RSPCA(英国動物虐待防止協会)がある動物福祉先進国の英国でも、アメリカほど長い収監の例はなく、実刑になっている判例は大抵1年未満、多くは執行猶予や保護観察、罰金や社会奉仕や無償労働などの判例の報告がある。厳罰という印象ではないが、日本と決定的に違うのは、期間限定の飼育禁止命令、または一生涯に渡る飼養禁止命令など、再犯による動物の被害防止を目的とした制度があることだ。

また、海外でも動物販売業者はいるので、繁殖場での虐待事件もあるはずだが、それを防ぐために 「幼齢動物の販売禁止」 という動きになってきている。事業者については、特に厳しく処罰するより、虐待が起こらないよう事業自体に強い規制をかけていくという流れなのだ。

とにかく、あらゆる動物虐待事件の抑止となる司法の判断も、事業者に対する規制をはじめとした動物愛護管理法の整備も、法律の実行的な運用も、まだまだ足りないのが現状だ。

当協会は、この災害レベルの動物虐待事件について何年も声をあげ続け、風化させないよう発信してきた。けれど司法にその思いが届いたとはまるで言えない。本当に悔しいし納得がいかない。だが、世の中を変えるのは時間がかかるだろうが、これからも諦めず声を上げ、動物たちの声なき声を司法に届けていきたいと思う。(Eva代表理事 杉本彩)

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 杉本彩さんと動物環境・福祉協会Evaのスタッフによるコラム。犬や猫などペットを巡る環境に加え、展示動物や産業動物などの問題に迫ります。動物福祉の視点から人と動物が幸せに共生できる社会の実現について考えます。

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