もう、疲れました…年金月7万円・87歳“寝たきりの母”と暮らす、59歳“元大企業勤務”女性の悲痛な嘆き【FPの助言】

(※写真はイメージです/PIXTA)

厚生労働省「令和3年度介護保険事業状況報告書(年報)」によると、令和3年度末時点での要介護(要支援)認定者数は約690万人と、その人数は20年で約2倍に増えています。少子高齢化社会に伴い、介護は誰にとっても他人事ではない時代になっているのです。そこで、親に介護が必要になった場合の具体的な対応策について、事例をとおしてみていきましょう。石川亜希子氏FPが解説します。

愛する母のため「介護離職」を選択した娘の後悔

Aさん(女性)は59歳で無職、独身でずっと実家で暮らしています。父親は早くに亡くなり、現在は87歳になる母親と2人で暮らしています。Aさんは新卒以来、大手企業で働いていたため、経済的にも余裕がありました。しかし、約1年前に母親が脳梗塞で倒れ、生活が一変。

Aさんの母親は半身麻痺の後遺が残り、手足を動かすことが難しく寝たきりのような状態になってしまったのです。さらに、そのストレスからか温厚だった性格も怒りっぽくなってしまいました。

Aさんは、利用できる介護サービスも利用しつつ、自身も仕事のかたわら食事やトイレの介助、事務的な手続きなどに明け暮れる日々となり、次第に疲労が溜まっていきました。責任感の強いAさん、仕事でミスを連発したりするようになってしまったのにも耐えきれず、会社を退職しました。

ラクになると思って決断した「介護離職」だったが…

退職すれば少しはラクになると思っていたAさんでしたが、収入が母親の月7万円の年金のみとなり預貯金を取り崩しながら生活していくこと、母親とずっと2人きりで社会との接点が断たれたこと、自分の楽しみを見つけられないことなどが想像以上にAさんを追い詰め、心身はますます疲弊していきました。

介護サービスの担当者の勧めでFP相談に訪れたAさん。「もう、疲れました……どうすれば今の生活から抜け出せるんでしょうか」と涙ながらに話してくれました。

日本では「介護離職」が増加傾向にある

総務省「令和4年就業構造基本調査」によると、令和4年に介護や看護のために離職した「介護離職者」は約10万6,000人となっています。この数は増加傾向にあり、介護離職者が増えると労働力が減少するため、政府は「介護離職者ゼロ」を掲げていますが、あまり機能していないといえるでしょう。

家族に介護が必要となった場合、多くの人は仕事や家事育児など自分の生活と介護を両立しようとします。すべて家族の手で担うことは難しい場合も多いため、介護サービスも利用することでしょう。

しかし、介護には休みがなく、心身への多大な負荷によって介護者は次第に疲弊してしまいます。「介護に専念すればラクになる」と考えて退職したものの、Aさんのように、経済的、精神的にも余計にツラい状況に追い込まれてしまう場合も多いです。

このように、介護離職にはデメリットが大きく、まずは仕事と介護の両立を検討していくことが望ましいといえます。

「介護離職」を避けるために知っておきたいこれだけのこと

介護離職を避けるためには、精神的に追い込まれないようにする、介護サービスについて再度見直す、さまざまな支援制度を有効活用する、などが挙げられます。

まずは「介護者が精神的に追い込まれないようにすること」がもっとも大切です。1人で考えていると、どうしてもネガティブな発想に陥りやすいものです。ケアマネージャーや訪問ヘルパー、同じ悩みを持つ人など、気軽におしゃべりできる交友関係を築きましょう。話を聞いてもらえるだけでも気持ちがラクになりますし、思わぬ情報を得ることができるかもしれません。

要支援・要介護状態になると介護保険制度が適用され、介護保険法にもとづく介護サービスを1割~3割の費用負担で利用することができます。介護保険法にもとづく介護サービスは全26種類54サービスにもおよびます。利用している介護サービスについても、ぜひ見直してみましょう。

「施設に預けるのはちょっと…」という考えはもったいない

介護付き有料老人ホームは、介護保険が適用されても居住費や食費が高額な場合が多いほか、施設に預けること自体に抵抗を感じるなど、さまざまな理由で介護施設の利用を避ける人は少なくありません。しかし、さまざまな介護ニーズに応えてくれる「小規模多機能ホーム」という選択肢は知っておいてほしいです。

小規模多機能ホームは、在宅介護をしている方向けの地域密着サービスで、通い(デイサービス)、訪問(ホームヘルプ)、宿泊(ショートステイ)を組み合わせて、月額定額制(宿泊費・食費は別途)で回数の制限なく利用することができるものです。お住まいの市区町村のHPから空き状況を調べることができます。

国や自治体による「介護支援制度」はフル活用したい

そして、公的介護支援制度について正しく理解しておくことも大切です。「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」にもとづく制度として主なものに「介護休業」「介護休暇」があります。

「介護休業」は、対象家族1人につき3回まで、通算93日取得することができるものです。「介護休暇」は、対象家族1人につき年5日まで取得できます。

これらの制度だけで介護が解決するわけではありませんが、介護サービスと組み合わせることによって仕事と介護の両立を目指すことができます。

また、雇用保険には「介護休業給付金」の制度があり、給料の67%が支給されます。

これらは、会社に制度があるかどうかではなく「法律で定められている制度」です。ぜひ活用しましょう。

介護の問題は「離職」では解決しないことが多い

責任感が強く1人で抱え込んでいたAさん。人に悩みを話すようになってからは気持ちも落ち着きました。アドバイスをもらいながら介護サービスを見直し、もっと積極的に利用することにしたそうです。

そして、知り合いの会社で経理を手伝えることに。正社員時代と比べると収入は減りますが、それでも収入を確保できたこと、そしてなにより社会とのつながりができたことで、自分の人生についても前向きに考えられるようになりました。

仕事と介護の両立が困難となり退職してしまう介護離職ですが、実は、介護離職しても解決しないことが多いといえます。

介護者が退職して収入が減ったことにより、介護サービスを受ける頻度を減らすことになってしまったり、たとえ経済的に余裕があったとしても、社会との接点が減ってしまったりすることは、介護者にとって精神的ストレスを溜めてしまうことになります。

介護は育児と違って見通しがつきにくいものですが、介護の後は自分の人生が続いていくのですから、介護離職後のライフプランを明確にしないまま退職してしまうことはとても危険です。

令和7年には、いわゆる団塊世代が75歳以上となり、人口の2割が75歳以上という「2025年問題」も控えています。要介護(要支援)認定者数の増加に伴って介護離職者が増加することのないよう、介護と仕事の両立を前提に、それぞれの介護プランを作っていくことが大切です。

石川 亜希子
AFP

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