【仕事多すぎ→部下と向き合えない→チーム内で問題多発】負の連鎖を抜け出せない「限界マネジャー」に必要な“解決策”

(※写真はイメージです/PIXTA)

業績の達成や部下育成に加えて、リモートワークでのマネジメント、ウェルビーイング、エンゲージメント向上等々…。マネジャーが対応すべきイシューは、約10年前に比べて明らかに増えました。こうした過酷な状況では望ましいパフォーマンスを発揮できず、チーム内で問題が多発するという負のループに陥ります。マネジャーの負荷を軽減しつつチームで成果を上げていくためには、どうすればよいのでしょうか? 白井剛司氏の著書『部下との対話が上手なマネジャーは観察から始める』(八谷隆之氏・吉里恒昭氏監修、日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、見ていきましょう。

多忙なマネジャーに必要なのは「観察」

マネジャーの皆さんが置かれている困難な状況や、部下との対話や関係性を変えていくために役立つのが、本書のテーマである自分と他者の心身の「観察」です。ここでいう観察とは、自己と他者を知り、身体感覚・思考・感情を体験的に捉えること。外側から冷静に見る、というよりも、「内面で起こっている状況に気づく」ことを意味します。自己と他者の観察ができるようになると、以下のような変化を起こすことができます。

観察によって起こせる変化①

~自分の言動のパターンに気づき、不本意な結果を避けることができる

自己を観察し、自分の状態を常に理解することによって、瞬間的、無意識的にやってしまう「反応的なパターン」に気づいて、それまでとは異なる思考や行動を選択できるようなります。たとえば、不利な状況に立たされるといつも感情的、あるいは回避的な態度を取っていた人が、すぐに自分の置かれた状況を理解して、周囲のアドバイスを求めたり受け入れたりするようになります。

実際、多くのビジネスパーソンは気づかないところで自分の感情や、身体感覚に本当に大きな影響を受けています。その影響や、結果を引き起こしている自分の癖やパターンに気づけていないために、不本意な結果や思いに陥っています。たとえば次のようなことはないでしょうか。

〈職場における失敗例〉

●メンバーとの1on1で落とし所を意識し過ぎて、ほとんど自分が話してしまう

●メンバーに細かく指示・命令をしたり、言動を監視してしまう

●何かを我慢しようとしたときに、つい余計な一言が出てしまう

●取引先からの無理な要求を、労力がかかるとわかっていながら引き受けてしまう

●他者に威圧的な態度を取るメンバーに適切に指導できず、そのままにしてしまう

こうした失敗が起きてしまうのは「(自己)観察」ができていない結果といえます。次々と難題やタスクが降りかかる中では無理もないことです。ただでさえ自分の感情や身体感覚に気づきにくい状況の中で、思考をフル回転させているため、さらに気づきにくくなっているのです。

不本意な結果や、よくしてしまう失敗パターンを避けるためには、「身体感覚」「思考」「感情」を注視することを習慣化します。そうすることで、まず自分が日常の意思決定や行動において、いかに身体や感情の影響を受けているのかに気づくようになります。そこに気づけたら次の段階として、不本意な結果が起きる前にその場で気づいて修正したり、望んだ結果に近づけるような選択ができるようになります。

観察によって起こせる変化②

~自分を大事にできるようになり、他者との時間も心地よいものになる

自己の観察に慣れてくると、自分自身を、以前よりも大事に扱うようになっていきます。疲れやストレスの蓄積に気づき、いかにそれが日常の思考や判断、アウトプットの質を下げているかということにも気づくからです。休息時間を確保できない場合でも、自分の疲労や消耗を自覚し、日常の中で少しでも回復できるよう努めるようになります(短い休憩や気分転換の時間を小刻みに確保する、ランチをリラックスできる空間でとるなど)。

自分の状況にまず気づき、柔らかい、心地よい心身の状態をできるだけ持続させられるようになれば、緊張が少しずつ和らいでいきますし、他の人の状態にも気づきやすくなっていきます。狭まっていた視界も広くなり、態度の柔軟性が増します。その結果、寛容で心地よい、安心できる対話の空間をつくれるようになっていきます。たとえばメンバーとの会話でも、相手の非を正そうとする前提の問題解決型の会話だけではなく、相手の行動を認めて感謝したり、相手に優しさを向けて、モチベーションにつながるような声かけができたり、日常的に冗談を言えたりするようになります。「話しているだけで気が楽になった」「話したら、少し気持ちが前向きになった」という感想が出てくるような、一緒にいると安心感が高まる関係性が築けるようになっていきます。

「自分に対して優しく、相手に対しても寛容に、では仕事の生産性が落ちるのではないか」と思われる方もいるでしょう。しかしながら、この状況がしっかり保てるようであれば、その心配は無用です。スピードが求められ、顧客や社内からの評価の目が厳しくなりがちな現代のビジネスシーンは、いわゆる「心理的安全」な状態が実現しにくい状況です。仕事を進める上で警戒・防衛的、ときに攻撃的な態度で臨む姿勢が促進される環境といえます。無自覚にその環境に身を置いているだけでは、不要な心配、余計な準備、対立的な関係性や不信が生じて、不協和音の連鎖が永遠に続いていってしまいます。それは無駄な動きや心理的なストレスが多く、一向に安心できない悪循環な状態といえるでしょう。

対して、「自分と他人に優しく寛容である」という態度が組織内で浸透すると、不要な心配や余計な準備、対立は徐々になくなっていきます。これは失敗に寛容になるというよりも、失敗の予兆が見えた時点で気軽な声かけや助け合いが起こるようになるからです。自分を大切にすることが他者への寛容さに結びつき、関係が心地よくなって組織の柔軟性が生まれます。その柔軟で安心できる状況が前向きなチャレンジやトライ&エラーを生み、最終的に成果につながっていく、という望ましい連鎖が生まれます。

観察によって起こせる変化③

~他者の心の奥底にある望みを知り、心の距離を縮められる

自分を観察・理解し、自分を大切にする経験が積み重なると、徐々に他者の状態・状況への理解も高まります。自分の内面を観ていく経験を積むことによって、相手の思考や感情などを“見立てられる”ようになるのです。自分を観るときと同じ姿勢、同じような深さで相手の言動や、奥底にある意図について理解が進み、受け取りやすくなります。

すると、相手の言葉には出ていない、

●身体(目の輝き、肩の力み、浅い・深い・弱々しい呼吸など)

●感情(怒り、恐れ、不安、悲しみ、喜び、安心感など)

●思考や真のニーズ(安心したい・守りたいと思っていること、信頼したい・してほしい、理解したい・してほしいことなど)

が想像できたり、わかるようになっていきます。

もちろん、実際に相手になってみないと、相手の状態を完全にわかることはできません。しかし、こうした、相手の心の奥底にあるものを意識するようになると、相手に対するあなたの声かけや目線が変化したり、相手の想いや状況について対話をするようになり、徐々に心の距離が近づいていきます。すると今度は、自分の考えていることや気持ちをあなたも隠さずに話す機会が徐々に増え、お互いにオープンな態度でいられるようになっていきます。

観察の積み重ねで「今の体験の質」が上がっていく

「観察によって起こせる変化」の①②③が積み重なれば、忙しい日々の中でも、瞬間瞬間に、外の状況や他者と自分の内面をしっかりと観ることができ、意志を持って状況に対応した行動が選択できるようになっていきます。そうすると、日々の仕事の煩雑さが徐々に減って、取り組むべき内容へ集中できるようになります。私はこれを「今の体験の質が上がっていく」ことだと解釈しています。

なぜなら、「今」というのは「過去の出来事・選択・決定の結果」だからです。本来マネジャーが携わるべき中長期に向けた構想や、本当に今すべき重要なことなどに、常に集中できていれば問題はないのですが、実際のところ、重要度は低いものの緊急度の高い案件への対応や、突発的なトラブル対応のウエイトが高くなっているのではないでしょうか。そして、「案件やトラブルが起こるのだから仕方ない」と思っているかもしれませんが、実はその状況は、自身の観察を起点に変えることができるのです。

観察で起こせる変化①で紹介したように、自分の状態に気づけば、不用意な言動、余分な警戒などが減っていきます。また、②③などの変化・改善によって、相手の置かれた状況についての“見立て”の食い違いなども減っていきます。都合の悪いことであってもお互いに相手に伝えやすくなり、チーム内で修正がされやすくなっていきます。今の状態(自分の外側の状況、内面の状態)に気づけるようになると、受け止め方の歪みも減って、他人とのやりとりも円滑になり、ミスや食い違いなどの望ましくない事象をそもそも発生させないようにしていけるのです。

【著者】白井 剛司

株式会社ロッカン 代表

IMA MBSR(マインドフルネスストレス低減法)認定講師

Transform LLC. セルフマネジメント認定講師

【監修】

八谷 隆之 株式会社D・M・W 代表、作業療法士

吉里 恒昭 株式会社D・M・W 理事、臨床心理士

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